《鮮血姫》VS《狂犬》
前座もあるよ!
ヒジョーに挑発的言い方にアイゼスが我慢できるはずもなく、二つ返事で俺をかけたキャットファイト(ライオンファイトとかタイガーファイトとかの方が適切だろうが…)を受けてしまったので戦々恐々としながらこう言って俺とイヴ某との勝負もねじ込ませた。
「そこまで言うなら俺よりも腕が立つんでしょうね?大体ご主人様は一試合終えた後です。条件を揃るために俺とも戦いましょうよ」
と…!
いや、ね。二人にじろりと見られた時の恐怖感はやばかったけどイヴ某はそれを快く引き受けた。それはもう快く…
やばいな。俺で消耗させないとさすがのアイゼスも厳しい戦いになるだろう。なんとなく、そういう予感がする。
そこで俺が勝負を一つねじ込んだせいでちょっと不機嫌になってしまったアイゼスに提案した。腹パンをかまされながら…
「魔法を一つだけ使っていいことにしてもいいですかね?」
「…多分危険だぞ?」
「いいえ、策があります。なんだったら俺の時だけでも構いません」
アレを使えばワンチャンぐらいあるだろうさ。
「…わかった。おいイヴとやら。ルールを決めようじゃないか」
「ああ?勝った方がそいつのゴシュジンサマ。それ以外はいらねーだろ?」
はいはい…そんなにガンを飛ばしながら会話をしないで…
「いえ、俺は魔法も得意なんですよ。だから俺との勝負の時だけ、魔法を一種類、使っていいことにしましょう」
するとイヴは口元をにぃっと歪め、それを快諾した。
「後悔するなよ」
とか言われたんで早速後悔してるんですが。大丈夫か…?
俺の策は【影踏み】を使って一瞬で決着をつけることだ。
アイゼスには今まで世話になってきたからな。今更奴隷をやめるわけにもいくまい。
ちなみに野次共は元気だ。今度は「奴隷に金貨十枚!」「いや、《狂犬》に二十枚だ!」なんて恐ろしい会話が聞こえてくる。おいおい多分負けるぞ俺…
「それじゃあやろうぜ」
「…ええ」
無手のイヴに対して、俺はメメントモリを構えて始めの合図を待つ。武器を持ってないというのはこっちに結構なプレッシャーだ。やはり最初に俺が戦っといて正解だったかもしれない。
しかし不気味だな…【影踏み】は最後の手段にしよう。
「それでは…始めっ!」
アイゼスのその声を合図に一瞬で間を詰め、今度は横なぎに鎌を振る。しかし…
ガァン!と大質量の金属同士がぶつかる音がするとそれは防がれた。いつの間にかイヴの手には武器が握られていたのだ。
(これはファルシオンの…二刀流…?)
そう。イヴの両手にはいつの間にかファルシオンと呼ばれる幅広で、重厚な剣が握られてあった。
もっとも、素材はそれぞれ違うようだがどちらも業物だと一目で判断できる。
「いくぜ!」
そう叫ぶとイヴはファルシオンを振り回してきた。
すかさず、メメントモリをくるりと回して二つの剣を弾く。
「オラァッ!」
今度は両方そろえて打ち込んできた。クッソ重いな!一撃一撃!これじゃあジリ貧だ。そうやって下がろうとして…
イヴが詠唱を始めていることに気づいた。
「―――――」
まずい止めないと!
そう思ったが時すでに遅し。イヴの魔法の完成の方が早かった。
「―――【風王の脚】」
そう唱えられた途端、イヴの脚が風を纏った。直感的に危険だと理解する。
「ハハハ!楽しいなぁおい!」
そうやってせっかく作った距離を一瞬にして詰めてきやがった!
「クソッ!」
そう吐き捨てファルシオンを迎え撃つ。やっぱりメメントモリは小回りが利かないのが弱点だ。自分から距離を詰めるならまだしも、距離を詰められるぶんには分が悪すぎる。
「どうしたどうした!」
さっきのアイゼス以上の剣舞が一気に俺に襲い掛かってきた。うおおおお!死ぬって!
まずいな…もう手段を選んでる場合じゃない。そこでイヴが宙に跳んだ瞬間を見計らい、渾身の一撃で無理やりノックバックさせる。よし!あとは【影踏み】で…
そう立てた俺の戦術はイヴが空中に立っているのを見て瓦解した。そんなのありかよ!
そのまま空中を駆けてくる。くっそ…一か八か…!
そのままファルシオンを一本だけ受け止め、二本目を懐にわざと入れた。いいさ。捨て身の作戦だ。
そして肩に剣先が少し埋まったところで…
「【影踏み】!」
相手の影に移動した。そのまま無防備なイヴの背中にメメントモリの凶刃を突き付けようとするが…
ぐりんと音がしそうな勢いでイヴは無理やりこちらに振り返って相当重量があるはずのメメントモリを思いっきり蹴り飛ばすと、今度こそ俺の懐に入って喉元に刃を押し付けた。
「チェックメイトだ」
エメラルドグリーンの瞳が俺の眼をのぞき込む。完敗か…こりゃ相手が悪い…
イヴは満足そうに笑うとファルシオンをどこかへとしまい、俺の耳元でささやいた。
「必ず、お前を手に入れてやるからな…」
…いや、不覚にもゾクゾク来ちゃいましたけど不可抗力ですよ?浮気じゃないですよ?だからそんなににらまないでご主人様!
ちなみに肩は野次馬から出てきたムキムキの修行僧が治してくれた。
嬉しいけど嬉しくねぇ…
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「次は私とだな。準備はいいか?」
「もちろんだ。はやく始めようぜ」
今回もイヴは無手で悠然と試合が始まるのを待っている。
「――――【契約】。勝者は奴隷、ツジウラカナタの主人となる」
「それでいいぜ」
アイゼスとイヴの間で魔法での契約が行われたようだ。これでこの勝負は公のモノとなった。野次たちもさっきに続いてどっちが勝つだのと騒いでいる。
どちらかというとイヴにかけるやつの方が多いようだ。まぁさっきのを見たらな…
「魔法はなし、双方フェアプレイを心掛けてください。それでは…始めッ!」
今度は俺が合図をした。
最初に動いたのはもちろんアイゼスだ。イヴに下から切りつけていくが…
「ハッ!おせぇな!」
イヴはそれをまた『いつの間にか』握られていたハルバートで迎撃した。ハルバートというのは槍と斧が一体化したような外見をしており、どちらかというと使い手を選ぶ武器だ。
さらに自分の丈ほどもあるそれを軽々と木の棒かのように振り回してアイゼスに攻め入る。
もちろんアイゼスも負けていない。攻撃を最低限の動きでいなし、避け、相手の焦りを誘っている。が…
「シッ!」
イヴはおもむろに距離をとるといきなり得物をハルバートからファルシオンへとスイッチした。よくよく観察してみるとイヴは指十本中六本は魔力を纏った指輪をしている。恐らくあの中に武器をしまっているのだろう。ちなみにわかったのは《悪魔の炯眼》のおかげだ。試合中に気づければ…いや、変わらなかったか…
そんなことを考えている間にも攻防は巡る。
「ハハハ!なかなかやるじゃねぇか!」
「ハッ!そっちこそ…な!」
というかものすごく楽しそうだな二人とも…
俺はあそこまでマッドになれそうにないぜ…
「オラァッ!」
またイヴが武器をハルバートへ切り替え、アイゼスに上段から振り下ろした。
「チィッ!」
アイゼスはそれを紙一重で避ける。そして何を思ったか、ハルバートの上を駆け上がりだした。
「そうはいくかよ!」
そう言ってイヴがまた武器を切り替えるも時すでに遅し。
武器が消える前にアイゼスは跳躍した。そのまま体重をかけてアイゼスに切りかかる!
「ッ!クソッ!」
そこで流れが変わった。アイゼスがイブのファルシオンの一つを吹き飛ばしたのだ。左手に持っていた方を。それはくるくると後方遠くへ飛んでいき、ぐさっと地面に刺さった。
「ハハハハハ!やるじゃねぇか]
それを見るや否やイヴはアイゼスから距離を取り、そう言った。
そしてまたしてもイヴの武器が切り替わる。しかしそれはハルバートではなく…
「ちぃっと本気を見せてやるよ…《ブリューナク》!」
槍だった。先端は五叉に分かれているが二叉は柄の方に向いている。残りの三叉も真ん中の叉に向かっているため、実質、鉾が分かれていないようなものだ。
目を引くのその先端部分だけで、他はなにも目を引かなかった。
だがそれだけのはずがない。このタイミングで出してくるということはかなり強力な、イヴの切り札的武器のはず…
どうするんだアイゼス…
遂に、イヴがアイゼスへと切りかかった。
そして周りの野次馬からどよめきが起きる。
そう、速すぎる。目に見えなかったのだ。イヴの槍さばきが。
しかし、アイゼスはそれを軽々と避けた。さらにどよめきが大きくなる。
それにしてもよかった…対応できるみたいだ。
「それが本気か?ただ速いだけじゃないか」
「言ってくれるなぁおい!」
アイゼスがイヴをせせら笑いながら挑発するとイヴが今度は連続で攻撃を放った。
縦、横、斜め。上から、下から、右から、上から。突きも織り交ぜてくる。
その度にアイゼスは体を微妙にずらし、あるいは剣で受け流し対応する。本気で化け物級の実力を持っていたんだと今理解した。
光の攻防はしばらくの間続くが…いよいよ決着が訪れる。
「シッ!」
イヴが迂闊にも避け続けるアイゼスに対ししびれを切らし、踏み込んで《ブリューナク》を振るった。
それはアイゼスへ引導を渡すどころか逆にイヴの隙を作ってしまう。
アイゼスはそれを逃さず…
「もらった!」
そう言ってイヴの首へ刃を当てようとした瞬間…
「くれてやるよ!」
そう言ってイヴは武器をスイッチした…!
出したのは飛ばされていない方のファルシオン。
打ち合うかと思われたそのファルシオンとフランベルジュはぶつかることなく…
双方の首筋へと潜り込んだ。
場がシーン…と静まり返り、両者の動きが一時停止をかけたかのようにピタリと止まる。こういう場合って引き分けなんだろうか…うん。引き分けなんだろう。
「そこまで!結果は引き分けです!」
とにかく殺し合いになる前に勝負を終わらせなければ…!
そう思って宣言したが…
「マジかよ!」「やられたああああああ!」「神よ!あなたは私をお見捨てになったのか!」「俺の!俺の金貨があああああああ!」「もっとがんばれよ《狂犬》!」
というような怒号があたりに溢れかえった。急に耳元で絶叫されるととても心臓に悪い。
後で聞いた話だがこうした賭けは結構何か事あるごとに行われるらしく、「引き分けになったら金はすべて仲介人のモノになる」という暗黙の了解があるらしい。めったに起こらないので好き好んで仲介人をやるやつは少ないらしいが。
そうした喧騒の中、二人は武器を引いた。俺も少々うるさい人ごみから離れて彼女らの元へ向かう。
「やるじゃねぇか!名前は?」
そう言ったのはイヴだ。やけに満足げな顔をしている。
「お前もな…というか私の名前は知ってたんじゃなかったのか?」
そう皮肉気に返すアイゼス。
「自己紹介は本人の口からじゃないとな!」
あらどこかの誰かさんと同じようなことを言ってらっしゃる。
アイゼスの皮肉に対してもどこ吹く風だ。
「…アイゼス・シーリアだ。まぁ、仲良くしていこうじゃないか」
ため息をつきながらもアイゼスはそう言い、おもむろに差し出した。
イヴはそれを握り返す。握手だ。うんうん。仲良きことはいいことだ…
…ん?『仲良くやっていこう』…?
「ああ!よろしく頼むぜ!」
そんなイヴの目線の先には俺。嫌な予感しかしねぇ…
「すまないなカナタ。私の力不足のばっかりに…」
…ははーん。なるほど…
「…確認ですがこの場合俺はどうなるんですか…?」
俺はアイゼスに尋ねたつもりだったのだがその質問にはイヴが答えた。
「引き分けだからな。オレも今日からお前のゴシュジンサマだ」
そう答えながら俺の手をがっしりとつかんだ。冷汗がつーっと頬を伝う。
「馴染みに昔奴隷商人をやってたやつがいるんだ。早速いくぞ」
問答無用で俺はギルドの外へと連れていかれていく。抵抗しようとしたらさらに強い力で引きずられた。痛いって!
ちょっと泣きそうな顔でアイゼスを見ると、ものすごく申し訳なさそうな顔をしている。
まぁしょがないのかなぁ…しょうがないですよね?エリス様…?つか本当に予定通りなのか…
はぁ…一体全体どうなっちまうんだか…
ということでようやく第一章のヒロインを全部出すことができました。
第二章でもヒロインを新しく出す予定です。
若干キャラが被ってる二人ですが細かいところで違いを出せていければな、と思います。
ブックマーク、評価ありがとうございます!




