最終試験
リーンゴーン、と本日三回目の鐘が鳴る。いよいよ決闘の時間だ。が…
「俺は《鮮血姫》の方に一金貨賭けるぜ!」
「おらぁ奴隷の方に五銀貨だ!」
「赤髪に金貨三枚!」
「黒髪に金貨五枚!」
などと周囲が少々騒がしい。というか…
「賭けの対象にされましたね…」
「…そのようだな」
佃煮にするほど多い冒険者どもは対峙する俺らを取り囲むようにして物見遊山に来ていた。
それだけではあきたらず賭けまで始めるつもりらしい。まったく商魂たくましいというかなんというか…
「まぁいい、始めるぞ。おい!だれか始めの合図をしろ!」
アイゼスはそれに臆することもなく頼み事までする始末だ。たくましいこと…
「…確認ですけど魔法は使用禁止、相手の急所に刃をあてることができれば終了でいいんですね?」
既に戦闘態勢なご主人様に確認をとる。
「ああ。構わない」
確認が取れたので俺も武器を構えた。俺はメメントモリ、アイゼスはフランベルジュだ。
「それでは…始めいっ!」
それを合図にして一瞬で距離を詰める。
ナイトメアの効果もあるけど魔法じゃないのでセーフセーフ。そして初っ端から渾身の袈裟切りを放つが…アイゼスに刃を持ち上げられ、あっさりとかわされた。
そのままアイゼスも一撃を放ってくるが、柄を刃に寄せて防ぐ。そのまま石突を上に上げて攻撃するもすでにアイゼスは後退。
やっぱりアイゼスは強い…と思いながらさらに追撃する。
上から攻めても、下から攻めても、アイゼスは的確に攻撃を弾き、あるいはかわし、カウンターを放ってきた。
人から見ればアイゼスはそういう戦闘スタイルなのだと。そう思う奴もいるかもしれない。しかし俺は知っている。メメントモリは所有者には軽く、相手には重い。
だからこそアイゼスは自分から攻め、無理な体勢になって隙を作ることが許されないのだ。だからこその受け身。
しかし自分から攻め入らなければ勝ちは手にできない。アイゼスはいつかしびれを切らすはずだ。それを待つ。
その戦いは周囲の野次に『舞踏』という印象を覚えさせた。
離れたと思えば肉薄し、弾いたかと思えば攻撃をかわす。フランベルジュの突きはメメントモリの刃の腹で防がれ、メメントモリの斬撃はすれすれのところでかわされる。
「シッ!」
そしてついにアイゼスの方が攻勢に出た。速さをこれでもかというほどにあげた剣戟のラッシュ。キィン!キィン!とメメントモリにフランベルジュが当たる音が訓練所に響いていく。
「ハァァァァッッ!」
そして最後の、渾身の速さであろうアイゼスの突きは…
「ッ!」
俺の頬に傷を一本、入れるにとどまった。
俺はアイゼスを抱き留めるようにしてメメントモリの刃を彼女の首にあてる。
ふと、アイゼスの身体から力が抜けていった。
そして…
「申し分ないな。合格だ」
そう笑顔で言われた。
周囲から「オオオオオ!」という歓声と盛大なブーイングが聞こえてきた。文句言うぐらいなら賭けなんてやんなよ…
ふぅ…とため息をついてアイゼスから離れる。
疲れた…というか最後のは本気で死ぬかと思った…
「しかしよく最後の突きをかわそうと思ったな。てっきり弾くかと思ったぞ」
「運が良かったというか…まぁかわせば勝てるってのはわかりましたから。アイゼスさんほどの人から一本取るにはあれぐらい捨て身で行かないと」
そう。アイゼスの才能は特に『攻撃の速さ』と『受け流しのうまさ』に集中している。ようするに受けているだけでは疲れないのだ。
いくら《ハイセンス》と《ハイフィジカル》があるからといっても所詮は人の身。さらに言えば集中力はそんなに高い方ではない。
故に俺の集中力が切れる前に勝つ必要があった。長期戦になれば不利になるのは俺だ。
一度きりのチャンスを活かす。それがアイゼスが課した試験の内容だったのだろう。
そう考えてもいい気がする。
「うん…いい顔だ。甘えと驕りがなくなった。私好みだぞ」
「そうですか。ありがとうございます」
落ち着け落ち着け。この場合の私好みは恋愛の好きとは別物の感情だ落ち着け俺ビークール。
そ、そんな素敵な笑顔で微笑まれても惚れないんだからねっ!
まぁ兎にも角にもようやく明日からクエストなるものに行ける。『とりあえず今日は帰りましょうか』
そうアイゼスに提案しかけたところで…
ピシッと、場の空気が固まった。
急に歓声がピタリと止んだのだ。そして野次共が道を開け始めた。その道を通ってくるのは外套を羽織った冒険者らしき女だ。
そしてそいつは散歩でもするような気軽さで俺に近づき…
「グッ…!」
喉元に大振りのナイフを当ててきた。
「おいおい…武器を持って近づいてきたやつには警戒しろよな…それでも体を盾にして主人を守る奴隷かよ…まぁ成長の余地あり、だな」
そう言いながら喉元からナイフを外される。
違う。見えなかった。というかわからなかった。武器を手に持っていることさえ。
「…何者だ」
そうアイゼスは彼女に問いかける。
彼女はこともなげに、外套を脱ぎ捨て言った。
「イヴ。イヴ・ウォーカー。Sランク冒険者だ。お前らの戦いを見てたらなんか我慢できなくなってよ…」
そして、ごく自然にアイゼスに提案した。
「アイゼス・シーリア。この男をかけて決闘をしろ。奴隷なんだろ?じゃあお前ごときにはもったいないからな」
そういって指さされたのは俺だった。
…はい?
総合評価二百pt突破しました!ありがとうございます。
PVもそろそろ二万に届きそうな感じです。
今後もよろしくお願いします!




