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異世界で奴隷生活始めました:Retake  作者: 海峡 流
第一章 ザナウェル防衛戦
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訓練の日々

 パチッと言う音が鳴る勢いで目が開いた。思考も寝起きのもやもやした感じがなく、すぐに鮮明になる。

 ベッドから起き、体を軽く動かしてみると…


「おお」


 軽い。ものすごく軽い。とても昨日悪魔にしごかれたとは思えないほど体に疲れはなく、もちろん筋肉痛もない。かえって調子がいいぐらいだ。

 アイゼスの方を見るとまだ寝ていた。窓の外もまだ若干暗いので鐘の鳴る前なのだろう。

 さて何をしたものか…何も考えずに早く起きたもんだから手持無沙汰になってしまった。間抜けである。

 …とりあえず顔を洗おう…

 

 アイゼスを起こさないように慎重に部屋を脱出。階段を下りて井戸へと向かった。


「ん?どうした。今日は早ぇじゃねぇか」


 おかげで上半身裸のムキムキのおやじが水浴びをしてるところに遭遇してしまったのだが。おいしくねぇよ!


「はぁ…おはようございます」


 一応挨拶は返しておく。根は悪い人じゃないはずだ。懇意にしとけばいいことがいつかあると信じたい。


「おう。お前ら今日も出かけるのか?」

「はい。ギルドの訓練場へ」


 はっきりとは言ってなかったがどうせ今日も俺をしごきたがるだろう。まあ俺としても早く戦闘のイロハを身に着けたいので望むところだ。


「そうか…そういやお前ら魔術ギルドの方にも演習場があるのを知ってたか?金はかかるが魔法の教習は受けれるし初心者にはオススメだぞ?嬢ちゃんには物足りねぇかもだが」


 なるほど…俺のことを素人と思ってるのか…よし。


「【シェイド】」


「おおっ!?」


 影を一つ生み出しておやじの背後に回す。そして靴に魔力を注ぎ込み…


「【影踏み】」


 そう唱えると一瞬で視界がおやじの筋骨隆々な背中でいっぱいになった。もう少し後ろに影を動かしとけばよかったと後悔。


「おめぇ…今何しやがったんだ?魔法か…?いやでも詠唱はしてなかったし…」


 まっずい!だからもう少し慎重になれって俺!


「ん…?でもスキルで相手の後ろにいきなり回り込むってやつがあったっけか…それで正解か?」


 とこちらを振り向いて言ってきたおやじ。ここは乗っかっとこう。


「え、ええ。よく知ってましたね…」

「ガッハッハ!そうだろう?伊達に長年冒険者はやってねぇぜ!」


 冒険者か…まぁ確かにそうだろうな。この体じゃ。


「ちなみに何歳ですか?」

「そうだな…こんどの参の月で五十二だ。いやー…老いは怖い怖い」


 結構歳言ってたんだな…さしづめ引退して手持無沙汰になったから宿屋を始めたのだろう。


「へー…奥さんとかは?」

「おういるぞ。まぁ今は帝都の方までクエストに言ってるからな…一人寝がつらいぜ…」


 ん?クエスト…?五十近くのおば…げふんげふん。女性が…?なんか違和感を感じるな…


「…ちなみに奥さんは何歳ぐらいなんですか?」

「そうだな…今度のしちの月で二十五だっけか。あー…話してたら会いたくなってきたな…」


 …は?歳の差…二十七…だと…?


「お、お幸せに…?」


 動揺して変なことを口走ってしまったが…


「おうありがとよ!」


 脳内がピンク色の奴にはその違和感を感じ取れなかったみたいだ。ふぅ…

 その後は何かと世間話をしながら顔やら髪やらを洗った。世間話からも常識を拾っとかないとな…


 二十分ほどして、部屋に戻る。

 するとちょうどアイゼスが起きだしてくるところだった。


「おはようカナタ…ふわ…今日は早かったんだな…どうだ?昨日の疲れは大丈夫か?」

「はい。ばっちりとれましたよ」

「そうか…なによりだ。顔を洗ってくる。あと今日は朝飯を食べたらそのままギルドの訓練場に直行だ。用意をしとけ」


 そう言うと部屋を出て行った。半裸のおやじと鉢合うことはないだろう。

 準備することもないし…ゆっくりしておこう。


*********************

 アイゼスが戻ってきた後すぐ朝食をとりに食堂に行き、食べ終わるとギルドの訓練場へと向かった。道中はアイゼスによる常識講座だ。


「そういえばこっちの年月の単位って何なんですか?」

「年月か?そうだな…一週間は七日で最終日は安息日だ。月は壱の月、弐の月…と続いて拾弐じゅうにの月までだな。一か月は三十日だ」


 ほとんど変わらないと。ちなみに時間もほとんど変わらないらしい。ただ時計が普及していないので皆鐘で大雑把な時間を把握しているだけなんだとか。鐘楼を時計塔に変えればいいのに…とか思ってしまうのだがそれまたお金がかかるらしい。というか細かい時間はそれほど必要とされていないとのこと。文化の違いだな…


 そうこうしているうちに冒険者ギルドに着いた。朝早くにもかかわらず人で賑わっている。

 喧騒の中を通り抜けて俺たちは早速訓練場へ出た。

 

「朝は多いな…まぁいい。端っこのほうでやろう」


 アイゼスに聞くところによると朝に訓練を一、二時間してそれからクエストに行く真面目な冒険者がこの町には多いんだとか。師弟関係の人もそれなりにいるらしい。死と隣り合わせの冒険稼業だ。腕を錆びさせるのはまずいんだろうな…

 端っこへ移動してメメントモリを取り出す。目立つかとも思ったが見た目ドワーフな戦士が自分ぐらい大きいバトルアックスを振り回してたのでそれほど目立つこともあるまい。多分。

 アイゼスも抜刀した。朝日に反射して刃の表面がギラリと輝く。


「いいぞ。こい」

「いきます!ッ!」


 昨日とは違って今日はこっちから攻撃してもいいことになっている。しかし大きく横に薙いだ俺の攻撃はあっさりと受け流され、フランベルジュの凶刃があっという間に俺の喉に添えられた。


「甘いな。まずは相手が確実に受けるような攻撃をしろ。いきなり大技を放っても当たらなければ目も当てられん」

「…わかりました」


 と口では言ってもう一度、まったく同じ動きを繰り返した。アイゼスも少し予想外だったのか若干反応が遅れる。そして刃と刃がぶつかる瞬間にメメントモリを引き、背中にまわして刃の方向を変え、そのままの流れでアイゼスの背後に鎌の刃を回した。

 どやぁ…これこそメメントモリの軽さと《ハイセンス》とアイゼスの慢心を利用した戦い方…!などと悦に浸っていると…


「…卑怯な手とはいえ私相手に一本取ったことは褒めてやろう。だが私は負けず嫌いなんだ…満足いくまで打ち合おうじゃないか」


 ニッコリと、極上の笑みを浮かべながらメメントモリを自分から打ち払って距離をとってきた。あ…やばいかも…?


「…死ぬなよ」


 そう言いながら放たれたのは今までよりも更に速く、重い一撃だった。しかもそれが連撃でくるもんだから防戦一方にならざる得ない。

 結局防戦じゃん!


「まだまだ!」

「いや!ちょ!すいませんでしたあああああ!?」


 結局その死と隣り合わせの訓練は昼食まで行われた。その時間実に三時間ほど。鐘が二回鳴ったことだけしか覚えてないので正確なところはわからないが。

 アイゼスは軽く汗をかいている程度だが、俺はまたしても訓練場の地面から熱烈なハグを受けている…やっぱり俺のご主人様は異常だ…


午後は一転、カカシ相手の反復練習に入る。踏み込みが甘いだの切りつける速度が遅いだのというアドバイスがあるたびにそれを《ハイセンス》を使いながら完璧な精度で修正していく。なるほど…たしかに《ハイセンス》は超がつくほど有用なスキルようだ。


 昨日からこんな調子で練習していた動きはだいぶマシになったらしい。というか上達速度が異常だと面と向かって言われた。


 ちなみにこのカカシ、マジックアイテムらしく、切ったそばから元の姿へと復元していく。

 まぁカカシとは言っても『人型のぶよぶよした塊』…のようなもので材料がわらとかじゃない。

 なんでも肉を切った時の感覚になんとなく近いんだとか…嫌すぎる。


 メメントモリでのカカシ斬りがある程度の回数をいくと今度はそれを普通の直剣でやらされる。ロングソードだ。

 なんとアイゼスは小さいころから家にたびたび来ていた傭兵団に戦い方を教えてもらっていたらしい。


 ツェペシュ家はヴァンパイアの家系で、ヴァンパイアという種族自体分母がそんなに多くない。結果、貴族であろうが自分たちの種族で構成される、いわゆる《騎士団》を作れないらしく、代々戦力として傭兵を雇ってきたらしい。傭兵というと乱暴で粗野なイメージが付きまとうが一定のニーズがあるために《貴族御用達の傭兵団》なんてものが結構あるんだとか。


 とにかくアイゼスは傭兵たちのところに通い詰めて一から稽古をつけてもらっていた。傭兵たちも何もないときは暇なのでたいそう面白がって付き合ってくれたらしい。

 その結果、ロングソード、ショートソード、スピア、弓などはもちろん、カタール剣やソードブレイカーなんていうイロモノ武器まで使えるようになってしまったらしい。 


 デスサイズも一応は使えるらしく、それを教えてくれる点ではありがたいが…

(アイゼスの方が異常なんじゃ…)

 なんて思ってしまうのはご愛嬌ということで。

 アイゼス曰く、ロングソードは『近距離武器の代表格』なのでこれで接近戦のセオリーを学べ、といわけらしい。

 さっきから受け売りばっかだな俺…


 そしてカカシをロングソードで百体ほど屠った後、そのままアイゼスと攻防戦をやる。

 回数は大体五十に行くか行かないかぐらい。

 これが大体一日のメニューだ。ロングソードをマスターしたら次はショートソード、次はスピア…という風に内容はどんどんと変わっていったが、午前中にメメントモリを振り回すのはずっと変わらなかった。

 そうした訓練の日々は一か月に渡って続くことになる。

そろそろ彼女の出番が近づいてきました。

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