《女神の息吹亭》にて
食事を終え、ヨロヨロしながら部屋までたどり着いた。全身筋肉痛になりそうだなこりゃ…
「カナタどうする?清拭でもするか?」
たしかに汗もたくさんかいたしちょっとどうにかしたい気分だ。
「そうですね。やりましょう」
そう言って別々のベッドに腰掛けていた二人は同時に立ち上がった。少し気まずい空気が流れる。
「あー…そうだったな。カナタ、水と布を頼む」
「はい」
どうやら自分で準備しようとしたらしい。ご主人様というのも意識しないと大変なんだろうなぁ…
井戸で水を汲み、厨房から受付に戻っていたおやじに清拭用の布を二つもらい、また部屋へと戻った。
アイゼスは剣を取り出し、布で一生懸命磨いている。さすがその手のプロ。自分の使う武器は気合を入れて手入れをするらしい。
「戻りました」
一応声をかけるとアイゼスは剣を鞘にしまった。
そしておもむろに鎧を外し始める。鎧を脱ぎ終わると今度は服を脱ぎ始めた。そう、服を…
(ストップ!見ちゃだめだ!)
不審がらないようにゆっくりと視線を外した。というかいきなり裸になり始めるなよ!と文句を言いたい。
これが天然の行動ならこのお嬢様はとんだ世間知らずだわ…
無心無心。あれ?でも桶俺が持ってるじゃん!
「【―――――――ストレージ】よし。それじゃあカナタ、拭いてくれ」
相変わらず呪文は最後しか聞き取れないが…後半はなんと…?
「…えー…ち、ちょっと言い訳をさせて下さい。男の俺にはそれはちょっと刺激が強すぎます。なので背中だけとかでオネガイシタイんですが…?」
これがだめで「全身を拭け」なんて言われた時にはいつ理性を失うかもわからない。
そしてその場合待ってるのは死だ。きっとアイゼスなら切り落として殺すこともいとわないに違いない!…はず。何を切り落とされるのかはあえて言わないが。
それでもエリス様の志半ばで倒れるのは…!
そんな願いが通じたかどうかは知らないが、
「む…そういえばカナタは男だったな。家では侍女が一応ついていたからついな…でも背中を拭いてくれると助かるな。頼むぞ」
がさごそと音がしてアイゼスがこちらに背中を向けたのがわかった。
ようやくそちらに目を向ける。
そして近づいていき、恐る恐るその艶やかな背中を拭き始めた。できるだけ手が背中に触れないように…触れないように…
結局背中を丁寧に拭いていたら随分と時間がかかり、精神的疲れが溜まってしまった。ふぅ…
アイゼスの清拭は終わり、今は俺が体を拭いている。
そしてその途中びっくりすることを聞かされた。
「え?衣服って【ストレージ】に入れたらきれいになって出てくるんですか?」
「まぁ一日ぐらい入れとかないとだめだがな。それに破れた服なんかは元に戻らない。匂いとか汚れとかだけだな」
十分すぎる。あの魔法にそんな便利な機能があるなんて…
「ちなみに【ストレージ】って何魔法なんですか?」
「いうなれば誰でも使える無属性魔法だな。種類は少ないがそういう魔法があるんだ。でも属性が少ないほど入れれるものは多くなるらしいな…ちなみに第六位階魔法だから適性が四つ以上の奴には使えない。魔術ギルドで適性を無理やり減らすこともできるらしいが…強い痛みに死の危険が付きまとうらしいとかいう噂を聞いたな」
うわぁ…適性が一つでよかった…エリス様に感謝しておこう。パンパン。
そうしているうちに拭いていないところは背中だけになった。手を無理に伸ばして拭こうとしたのだが…
「ん?そうか。カナタも背中が拭きにくいな。貸せ、拭いてやろう」
そういって強引に布を奪い取ると俺に背中を向かせた。そしてしばらく動きがなくなる。
「カナタ…この背中の…いや、何でもないんだ。そ、それじゃあ拭くぞ?」
「…?は、はい」
な、なんだ?背中に変なモノでも書いてあったのか…?まぁアイゼスも言うつもりはないみたいだし、何かをやったとしたらエリス様たちなので別に問題もないだろう。…多分。
そうして背中を主人に拭かれてまた精神的疲労をしこたま溜めた後、桶をおやじに返しにいった。
「おう、ありがとさん。嬢ちゃんといい夜をな!ガハハ!」
余計なことを言われて背中をバシンと叩かれたこと以外は何ら問題なかった。
部屋に戻って、《光匣》を消す。
そのまま寝ようとしたが、そういえばと俺の頭にヒュプノス様がくれたスキルがひっかかった。
(【至上の眠り】か…完璧に体力が回復するとか…?モノは試しだな)
「…【至上の眠り】」
そう小声でつぶやく。イメージは楕円の膜のようなものが俺を包み込んでいく感じで。睡眠カプセルみたいな感じで。
すると脳内に数字が思い浮かんだ。壱から拾までが並んでいる。
(…睡眠時間か…?六時の鐘が鳴ってご飯を食べて、清拭をして…まぁ七時過ぎには宿を出てたわけか。玖に設定すれば五時に起きれるな…多分。つか俺毎日十時間ぐらい寝てたのかよ…元の世界じゃ考えられんな…)
ということで玖に設定する。なんで数字が大字かなんてのには気に留めない。ニュクス一家はどうやら中二テイストがお好きらしい。
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「あっつ…」
あまりにも暑くて目が覚めた。それもそのはず、俺は誰かに抱き付いて眠っていたからだ。でもこの天蓋付きのベッドは…
「ベルフェか…」
今日は何も思い浮かべないで寝たからこいつが呼び出したはずなんだが…
「ふぁぁ…あ、やっと来たの…?」
「やっととはご挨拶だな…」
なんて話しながらベッドを降りる。そうすると足に何かが当たった。
「漫画…?」
バッとあたりを見回す。するとゲームがあるわラノベがあるわパソコンはあるわ…ちょ!なんで俺が箪笥の奥に隠してた秘蔵の同人誌まであるんだよ!
「ようやく…カナタの概念世界から『面白いもの』を抽出できたんだよね…」
「さいですか…それより用件をさっさと言ってくれ。早くこの悪夢をおわりにしたい」
「えー…カナタのいけずぅ…」
じろりと睨み返すがベルフェはどこ吹く風といった調子だ。この野郎…
「用件はもちろん魔法だよ……リクエストがないなら勝手に決めるけど…?」
リクエストか…
「魔法とはちょっと違うかもしれないけどメメントモリとナイトメアの靴の使い方を聞きたいな」
そういえば詳しい使い方を聞いていなかったしな。
「…そっかー…じゃあメメントモリからね…」
そして語られたのは衝撃の事実だった…
「た、魂を狩る?」
「…そう。魔物でも…人でもいいからメメントモリで殺した数が大きくなればなるほど能力は解放されていく…直近の能力は【フラウガラック】…適当に分投げても必ず…手元に……戻って…」
ガクン。まぁ大体分かった。投げても必ず手元に戻ってくるか…
ベルフェを起こして続きを促す。
「んぁ…ああ、そうそう…でナイトメアの靴の方だけど…魔力を流し込めば【影踏み】が使えるようになる…よ?」
「【影踏み】?」
「【シェイド】と一緒に使うと便利…影から影に瞬間で移動できる…対人戦とかでオススメ…」
チートやないかい…
でも確かに役に立ちそうだ。
「じゃあ今日はこれぐらいで……おやすみ」
ベルフェはバタッとベッドに倒れこんだ。ものの三秒たたないうちに寝息をたてはじめる。
俺も寝よう…
やっぱりこのベッドで寝ると一瞬で眠りにつくことができた。
気まぐれ連日投稿です!
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