訓練の鬼
そのあとはギルドカードを持っている人だけが利用できる食堂へと向かった。
このようにギルドカードを持っておけば役に立つことがあるらしい。ここの資料室も使えるんだとか…
そのかわり一定期間クエストを受けなかったらそういった施設は使えなくなるらしい。まぁ当然か。
適当に食事を済ませるとアイゼスは表へと出て行かず、なぜかギルドの奥の方へと向かっていった。とはいっても結構人通りはあるが。
そのまま裏門のようなところから外に出ると…
「おお…」
コロッセウム、というとちょっと違うかもしれないが円形闘技場のようなところに出た。
といっても観客席にはだれもおらず、みんな下でカカシを切りつけたり模擬戦をやったりしている。どうやら訓練場のようだ。
「しばらくはここで体の動かし方を教えてやろう。早速今日からな。じゃあさっきのデスサイズを出せ」
「わかりました」
とりあえずメインで使いたい武器なのでよかった。俺が持つなら軽いし、でも相手には重いからアドバンテージを確保できるという利点もある。
「【ストレージ】」
と武器を取り出すとアイゼスも腰に佩いていた剣を抜いた。その剣に思わず見入る。刀身はゆらゆらと、まるで炎のような形をしている。そしてそのゆらぎ一つ一つが研ぎ澄まされていることを顕示するかのように鋭く光を反射していた。柄の部分も装飾過多というわけではないが、やはり流麗で見入るようなデザインだ。相当にいい剣のようである。…素人目にだが。
「ん、この剣の良さがわかるか?銘を《フランベルジュ》という。魔力を注げば炎を纏う。刻まれたルーンを解放すれば切れないものはなくなる。我が家の地下室に大切に置いてあったものらしいが…まぁ兄からの餞別の一つだな。だがお前の武器もすごいな。吸い寄せられるかのような黒だ。いや、実際光が反射してないのか…」
「そういえばそうなってますね…褒めてくれてありがとうございます」
言われて自分の武器に自分を向ける。たしかに、光を反射せずに深々とした黒を湛えている。それに今まで見る余裕がなかったが刃の部分も見事なものだ。このデスサイズを自在に使えることができるようになれば文字通り、死が相手を切り裂くに違いない。…こほん。こっちに来てから中二病が再発しつつあるな…
まぁ実戦で使うためにはアイゼスとの特訓を乗り切らないと話にならないんだが…
「どうしようか…とりあえずそれで私の攻撃を受けてみろ」
そう言っていきなり上段で切りかかってきた。典型的な実践で戦闘を覚えたタイプらしい。
それを柄の部分で受け止める。そのまま押し返すと存外簡単にアイゼスは離れて行った。
と思ったらすぐに切りかかってきたが。しかも下段で。
「クッ!」
それを弾くとすぐに後退した。上段に比べると格段にやりにくい。
だが俺が後ろへ下がるのをアイゼスは良しとせず、突きで追撃してくる。だが上半身を狙ったものだったのでたやすく上へそらすことができた。が、その弾いた剣跡をそのまま横薙ぎに使ってくる。それを柄の角度を変えて防いだ。しっかし防戦だと刃がめっちゃ邪魔だ。しょうがないんだろうが…
そこでようやく攻撃が止まった。
「ふぅ…」
汗を一筋垂らす。真剣同士の切りあいは結構怖いな…まぁ刺された経験はあるんだけどさ。盗賊相手に。あ、あれは切りあいじゃないか。
しかしこれと並行して魔法を使うのは大変そうだ…練習しないと。
「…息を切らしてないのはスキルのおかげか?」
そういうアイゼスも呼吸を乱してない。さっきの剣戟のキレといい、かなりの実力者なのだろう。
「多分そうだと思います」
「反射神経は?」
「それも多分スキルのおかげと思うんですが…あと足がスッと動くのは靴のおかげと思います」
ふむ、というとアイゼスは思案顔になって黙ってしまった。
だがすぐに面を上げてこう言った。
「なら好都合だ。今日はこのタイプの訓練を三十本、その後にカカシ相手に攻撃の練習。大体五十体ぐらいか。その後に普通の直剣で同じことをやろう。そこまでできるなら後は経験あるのみだからな…頑張ろうじゃないか」
そういってものすごくいい笑顔をした。ん?なんか悪寒が…
「は、はい頑張ります」
そういった傍から…
「ハッ!」
打ち込んできたのでガードする。やはり相当速い…。
そのまま訓練は続く…
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「はぁ…はぁ…」
そういって俺は地面に倒れた。まさか無敵と思っていたこの体で限界を迎えようとは…無念…ガクッ。
「何をしている?早く帰らないと夕食が食えないぞ?」
そうやって俺を立たせたアイゼスはピンピンしている。模擬戦を結局三ケタに届くぐらいまでやってなんで大丈夫なのかを本気で知りたい。三ケタってのは大袈裟か…まぁ最初に言っていた回数の倍はやった気がする。
「…わかりました」
しゃんしゃんと歩いていくアイゼスの背中を泣きながら追いかけ、宿へと向かう。七回目の鐘が鳴ってすぐなので六時ぐらいか。ちなみにこの鐘が一日のうちで一番最後に鳴る鐘だ。
帰り着くと真っ先に食堂に向かった。ちょうど空いた席に腰かけ、いつものとアイゼスが注文すると昨日とほぼ同じメニューがでてきた。スープは豆のスープでメインディッシュはステーキのようなものだった。相変わらずうまい。癪だがそのうち習いに行ってもいいな…まぁこの訓練が終わってからだな。
「どうだった?今日の訓練は」
「やっぱりきつかったですね」
まぁ元の世界じゃ運動は縁遠いものだったからな。当たり前っちゃ当たり前だ。
「そうだろうな。いくらスキルが強力だからといって基礎を疎かにするのはいけない。まぁあそこまでやってようやくぶっ倒れるならすぐに鍛える必要もないがな」
なるほど。最初から俺に限界を感じさせることが目的だったと…
…いや、嘘だ。ブラフだ。あれは自分が一番楽しんでいた。ああ、悪魔の笑みがまだ網膜に焼き付いて…
「そういえばカナタは魔法が使えるんだったな。どんなのが使えるんだ?」
「魔法ですか?そうですね…【シェイド】と【ジャベリン】しか使えないと思います」
そう言うとアイゼスの動きがまたピタッと止まった。
「…なんだその魔法は…?【ジャベリン】の方は聞いたこともないぞ?」
「そうなんですか?あ、そういえばあまり使われてない魔法とか言ってたはずです」
「私にも闇属性への適性がわずかにあるから大抵の第十位階から第七位階の闇魔法は一回ぐらい名前を調べたと思うんだが…どんな魔法か教えて貰ってもいいか?」
「影の中から槍のようなものを出す魔法ですね」
「…?だがそれではあまりに不便な魔法ではないか?」
「ええ。ですから【シェイド】と併用します」
そういうとアイゼスはもうコイツやだ…みたいな感じで頭を振ってきた。
「はぁ…どうやってるのは知らないがな…普通重ねて魔法を使うことはできないからな…?【シェイド】もせいぜい練習魔法ぐらいでしか使われないぞ?」
「…そ、そうなんですね。ええ、気を付けときます」
やっぱり俺はちょっと規格外らしい。ていうかやめて!生返事しただけでそんな冷たい眼で見ないで!
祝!二十部達成!




