ゴブニュの火炉
店を出るとちょうど本日四回目の鐘が鳴った。ちなみに明け方にならされる鐘はゆっくりと三回、それ以降はその日の何回目かというというのが鐘を鳴らす回数になる。
鐘と鐘との間隔が二時間だとして、明け方に鳴らされる鐘が六時に鳴っているとする。今は四回なったから大体正午ぐらいになるはずだ。太陽も真上だし、間違いない…と思う。そういった法則が通じない可能性もあるが。
しかしアイゼスは食事ができる場所へは行かずに、まっすぐ通りを横切って向かい側の店へと入っていった。店の名前は《ゴブニュの火炉》。どうやら武器屋みたいだ。
「らっしゃい!」
中に入るとこれまたテンプレートというか…カウンターに座っている小柄な髭もじゃの親父に話しかけられた。これは…ドワーフか。ふぅ…感動も何もないな…
「こいつに持たせる武器と防具が欲しい。そうだな…予算は金貨二十枚ほどで」
そうアイゼスが注文する。あれ?
「あのー…言ってませんでしたっけ?自分の武器ありますよ?」
「え?そんなこと言ったっけか…そういえば言ってたな。ついでだ、この場で出して鑑定してもらおうじゃないか」
そうアイゼスは場を繕った。ご主人様はちょっと天然と…メモメモ。
ちなみに物にもステータスは存在している。項目は【名前】と【効果】のみと少ないようだが。
「【ストレージ】」
そういえば中に入ってるものを忘れたら取り出せないんじゃないんだろうかこの魔法。…今度ベルフェに聞いてみるか。
空中に現れた影に手を突っ込み《メメントモリ》を取り出す。というかこれも黒なんだよなぁ…ちなみに影は勝手にメメントモリの大きさまで広がった。便利なもんだ。
柄の部分には細かい模様がびっしりと書かれているが実際に持ってみるとそういった感触は感じられない。石突から刃までが大体俺の頭を超えるぐらいで、刃は俺の腕の一本と半分ぐらいだ。目測だけど。
「これです」
そういってアイゼスに手渡そうとしたがかろうじてこれが俺以外の人にはすごく重たいことを思い出す。
「っと…重いですが大丈夫ですか?」
と一応確認。
「……店主に直接渡してくれ。ドワーフの腕力なら問題はあるまい」
どのぐらい重さの感じが違うのかな…と少しワクワクしながら言われたとおりに手渡す。
「ぐぉっ!なんでぇこれは!重すぎだろ!」
予想通りとても重たいらしい。アイゼスの細腕(?)に持たせなくてよかった…
ドワーフは苦労してそれをカウンターの上に置くと【オープンステータス】をステータスウィンドウと一緒に使った。
【名前】メメントモリ
【効果】―――――――――――――――――――――――――――
…見れなかったが。ベルフェに使い方を聞いとかないとな…タナトス様はたしか魔力を流し込むとか命を操れるとか言ってたけど。
…逆に見れなくてよかった気がしてきぞ…
「…鑑定できねぇってことはアーティファクトかなんかか?まぁなんにしろ強力な武器のようだからうまく使えばいいんじゃねぇか?まず振り回せるかどうかが問題だが」
「…そうか。わかった。カナタ、それをなおせ」
「わかりました。【ストレージ】」
そういってカウンターに直接影を発生させてメメントモリを直した。なるほど、直接触れなくてもできるらしい。
「…」
…だと思ったのだがドワーフのおっさんが唖然としているところを見ると普通じゃなかったらしい。気を付けないとなこりゃ…
「こほん。じ、じゃあ一応防具だけでいいか?」
アイゼスは今度は俺に聞いてきた。でも気になるスキルがあるんだよなー…
「すいません、一番安い剣一本と盾一枚を買ってもらってもいいですか?試したいことがあるので…」
「そうか。いいだろう。とりあえずはそれと鎧だな。まぁ最初だし…ブレストプレートとガントレット程度でいいか…何か見繕ってくれ」
「お、おう。ちょっと待ってな」
店に飾ってあるものやら奥の棚に置いてあるものやらを集めてカウンター前の大きなテーブルに並べていく。そして最後に木の盾とおそらく銅剣だろうものを持ってきた。
「ブレストは大体金貨十三枚から十六枚、ガントレットは金貨五枚から七枚だ。気になるやつがあったら説明するから言ってくれい」
するとアイゼスは手近なものから物色し始めた。俺は見てもわからないんだよなー…
なんて思いながら店を見回すと何か違和感を感じた。うーむ…しかし何かはわからない。
あ、そういえばスキルに《悪魔の炯眼》というのがあったはずだ。あれを発動させれば違和感が何かわかるんじゃないだろうか。エリス様も確か『魔力をみえるようにする』スキルとか言ってた気がしないでもないし。
ということで早速実践だ。ぶっつけだけど。
まずは目に魔力を集めるイメージをする。感覚的にだが。
「…【悪魔の炯眼】」
そう小声でつぶやくと…
「おお」
見えた。半透明のなんというんだろうか…オーラみたいなのが纏わりついている武器が多少ある。その中で一つ、一際黒いオーラを放つものがあった。違和感はこれか。恐らく。
近くに寄って見るとどうやらちょうど買い求めている胸の鎧のようだ。ブレストプレートとか言ってたか。
その鎧は濃い緑色だった。多分昆虫みたいな魔物の素材から作ってあるのだろう。やたらムシムシしたフォルムだった。…言いたいことわかるだろ?昆虫の甲殻をつなぎ合わせて使ったみたいな感じだ。
この鎧いいなー…なんて思ってるとドワーフのおっさんが近づいてきた。
「お目が高いな。これは儂が開発した鎧で、素材に使ったアラクネからとって《アラクノフォビア》って名前の鎧だ。アラクネという魔物を知ってるか?」
知らないと答えるとおっさんはこう続けた。
「アラクネってのは蜘蛛の魔物でな。クモの胴体の上に人間の女の上半身がついてるようなやつだ。それでそいつから取れる素材がこの鎧に使われてる硬甲殻と糸なんだが…つまりな、これは百パーセント魔物からできた鎧なんだ」
「百パーセント…」
「だがそのせいで微妙な《インテリジェンスアーマー》になっちまったみたいで…とにかく着心地が悪いんだよな。まるで全身を無数の蜘蛛が這いまわってるような感じがするんだと。冗談でつけた《蜘蛛恐怖症》なんて名前がホントになっちまった。効果もなんでか微妙だしな…闇魔法の威力がちょっと上がるくらいだ。一応着てみるか?せっかく目に留まったみたいだしな」
といってなし崩しに試着させられる羽目に。アイゼスはまだ装備を真剣に選んでるみたいだ…すみません…
そして着てみた感想は…
「…確かに気持ち悪い感触が全身にいきますね。拷問道具としては優秀だと思います」
「…お、おう…」
だめだ。救いようがない。どうにかすることはできないか…
そういえばさっきこの鎧のことを《インテリジェンスアーマー》って言ってたな。まんま《知恵がある鎧》って意味ならこの気持ち悪さは鎧が自分の意志で引き起こしてることになる。従順じゃないものを従順にする方法…
「これでいけるかもしれないな…【武器支配】」
すると瞬く間に濃い緑色だった鎧が黒く染まっていった。おっさんはまた唖然としている。しかも今度はわかりやすく口まで開けて。
…や、やばい。取り繕わねば…
「…き、気持ち悪い感触がなくなりました。俺になら使えそうです。値段はどのぐらいなんですか?」
と矢継ぎ早に聞くことにした。効果が微妙なのでアイゼスは怒るかもしれないが…なんとなく、この鎧は真の力を秘めている気がする。メイビー。
ち、中二病じゃないんだからね!
「あ、あぁ…どうせ売れないだろうし金貨十枚でいいが…おめぇホントに何者だ?」
「…ただの奴隷ですが」
するとまたおっさんは唖然としてしまった。よろよろとカウンターへ戻っていった。またミスったな…
とりあえずこの鎧が気に入ったことをアイゼスに伝えた。鎧を真剣に選んでいたアイゼスは冷たい眼で睨んできたが…いい防具であることを伝えたら引き下がってくれた。効果ごまかしてごめんなさい。
そのあとに《ユルルングル》という魔物の素材を使ったガントレットを選んだ。効果は腕力上昇。そんなに大きな効果じゃないらしいが消去法で、ということらしい。あんまり意味がない気もする。
「《アラクネ》にユルルングルのガントレットに木の盾と銅の剣でいいんだな?十七万七千リラだ」
アイゼスは金貨十七枚と銀貨七枚を取り出してドワーフのおっさんに渡した。どうやらさっき考えてたリラとやらの計算方法は合ってたみたいだ。
「毎度。贔屓にしてくれると助かるぜ」
次は冒険者ギルドに行くそうなのでここで鎧を着ていくことにした。なめられたら困るということらしい。




