アネモネの衣
階段とはとは逆方向にある方の通路を進み、奥の扉を開く。するとそこは…
「…いかにも酒場、って感じですね」
「そうか?さすがに朝から酒を飲む奴は聞いたことがないが…」
そういう意味じゃないけど…まぁなんというのだろうか。まさにテンプレート。冒険者の酒場だった。
そしてアイゼスはカウンターごしに奥の厨房にいた主人から朝ごはんを受け取るとそのままテーブル席へ向かった。俺もそれに倣う。
うわ!なんか受け取るときにウィンクされた!…狙われてないよな…?
そして席に着く。アイゼスは早速食べだしていた。俺もさっさと食べることにする。やはりこちらの主食はパンのようだ。それとスープ類が必ず付いてくる。今日のは…トマトのスープかな?味はさすがというべきかうまかった。
そして朝食を食べ終わるのと同時にアイゼスが今日の予定を話し出した。
「今日はカナタの服と日用品を買いに行く。そんなに色々は買わないがな…ああ、その前に魔術ギルドに行かないと悪いのか…【ストレージ】がなければ不便だろう」
「あの…そのことなんですが、昨日夢の中で精霊が教えてくれました。【ストレージ】だけですけど」
アイゼスの動きがピタッと止まった。
…待て。とっさの言い訳だがこれはひどくないか…?少なくとも元の世界で「妖精さんが~」と言ったら即変人のレッテルを張られるだろう。『精霊族』がそんなファンタジーであることを祈る!神様エリス様!
「…ああ、神の使いか。お前は本当にすごいな…私なんかあっという間に追い越されそうだ。それとこれからは神に関わることは適当に濁してくれていいぞ?いいにくいだろうしな」
そして時は動き出す…
よし!今回はたまたま…たまたま嘘八百が通ったらしい。ありがとうエリス様!
「わかりました。でもアイゼスさんにはできるだけ俺のことを把握しといてもらいたいので…場合によりけりということで」
「うん。わかった。じゃあもう【ストレージ】は使えるんだな?ならまっすぐ店の方に行こう。確か今日は開いてたはずだ」
「ちなみに何を買うんですか?」
「うむ…まぁインナーに着る服と武器を手入れするための布と油…はいらないのか。魔法の武器といっていたな。でも鎧の類はもってなかっただろう?手持ちの金貨があと三十枚だからまぁそれなりのものが買えると思う。あとは外套だな。あれは色んな役に立つからな…二人で三枚ほど買っておこう」
とにかく衣類と俺の鎧を買いに行くらしい。しかし鎧かぁ…かっこいいのがいいな…
「よしじゃあ行くか」
「はい」
そして俺とアイゼスは宿の酒場を出て街に繰り出した。
食事のプレートを返す時もおっさんがにこにこしていて気持ち悪かったが。
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街は相変わらず賑やかだ。市なんかも開かれてるようだしまだ朝早くだというのにそこかしこからいい匂いが漂ってくる。あ、焼き鳥だ。おいしそうだな…
なんて屋台に気を釣られているとアイゼスにガシッと手首をつかまれた。ちょっと痛い…
「よそ見していてはぐれるのだけは勘弁してくれよ…探すのが面倒だ」
「すいません…」
怒られてしまった…反省反省。
そのまま歩き続けること約十五分程度。それなりの人ごみの中を歩いてきたので多少余計な時間がかかった方なんだろうが…俺たちは目的の店にたどり着いた。
看板には《アネモネの衣》と書かれている。というか俺って字読めたんだな…あ、そういえば昨日も宿屋の看板が読めてたじゃないか。
今まででわけがわからない言葉はせいぜい魔法の詠唱ぐらいだ。俺は省略するから問題ないのだが。
「いらっしゃいませー!」
そう出迎えてくれたのは笑顔がとっても似合うエルフっ娘だった。みなさん!エルフですよエルフ!感動!ありがとうエリス様!
というか最近俺の中でエリス様がどんどん偉くなっていってる。そういえばこの世界には《エリス教》なんてものはあるんだろうか…まぁありそうでなさそうだ。
話を戻すと、ここは主に衣服を扱っている店のようだった。
普通の地味な服からやたら装飾華美な魔法の服まで勢ぞろいである。曰く、炎耐性。曰く、完全冷気耐性など、どれも優秀そうな性能のものばかりだ。どうやらこの店は中級者から上級者あたりを客層としているようだった。あ、冒険者のね。
「すまない、こいつに合わせたインナーと戦闘に耐えうる外套をもらいたい」
「インナーと外套ですね?それではまずインナーの方からご案内しましょう」
そういってエルフ店員はインナーがまとめて置いてあるところに俺たちを案内した。基本的には黒か白だが、ほかの色も結構見られる。赤とか青とか。
「まずは何色にしましょうか?あ、そちらの男性の方ですよね」
ちなみに俺の格好は黒の半そでシャツ一枚に学生ズボンだ。ちょっと、というかかなり格好悪い。気にしないようにしてたんだよ…
「ああ、そうだ。まぁ今着ている色と同じでいいだろう。サイズも適当に合わせてくれ。数は…そうだな、四着ぐらいで頼む」
「かしこまりました」
そういってエルフ店員は俺に何度か服を合わせると、今着ているのと同じようなものを四枚ほど選んだ。ここまではよかったのだが…
なぜかエルフ店員は急にそわそわしだした。
「あのー…すいません。お客様の着ている服はとてもいいもののようです。そこでお客様が来ているものを私どもに売ってくだされば洋服を一式、お譲りしますが…」
「…そうなのか?カナタ」
どうやら俺の着ているものに目が留まったらしい。それもそうだよな…地味だがオーバーテクノロジーなのだろう。その手の業界としてはぜひ参考にしたいに違いない。
「そうみたいですね。いい機会ですし、売ってしまってもいいですか?」
アイゼスから好きにしろとのお達しがあったので今着ている洋服を売ることした。具体的にはシャツとズボンと靴(元の世界ではいていた)である。さすがにパンツは売りたくなかったんや…
さらば思ひ出の品よ…思い入れは全くないが。
そしてエルフ店員が選んだ洋服一式とは…
「これでいかがでしょうか?」
黒づくめだった。インナー、ズボン共に。ちなみに靴は思い出してナイトメアの靴を履いた。不気味なぐらい足にフィットしていてほとんど重さを感じないというのが履いてみての感想だ。エルフ店員は何かを感じ取ったのかものすごく驚いていたが…
ちなみにナイトメアの靴ももちろん黒だ。加えて…
「…そうだ、一銭も払わないというのではやはり後味が悪いからな…なにか魔法効果がついたコートを見繕ってくれるか?あと普通の外套が二つ、欲しい」
「かしこまりました。ご予算は…」
「そうだな…金貨十枚ほどで頼む」
すると女性はこれまた黒いコートを何着か持ってきた。なんでそこまで黒にこだわるんだ…
「こちらのコートが《トロール》の皮をなめしたもので、腕力が上がる効果がかかっております。次にこっちのコートですが、これは《ヴァルトヴォルフ》の皮をなめしたものでして、回避能力が向上する効果がかかっております」
「うむ…いまいち心惹かれないな…」
まぁ昨日の腕相撲を見とけば身体能力向上系の効果は必要ないと考えて当然か。でもほかにどんなものがあるのやら…想像できないな。
「それではお値段は通常金貨十四枚と高いのですが…こちらの《バジリスク》のコートはいかがでしょう?効果は高い状態異常耐性です。今回はあの素晴らしい生地を譲ってくださるということで特別に金貨八枚でご提供させていただきます」
「…ホントにいいのか?」
どうやら急にまけはじめたっぽい。というかさっきから俺が会話に入れないんだが…俺の装備なのに…状態異常にどんな種類があるのかすらわからないからしょうがないんだけどさ。
「はい。この服を参考に作った服で長期的収入も見込めますので…これくらいは当然のサービスです」
どうやら相当に俺の服を評価しているらしい。それでアイゼスが得をできるならうれしい限りだ。
「わかった。このコートをもらおう。あとは外套だが…」
「こちらもサービスさせていただきます。えと、注文は以上でよろしいですかね?」
「ああ」
「それではしめて八万五千リラでお売りいたしましょう。外套は半額とさせていただきます」
ん?リラ?
するとアイゼスは金貨袋から八枚の金貨と五枚の銀貨を取り出した。なるほど。恐らく一金貨=一万リラ、一銀貨=千リラだ。普段は貨幣の数で言った方が相手にもわかりやすいだろうが、当然通貨の単位はあるはずである。どうやらそれがリラにあたるらしい。説明?求めませんよ。主人を煩わせないのがいい奴隷のはずだからな。知らんけど。
「はいたしかに。それでは《バジリスク》のコートです。どうぞ」
そういって渡されたコートは思っていたよりも軽かった。表面は黒い蛇の鱗のような素材で、裏はまんまなめした革のような感じだ。やばい…かっこいいかもしれない。
そしてさっそく羽織る。サイズはぴったりみたいだ。それになんというか…安心感がある。
「気に入ったか?」
「はい、とても。この装備に恥じない活躍をしたいですね」
「あんまり張り切りすぎるなよ…」
なんというか…こっちがやる気を見せると困った顔をする。あれだろうか。やはり昨日宿のおやじをやっちゃったのが悪いのだろうか。
残りの外套やら予備のインナーやらは【ストレージ】の中にしまった。ちゃんと使えるみたいだ。
「ありがとうございましたー!」
そして装い新たに、エルフ店員から見送られながら店を出た。
総合評価三桁突破しました!ありがとうございます!




