ベルフェゴールの寝室
ゆさゆさと誰かに体を揺さぶられている。寝てからそんなに経ってない気がするのだが…
まぁ随分と疲れていたし、あっという間に時間が過ぎてしまったのだろう。そう思い目を開けると…
「…どこだここ…?」
想像してみてほしい。目を覚ましたらそこがまるでイギリス王室かのような天蓋付きのものすごく豪華なベッドに横たわっている状況を…!
しかも横には絶世の美女が豪快に涎を垂らしながら寝ている。…その絶世の美女が見たこともない人なら俺は飛び上がって喜んだかもしれない。そんなうまい話はあるわけもなく…
「ベルフェ…ここはどこだ…?」
そう言って起き上がろうとしたのだがベルフェはしっかりと俺にしがみついており、起きれなかった。さっきゆすられたように感じたのはしがみついたまま寝返りでもうとうとしたベルフェのせいだろう。
というかここはマジでどこなんだ…
しょうがないのでベルフェを起こすことにする。何時間かかるかなぁ…
そう思ったのだが一度強く肩を揺さぶっただけで目を開けてくれた。奇跡か…
「ふわぁ…よく寝た…ん、カナタ……おはよ」
「…おはよう。寝起きで悪いが早速質問させてもらうぞ?ここはどこだ?」
するとベルフェはあたりをキョロキョロと見回して「ああ!」といいたいかのように手を叩いた。眠たそうな顔からはその意思が微塵も感じられなかったが…
「…ここはカナタの《概念世界》。そこに…私の…住んでる部屋…を……」
カクン。顔が下を向いてしまった。どうしたらそんなに寝れるんだ…仕方ないのでもう一回肩を揺さぶる。
よかった…起こせば起きるみたいだ。
「うわぁ……えと…そう。ここは…だから《万魔殿》…の一室…のレプリカ…?」
…なんで最後が疑問符なんだ…
まぁここはとにかく俺の《概念世界》の中のベルフェの部屋らしい。なるほど…こうやってベルフェとコンタクトをとれるのか。
「…もしかして寝るたびにこっちに来るのか?」
「…いや、カナタか私が望んだ…時だけ…今回は……私が呼んだ…」
よかった…と胸を撫で下ろす。毎回睡眠妨害されたらかなわないからな…
「そうだね…カナタから用があるときは…なんでもいいから『鍵』を思い浮かべながら寝て……それで来れるようにしておく…」
「わかった。鍵ね…」
「それじゃ……本題。魔法を…教える」
「魔法…?」
「そう…まだ【ジャベリン】しか…使えないでしょ…?それじゃ困る…」
なるほど。夢の中で魔法講座か。これがエリス様の言ってたやつね…
「それじゃあ…早速…【ストレージ】を覚えてもらうから…【ストレージ】という魔法は…」
と、早速授業が始まった。いつもの眠たげな口調で【ストレージ】は荷物を収納する空間を作る魔法であること、その空間の大きさは個人の魔力量のおおきさで決まるということが語られる。
「…これを最初に教えるのは…メメントモリやナイトメアのブーツを渡すためだから…しっかり習得すること…あとは適当に魔法を使えるようにして帰っといて…ベッドで寝ればいいから…目が覚めたらカナタの【ストレージ】にメメントモリとかを入れとくから…あー疲れた…おやすみ」
このように説明が終わると速攻で寝てしまったが…ホントにヤル気あるのかよコイツ…
まぁそんなものを悪魔に求めてもしょうがない。諦めて【ストレージ】の練習を始めた。アイテムボックスのようなものと考えればいいだろう。こう、名前を思い浮かべながら使ったらモノが出てくる感じで…
「【ストレージ】」
思い浮かべたのはナイトメアのブーツだ。メメントモリは事故りそうだったのでやめた。
呪文を唱え、手を【シェイド】のようなものにつっこみ、その中からアイテムを取り出す感じをイメージすると…
「おお」
今度の魔法は一発で成功した。まぁイメージも大体わかるし魔法自体も簡単なのだろう。第六位階と言っていたか…
その後も何度か練習した。収納、取り出しともに問題ないようだ。後はこれが現実でも使えるかということと、アイゼスにどうやって使えるようになったということを説明するかだが…
うーむ…まぁ行き当たりバッタリで大丈夫だろう。恐らく。
よし寝よう。そう思ってベッドへと目を向けると…
(そうだった…)
ベルフェが思いっきり熟睡していた。俺の前に最初に現れた時と同じ体のラインがやけにはっきりとわかる服でである。
(ええいままよ!)
思い切って布団に潜り込む。
寝れるのかなこれ…と思ったのだが不思議と眠さはすぐにやってきた。そしてそのまま意識は暗転する。
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差し込んできた朝日で目が覚めた。すっかり夜明けとともに起きるのが習慣になったな…と思いながら体を起こす。アイゼスは…
(…いないな。どこにいったんだ?)
気になって部屋を見回すがこんな狭い部屋に隠れる場所があるわけもなく…
そう頭をひねっているとドアがガチャリと開いて件のアイゼスが入ってきた。手には桶を持っている。
「ん、起きたのか。おはよう」
「おはようございます…どこに行ってたんですか?」
「…?そうか。カナタはこっちの常識をあまり知らないんだったな…。普通宿屋は部屋に桶が置いてあるんだ。そして大抵自由に使ってもいい井戸がある。そこで顔を洗ったり、清拭用の水を汲んできたりするわけだな。カナタも顔を洗ってきたらどうだ?」
アイゼスから桶を手渡される。なるほど…お風呂とかの概念がないのかね…
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
そう言って颯爽と部屋を出て行った。できれば清拭もしたいのだが…まぁ今夜アイゼスにどうすればいいのか聞こう…
そして階段を降りたところで気づいた。井戸ってどこにあるんだ、と…。
アイゼスに聞くしかないな、と思い部屋に帰ろうとすると目の端に筋肉ダルマが目に入った。そう、宿の主人だ。
「ん?紅い嬢ちゃんの奴隷じゃねぇか。どうした?」
いやに気さくだな…普通あんなことがあると気味悪がると思うんだが…
「井戸がどこかわからない」
こっちには毛頭仲良くする気はないのでわざと素っ気なく言う。
「井戸か?こっちの裏口から出たらすぐにわかる。なんだ、寝癖でも直して来いって言われたのか?ガッハッハッハ!」
むぅ…どうやら寝癖がついていたらしい。直しておこう…
「…ありがとう」
一応礼を言ってから階段脇の扉を開けた。すぐに井戸が目につく。どうやら汲み上げ式のようだ。こういうのに魔法は使わないんだな…
まぁ技術自体はあっても普及が難しいのだろう。もしくは技術自体がないか…
なんにしろ顔を洗うのには関係ない話か。とりあえず水をくみ上げ、ばっしゃばっしゃと顔を洗い、髪を落ち着かせる。よし…
久しぶりに清々しい気分となって部屋へと帰る。
「顔は洗ってきたか?じゃあ朝飯を食べに行こう」
そしてすぐに下の階へと朝食を食べに行くことになった。




