ご主人様の事情諸々
「…ということでですね…武器を自由に操れるようになるみたいです」
やっと《武器支配》の説明までが終わった。何時間話したがわからないが…少なくとも陽は落ちている。
話した内容は全部だ。つまり、自分が《堕ち人》、つまりこの世界の人間ではないこと、エリス様たちから多大な加護を受けたこと、さらに賜ったスキルや武器の説明など…休む暇なくしゃべらされた。(一回水を飲み行こうとした時剣まで抜かれたのが一番ビビった)。でもエリス様に頼まれたことやベルフェのことは内緒だ。どんな面倒になるかわかったもんじゃない。
それにしてもとんだワガママご主人様だぜ…まぁ《堕ち人》は珍しくはあるもののそれなりの人数がいるらしく、ほとんど疑問なく信じてくれたことが救いか。普通こんなに加護を持ってないらしいが。
「うん。大体は理解した。今後に活用させてもらおう。あー、しかしなんだ。私も大概だがお前も災難な目に合っているな…」
んー…私もってことはアイゼスにも結構ヘヴィな事情があるのかな?
「いえ、この状況はこの状況で退屈じゃないですし…アイゼスさんみたいな人に買われて本当に良かったです」
これは本心だ。エリス様に感謝感謝。
「そ、そうなのか?だったら別に解放してあげても…私に協力してくれるなら、だが…」
「いえ、それはだめです。エリス様の意思に反しますから。それに俺が逃げ出したりしたらどうなるんです?お人好しが過ぎますよ」
エリス様もきっと何か理由があって俺に《奴隷》という身分を与えたはず。…はずである。
それにアイゼスには悪いがこのお嬢様からは『世間知らず』感を感じる。もう少し警戒心というものを覚えてほしい。話を聞いてる最中も剣を抜いたり真横に座ってきたり(ちなみに別々のベッドに座って向かい合って話していた)、顔をずいっと俺の顔に近づけてきたり…
「そうか…まぁそんなにひどい扱いはホントにしないつもりだったんだ。さっき言った通りの働きをしてもらうよ」
「任せてください」
そうにっこりとして言った。アイゼスも微笑み返してくれる。そして和やかな空気になったところで…
「邪魔するぞ」
宿屋の主人が部屋に入ってきた。プレートを二枚持って。てめぇ…
「おめぇら話し込むのはいいんだけどよ…飯の時間まで忘れんな…」
「む、もうそんな時間だったのか…すまないな」
どうやら食べそこなった飯をここまで運んできてくれたらしい。うむ、いいやつじゃないか。
「いやいや、いいってことよ。昔から余計なことを言っちまうのが癖でな…その詫びも兼ねてる」
「今度は偉く殊勝な態度ですね」
「あー…だから悪かったって…ほれ、今日の飯だ。マテリ鳥のローストチキンにヌナシュ貝のスープ、あとは取れたての野菜を使ったサラダにパンだ。ローストチキンは一番おいしいところをよそっておいた」
などと言いながら差し出してきたプレートには説明通りのメニューがのっている。さらにおいしそうな匂いが鼻腔をくすぐって…
「…いただきます」
差し出された食事を食わないのはあまりにもったいない。質素を通り越して嫌がらせのようなメニューだった独房生活のあとならなおさらだ。そしてその味は…
「…うまい」
とても工夫された味、とでも言えばいいのだろうか。一口で手間のかかった料理というのがわかる。俺はさっきまでこいつにむかついていたことなど忘れ、料理に没頭した。
「ハッハッハ!うまいか。俺は腕っぷしと料理にだけは自信があんのよ!まぁ腕っぷしの方はお前に完敗しちまったけどよ」
「本当にご主人の料理はうまいな。この宿を選んだ甲斐があったというものだ」
アイゼスもこの味を絶賛している。ホントにうまいもんな、これ。
そうしてものの十分と経たずに俺らは料理を完食した。ふぅ…満足だ。ちなみにご主人は俺らの食べっぷりに見入ったのかそのまま部屋にいた。そして俺たちが食い終わったのを確認するとプレートを預かってくれた。エエ人やん…
「今日は悪かったな!今後も《女神の息吹亭》をよろしく頼むぜ!あとこの宿は防音にもこだわってるからなぁ…存分に楽しんでくれて大丈夫だぜ!ガッハッハ!」
バタン。自己申告通り余計なひと言を言うとさっさと部屋を出て行ったのだが。あの野郎…でも料理がおいしかったから許す。今だけ。
「そうだカナタ、わたしのことについても少し話しておこう。中々に複雑な事情があるんだ」
「ええ、わかりました」
アイゼスがそのことを言い出したのは《光匣》と呼ばれるこの世界の電球のようなものを消そうとした時だった。もちろん寝るために。ちなみにこういうもののことをマジックアイテムと呼ぶらしく、魔力の少ない一般人にも魔法の恩恵を与えるために作られた道具なんだとか。
「それでは何から話そうか…うむ、そうだな。私の元本名から名乗ろうか」
なんだか怪しい響きだな…
「元、ですか?」
「そう、元だ。私はアイゼス・ツェペシュ・シーリアという名だった。いわゆる貴族という奴だな。もっとも普通の貴族じゃなく…」
そういうとアイゼスはこちらを向いて唇を指で押し上げ、歯を見せるようにして言った。
「…魔族、それも《ヴァンパイア》の貴族なのだがな」
そう。彼女の犬歯は普通の人のそれよりも鋭く、長く、きれいなものだった。なぜ今まで気づかなかったのだろうか…不思議である。
「そうなんですね…じゃあ俺とは種族が同じってことになるんですね!いや、まだ実感は全然ないんですけ…ど…?」
そういうとアイゼスの表情はどんどん微妙なものになっていった。あれ…?なんかやらかしたか俺…?
「そう…だな。まぁ表向きにはそうなるのだが私は混血なのだ。普人族と魔族のハーフということだな」
曰く、なんでもアイゼスの父親にあたる人が普人族の女性に一目ぼれし、その間に作った子供がアイゼスなんだとか。彼女の生い立ちは想像した通り、あまり良いものとは言えなかった。
「…だが、私には《第六感》と武の才能があった。そしてその才能を認め、いつも味方になってくれた兄がいたことが不幸中の幸いだ。まぁ性格はアレなのだが…今となっては感謝している。というのも実は家でごたごたがあってな…それで私の逃げる手引きをしてくれたのが兄なのだ」
性格がアレってどんな性格だったんだろうか…
というか思った以上にヘヴィな事情だ。まさか元貴族様だったとは…だがそうならば『微妙な資金』というのも納得できる。お家騒動に乗じて逃げたのはいいもののお金をそこまで持ち出せなかったのだろう。
「そして魔族領からこの国まで逃げてきたわけだが…ここでも少々やらかしたというか…」
アイゼスから語られた話の顛末はこうだ…
気まぐれ投稿です!
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