奴隷の常識
黙々と歩き続けること約十分。気まずい雰囲気になることも忘れ、俺はこの街に圧倒されていた。
頭の上に動物の耳がついた人や外見がまんまエルフやドワーフな人。これらにも十分驚かされる。
いわく、街並みの一角には普通に武器屋や防具屋が溶け込んでいる。いわく、妖精のような小人の女の子を肩に乗せ歩く人がいる。
そう、それはまさに俺が『想像していた』通りの異世界だった。牢屋の中にいた時に考えていたのはほかでもない、この街の風景だったのだ。まぁあとは中二くさい妄想を少々…せ、戦闘スタイルとかだから問題はないはずだよね。うん。
だだ迷子にだけはならないよう、女性の後を追い続ける。
そして女性はある場所でぴたっと止まった。食堂の前で止まったので、どうやら食事をしたいみたいだ。
「いるか?カナタ。この店に入ろう」
そういうとそそくさと店の中へ入っていく。それに続けて、俺もその店へと足を踏み入れた。
店内は客でごったがえしていた。まぁお昼時だしな…
女性はひと間を縫って奥へと進み、ちょうど空いたテーブルへと腰かけた。俺もその向かいへ腰かける。あれ?でも奴隷って主人と同じ場所に座っていいものなのか…?
「あの…」
「ん?なんだ?」
なにも言わずに俺をじっと見てくる女性にしびれを切らし、話しかける。
「俺ここに座っていいんですか…?」
「ん?あぁ。まぁうるさいやつらもいるみたいだが私は気にしないぞ。お前には仕置き用の首輪なんかもつけないつもりだ」
「はぁ…」
なんか奴隷を知ってること前提で話されてる感があるな…
そこで店員さんが注文を取りに来た。女性はオーソドックスな定食のようなものを頼んだので、俺も同じものを注文する。というか店員さん猫耳でしたよ!猫耳!
などとテンションを上げていたらようやく女性は自分から語りだした。
「それでは自己紹介といこうか。私の名はアイゼス・シーリア。まぁ様付以外ならなんと呼んでくれてもいい。先ほども言った通りだがお前を虐げたりはしない。そのかわりそれ相応の働きをしてもらおう。んー…そうだな。お前の名前は知っているが一応お前の口から自己紹介を頼む」
なるほど。アイゼスか。話してみる限りでは優しいっぽい。まぁひどいご主人様じゃなかったことをエリス様に感謝しよう。
「はい。名前は辻占彼方です。あとステータスのことなんですが…色々事情がありまして売られた時よりかなり変化しています。今一度確認した方がいいかと…」
そうはなすとアイゼスの眼の色が変わった。そして身を乗り出してくる。
「それは本当か!」
なんだなんだ…いやにぐいぐいくるな…
「え、えぇ…一応…」
そう答えるとアイゼスは満足げに鼻を鳴らし、体をひいて腕を組んだ。てかどんな仕草でも絵になるのこの人…
「お待たせしましたニャ。ご注文の定食Bセットですニャ」
お、注文が来たみたいだ。つーかニャとか可愛すぎるだろ…あー…奴隷じゃなけりゃ色々な出会いがあったんだろうなぁ…モフれたりもしたんだろうなぁ…
だが贅沢は言っていられない。まぁご主人様も相当に美人だし。
あとBセットって言い方にそこはかとない違和感…ちなみに定食の中身は奴隷商館で食べたのよりはやわらかそうなパン、具だくさんのシチューに山盛りのサラダだ。なんかサラダにもそこはかとない違和感を感じるなぁ…こんなものなのか…?
それを食べながらアイゼスとの会話は続く。
「それじゃあこっちはカナタと呼ばせてもらうことにしよう。それじゃあ早速質問だが…奴隷になる前まではどんな仕事をしてたんだ?まぁ身分でもいいが」
それを聞いて思わずシチューを吹き出しかける。いきなり答えにくいんだけど…しかしここはやはり定番か。
「はい。両親が商人のようなものでして…その下で働いておりました」
「そうか…だからそんなに手がきれいなのだな。納得した」
フッ…どうですこのファインプレイ。あれ?でも結局いつかは打ち明けることになるんじゃないんだろうか…
まぁ嘘を言ったわけじゃないから大丈夫だろう。大丈夫だと祈る。
「ふむ…そうだな…それでは戦闘経験などはあるか?なんならスライム相手でもいい」
スライムいただきました!やっぱこの世界でも雑魚キャラなのか…
「いいえ。皆無です。あー…ですが体は丈夫ですよ?」
一応弁明。初っ端から役立たずと思われるのも面白くないしな…
「そうか。じゃあ訓練すれば何とかなりそうだな」
「…ええ、頑張ります」
そこはかとなく不安だ…
「ああ、期待している。…ところでカナタは奴隷制度について詳しいことは知っているか?」
エリス様は説明してくれなかったからな…
「いいえ、知りません」
「わかった。じゃあ教えておこう。奴隷が契約によって縛られていることは三つある。『反逆すれば死』『戻る意思なく逃亡すれば死』『同じ命令に五回以上従わなければ死』だ。反逆というのは主人を殺そうとすること…と考えていい。二番目のは戻る意思があれば死なないってわけでもないんだが…まぁ不測の事態で主人と奴隷が隔たれたとき用の逃げ道だな。三番目のやつは『同じ命令を知覚し、五回以上連続で』従わなければ死ということだ。だから命令が聞こえなかったのならこれに当てはまらないということだな。まぁこの規則で死ぬ奴隷はめったにいないが気を付けるように」
「わかりました…」
うわぁ…厳しいな。うっかり死んじゃいそうだよ俺…
まぁ気をつければいいのは三番目くらいかな?脳内にメモメモ。
「あと私に限っては武器の手入れは自分でやる。まぁカナタには家事的なものを任せるようになると思う。また私の訓練の相手は最優先で頼む」
「了解です」
なるほど…地味に高い俺の家事スキルが火を吹くぜ…!
総合Ptが五十を超えました!何気に嬉しいです。
ここから第一章となります。




