⑼ 収穫祭
一通り、収穫物の移動を終えたところで、司令官が私に提案した。
「この新都市で、収穫祭を行いませんか」
「収穫祭?」
「はい、これだけの食料が収穫出来た事への、大自然への感謝の気持ちを忘れない為のお祭りです」
……お祭り……ここ何年も、そのような事は出来なかった。みんな、生きる事だけで精一杯だった。
「いいですね……いや、でも、祭りの準備等、まったくしていませんので……」
「ああ、よろしければ、私の方で手配します」
「……はあ」
「では、収穫祭は3日後としましょう。収穫の喜びが冷めない内に。場所は中央広場という事で、時間は午後4時からにしましょう。収穫祭の場所と日時を皆さんにお伝え下さい。あとはこちらにお任せ下さい」
「……はい……よろしくお願い致します」
何が何だか解らない内に、収穫祭が開催される事になった。
何から何まで、本当に申し訳なく思った。
次の日、何処から沸いて出たのか、中央広場には、多くのアトラス人が、何か組み立てている。
6枚の板を繋いで、左右に1枚づつ、側面に4枚のコの字型。その数にして100台くらいだろうか。
作業している人はアトラス国の民間人のようだ。
あの中央広場に建っている建物から、次から次へと機材が運び出される。あの、魔法の扉か。
次に、何やら広場に、3mぐらいのポールが建てられ始めた。その数、100本ぐらい。
各ポールのてっぺんから他のポールのてっぺんに向けて、線が繋がれた……何だろう。
次の日、何やらまた、色々な機材を運んできている……あれは、コンロか?
そうか、これは店だ。お祭りの為に用意された出店だ……すごい。
たった2日で、これだけ大規模な祭りの準備をしてしまうとは。
そして3日目、予定通り収穫祭は盛大に行われた。
店では、見た事の無い物が作られている。
ヤキソバ、お好み焼き、うどん、そば、ラーメン、スパゲッティー、ハンバーガー、フライドポテト、ピザ、餃子、シューマイ、あんまん、肉まん……
全て無料。欲しい店に並べば、誰でも貰える。
店で作っている人は、アトラス国の民間人のようだ。
陽気な服装で陽気な笑顔。
もう、子供達は大喜びで、お祭りの会場を走りまわっている。
陽気な音楽が流れ、あたりが暗くなり始めると、ポールとポールを繋いだ線が、一斉に光りはじめた。
陽が沈んでからも、このお祭りの会場は昼間のように明るい。
そう、まさに別世界である。
いたる所に4人掛けの簡易テーブルと椅子が置かれ、お店でもらった食べ物や飲み物を、そこで座りながら食事している。
子供達には、ミルクシェーキやメロンソーダが大人気だった。
今回、このお祭りで、お酒も用意された。ビールとカクテルである。
ビールは我が国にもあるが、これほどクリアなビールは始めてとコノエが言っていた。
カクテルは始めて見るお酒で、お酒そのものの美しさに酔いしれ、女性からは大人気だった。
この国の飲酒年齢は、16歳以上と定めている。
それは、そもそもお酒等、手に入らないからである。
数年に1度、手に入った時は、家族でお酒を飲みながら、楽しいひと時を過ごして欲しいとの計らいによるものだ。
しかし、今後普通にお酒が入手出来るようになるとすれば、飲酒年齢、もう少し上げる必要があるかもしれない。
私と司令官は、一緒にお祭りの会場をまわっていた。
私は出店でカップに入れられたフライドポテトとオレンジ色のカクテルをもらい、司令官も私に付き合ってオレンジ色のカクテルをもらった。
私と司令官は空いているテーブルに向かい合って座った。
そして司令官にお礼を述べた。
「こんなにみんな嬉しそうに笑顔を向けてくれます。本当に、司令官様のおかげです」
「いえ、この国が崩壊した後、この国を1つにまとめてくれました。媛さまの功績が大きいです」
……うぅぅ、また私を口説こうとして。
するとシノブが現れ、いきなり司令官の後ろから抱き付いてきた。
「司令官さまー」
な、なんと、シノブ、酔っぱらっているではないか。
「司令官さまー、シノブは今、サイコーに幸せですぅ」
お、おのれシノブ、私でさえそのような事した事ないのに……あああ、なんという事だ、司令官の背中に胸を押し付けて、体をうねうねさせて……。
私が慌てて立ち上がろうとした時、コノエがシノブの両腕を掴んで司令官から引きはがした。
「さあ、シノブ殿、司令官様がお困りですぞ」
そう言って、酔っ払いシノブを連れ出してくれた。
司令官は、静かに笑っている。
「いや、以前、シノブ殿から恋文を頂きまして」
「な、なんと!」
し……シノブめ、いつのまに……
「いえ、グランバルからの奇襲の時、あなたがたに書いて頂いた反省文です」
「えっ、しかしあれは……」
「ええ、最初の2枚までは『ごめんなさい、もうしません……』等といった内容がつづられていましたが、さすがに5枚書くとなると、言葉が無くなってしまったようで、3枚目あたりから、私への熱い思いがつづられていました」
なんと! 既にあの時から、ぬけがけしていたとは!
「まあ、私は原稿用紙5枚を埋める為に、無理やりひねり出した文と解釈しています」
「そ、そうですか……いえ、そうです!」
「はい。しかし媛さまの反省文には、心打たれました」
「へぇ?」
「最初の2枚ぐらいは、シノブ殿と同じような『ごめんなさい、もうしません……』といった文がつづられていましたが、3枚目あたりから、媛さまの国民を思う気持ち、国民に対する謝罪の気持ち、伝わってきました」
その言葉を聞いた時、私の眼から涙が溢れている事に気付いた。
すると、司令官の後ろに人影を感じた。
「ああっ、司令官、女性を泣かしている、いっけないんだぁー」
見ると、以前、司令官の秘書を名乗った女性だった。
「私もご一緒して良いですか」
私は、慌てて涙をぬぐって答えた。
「はい、ごめんなさい、どうぞ」
司令官が、彼女を紹介してくれた。
「彼女は、私の身の回りの世話をしてくれている、ユキさんです」
「司令官、誤解を招くような言い方、しないで下さいよー」
「あ、私はクレアと申します、よろしくお願いします」
「はい、お会いするの2度目ですよね、ユキと呼んで下さい。これからもよろしくお願いします」
私は、すっかりユキさんと仲良しになってしまった。
……うん、ユキさんの胸をみると、私も大丈夫だ。
そして、10時を過ぎた頃、アトラスの収穫祭実行委員長から、話しが流れた。
「えー大変楽しいお祭りではありますが、このへんでお開きにさせて頂きたいと思います。今後とも、ラィンテリア国とアトラス国との良好な関係が続きますように、来年もまた、ここで収穫祭を開きましょう」
お祭りに参加した人達から、一斉に拍手と歓声があがった。
すると、お祭りの会場を照らしていた照明が一斉に消えた。
それと同時に『ヒュー』といった音が鳴り響いた。
そして、東の夜空に光輝く巨大な花が咲いた。
『ドーン』といった音と共に、その花は消えていく。
その後、次から次へと、大きな花が夜空に咲いた。
私達は、始めて見るその巨大魔法に、言葉を失った。
そして、最後の大輪の花が咲いて消えた時、会場の照明が静かに灯された。
人々は驚きのあまり、放心状態である。
何も言わず、みんな静かに家路に向かった。
私は、このお祭りで仕事されていた人達に、感謝の気持ちを伝えながら回った。
すると、私が頂いたお酒の店主が、私に近づいてきた。
「これ、残り物ですが、媛様がお飲みになられたお酒を詰めたものです。もしよろしければ、お持ち帰りください」
「ああ、ありがとうございます。こんなに美味しいお酒は始めてです。スクリュードライバーといいましたか」
「はい。オレンジジュースと蒸留酒を混ぜたものです」
「今日は皆さんに対して、感謝の気持ちで一杯です」
お礼を述べて城へ帰った。
その日、祭りの興奮がなかなか冷めず、寝る事ができなかった。
私は司令官に、想いを寄せ始めているようだ。
次の日、お祭り会場だった中央広場は出店等の撤収作業が進んでいた。
1日ですっかり何も無い中央広場に戻り、非常になごり惜しい気持ちになってしまった。
この気持ちは私だけではないはずだ。
必ず来年も収穫祭が行えるようにしてみせる。
私は心に誓った。
なんという事でしょう。
クレアの国は敗戦国となり、過酷な未来を覚悟していました。
ところがアトラスの人たち、皆さん優しくて、復興に尽力してくれます。
こんなに優しくして頂いて……大丈夫でしょうか?
次回:(第1章 終話)見てはいけないもの




