⑽ 見てはいけないもの
シノブが貴重な情報を入手した。
アトラスの本国から、南の天王がラィンテリアに、お忍びで来られるとの事。
非公式訪問との事らしい。
祭りの日、シノブが司令官の部下と飲みながら入手した情報との事。
どんな手を使って……いや、考えまい。
南の天王と言えば、アトラス国、四天王の一角ではないか。
という事は、あの司令官は南の天王の配下である可能性が高い。
ここは1つ、私もこの国を治める者として、お見知りおき願いたいものだ。
しかし、お忍びとの事で、司令官にお願いしても断られてしまうだろう。
ここは物陰に隠れていて飛び込んでみよう。
私の存在を知って頂ければ、それだけでいい。
シノブの情報によると、新都市の中心、あの魔法の扉から来られるようだ。
あの建物の内部には、さまざまな機材が置かれていた。
物陰に隠れて、出て行くタイミングを計れば……よし、完璧だ。
そう、私はその時、調子に乗りすぎていたのだ。
・・・・・・
私は、シノブが入手した情報を信じて、中央広場に建てられた建物に入り、魔法の扉が見える物陰に隠れ、じっとその時を待っていた。
途中で見つかってしまうと追い出されてしまうので、コッソリと私一人で来た。
やがて司令官が2人の部下と共に現れた。
シノブの情報、正しかったようだ。
すると司令官は、2人の部下をこの建物の外で待つよう指示し、建物の扉を閉めた。
丁度その時、魔法の扉が開いた。
中から3人出て来た。
驚いた。真ん中に立つ者が南の天王だろう。若い女性である。
その左右に立つ男性は側近のようだ。
その女性も2人の側近に指示し、2人の側近は会釈して魔法の扉の中へ入り、扉は閉じた。
な、なんと、この場所に、司令官と南の天王、2人きりではないか!
本当は私もいるから3人なのだが、あの2人、人払いをした?
南の天王……美人だ。
胸は……ある……大きくはないが。
司令官は今回の件で、自ら志願して、ここへ来たと聞いている。
うー司令官め、あの南の天王の色香に惑わされたか!
いや、あの南の天王が配下である司令官を慕い、ここまで逢いに来た?
2人は、お互い近づくように歩いた。
何にしても、人払いして忍び逢いとは……ふしだらな、けしからん!
私は、自分の手を握り締めていた。
その時、私は見てしまった。
それは、見てはいけないもの……知ってはいけない事。私の直感が伝える。
南の天王は司令官に近づくと、司令官にひざまずき、頭を下げたのである。
私は必死に息を潜め、震える体を抑えながら見ていた。
司令官が南の天王に声をかけた。
「スジャク、お疲れ様」
……スジャク……南の天王の名前?
「ありがとうございます、カオス様」
……カオス……それが司令官の名前……。
「本国は、どうですか?」
「はい、カオス様が留守のあいだ、何かあってはいけないと、我ら4人、力を合わせて国をお守りしております。何の問題もありません」
「ありがとう。報告は受けていますが、君から直接聞く事が出来て安心しました」
「ありがとうございます。それで、カオス様にとりまして、お探しのもの、見つかりましたでしょうか?」
……お探しのもの?
「いや、まだ、なんとも」
「この私が叶わない事、残念な思いです」
「これは、我ら皇帝一族に課せられた使命ですので……許してほしい」
「いえ、差し出がましい事を口にしてしまいました。お許し下さい」
……皇帝?
「残念ながら……『天空の媛』が現れない今は……」
「……はい」
……天空の媛?
「さあ、行きましょう。この扉の外からは、私は貴女の配下ですのでよろしく」
「……かしこまりました」
2人は、この部屋を後にした。
そして私は、目立たないように城へ戻った。
自室に戻り、椅子に座った。
頭の中を整理する。
司令官は、自らを皇帝と言っていた。
アトラス国は、4人の天王によって治められていると聞いていたが、実はその4人を束ねる更に上が居て、それはアトラスの国民にも知らされていない。
そしてその人とは、偽りの肩書を持ってこの国に来た司令官だった。
司令官が、ここへ来た本当の目的は、何かを探す為?
私にとって、理解出来ない事が2つある。
我々にとって、魔法のように思えるあの技術、何故あの国は持ち合わせているのか。
そして、アトラス国の四天王を束ねるあの司令官、何故素性を隠している。
現在この国は、王制を廃止し、民主国家となった。
いまだに私は媛と呼ばれているが、それは単に愛称のようなもの。
一般国民となった事には違いない。
今の私は、国を治める立場にいるが、それはこの国が復興するまでといった国民との約束。
その後は選挙によって、新しい国の代表が誕生する。
そして私はその任から降りて、司令官の下で、この先の将来を送る。
そう思っていたのだが……バカだ。
私は彼を、ただの司令官と思い込んでいた。
だから司令官との契約、そのような理解をしてしまったのだ。
司令官……いや、皇帝と交わした契約を、私は覚えている。
『あなたは戦争責任者として、私に命を差し出す。その見返りに、私はこの国の復興を支援しましょう』
ラィンテリアが起こした侵略戦争、誰かが示しを付けなければならない。
この国が復興を遂げた時、私は戦争責任者としてアトラスに裁かれる。
それが皇帝と交わした約束。
オレンジのビンが目に入った。
これは祭りの日、司令官と一緒に飲んだお酒。
残り物と言って、店の主人がビンに詰めてくれた。
私はビンを開け、一人で飲み始めた。
なんだろう、司令官との想い出が浮んでくる。
見てはいけないもの。それは、魔法が解けた瞬間だった。
司令官に抱き始めた淡い想い、叶わない事を知った。
司令官……今まで……ありがとう。
この小説は、色々な謎が出て来ます。
その謎が明かされないまま、新たな謎が出て来ます。
そこで、ここまでの内容をまとめてみました。
舞台
12世紀の欧州
ラィンテリア国:
主人公クレア媛の国。
隣国のアトラス国に侵略戦争を起こし、返り討ちに合う。
敗戦により王国から民主国となる。
国の復興を進めている。
現在アトラス国の支配下にある。
アトラス国:
ラィンテリアの隣国
国全体を巨大な壁で囲み、他国との交流は無い。
21世紀のテクノロジーを持ち合わせる謎の国
尚、21世紀から国ごとタイムリープしてきた訳ではなく、
21世紀と繋ぐGATEがある訳でもなく、
また、彼らは宇宙人でもない。
主な登場人物
クレア媛(女性17才 推定A)
この物語の主人公
敗戦国の王女。
ラィンテリア復興まで、統治者となる。
カオス(男性)
アトラス軍の司令官。
後に、アトラスの皇帝である事が明かされる。
シノブ(女性17才 推定C)
クレアの側近
護衛、及びクレアを支えるよう育てられてきた。
コノエ(男性 24才)
元ラィンテリア護衛隊の隊長
アトラスとの敗戦を悟り、王家一族と共に部下を逃がし、自分一人残った。
スジャク(女性 推定B)
アトラス四天王の一角、南の天王。
ユキ(女性 推定A)
司令官の秘書。
大まかな あらすじ
ラィンテリア王国は、国王の決断により、隣国のアトラス国に向けて出陣しました。
食料危機による侵略戦争です。
しかしアトラス国は巨大モンスターを操る魔術師集団を備えており、王国は返り討ちにあいます。
敗戦国となった王国の媛は、アトラス国の司令官に命を差し出し、国民の救済を願い出ました。
クレアは過酷な未来を覚悟しました。
ところがアトラス国の人達は、みんな優しくて、ラィンテリアの復興に尽力してくれます。
アトラスの魔術とは、21世紀のテクノロジーでした。
そして巨大モンスターとは建設用重機。
新たな街が、みるみる出来上がっていきます。
学校が造られ、広大な農地が造られ、農業機械によって莫大な収穫を得るようになりました。
アトラス国は巨大な壁で国全体を囲んでいる為、外の者はアトラスの内部を知る事が出来ません。
しかしクレアは知ってしまいます。
アトラスは4人の天王によって治められている。
しかし、その4人を束ねる皇帝が存在し、皇帝の存在はアトラス国民にも知らされていない。
そして、ラィンテリアに来た司令官こそが、実はアトラスの皇帝でした。
カオスがラィンテリアに来た本当の目的は何かを探す為。
ラィンテリアが復興を遂げた時、クレアは戦争責任者として、命を差し出す契約を結んでいるのでした。
大まかな 謎
① 第1章の冒頭に出て来た『天空の大陸』とは?
② 12世紀に、何故アトラスは21世紀のテクノロジーを持っているのか?
③ アトラス皇帝の存在を、何故アトラスの国民は知らされていないのか?
④ アトラスは、何故ラィンテリアの復興に尽力してくれるのか?
⑤ カオスは何を探しているのか?
⑥ アトラスの皇帝一族に課せられた使命とは?
⑦ 『天空の媛』とは?
『天空の媛』の存在が、第一章の終話で初めて出て来ました。
主人公は『クレア媛』 そして小説のタイトルは『天空の媛』
しかし、クレア媛は天空の媛ではありません。
王制を廃止した事で、クレアは既に『媛』ではありません。
ただ愛称として、媛と呼ばれています。
クレアが『媛』と呼ばれる度、『天空の媛は他に居る』
この事を思い出して頂ければ幸いです。
次回の第2章は三人称視点となります。(クレア視点ではありません)
これからもお付き合い頂けますよう、よろしくお願いします。
次回:(第2章1話)奴隷少女




