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⑴ 奴隷少女

 奴隷市場。

 ここでは人間を金で買う事が出来る。

 売られている人間は敗戦によって仕事を失った者、孤児となった者達。


 人間、食べていかなければ生きていけない。

 その為の働き口として、買う者と買われる者との間を取り持つのが、ここの奴隷市場である。


 食べる物を失った者は、この奴隷市場に身を売る。

 そこでは自分(奴隷)を買って頂く主人が現れるまで衣食住が提供される。

 そして奴隷が売れた事で得る金は、奴隷商人のものとなる。

 ただし、いつまでも売れない奴隷は商人から捨てられる。

 捨てられた奴隷はまた食べ物の無い生活へと戻り、それは大方死を意味する。


 主人(買った者)は、奴隷(買われた者)に衣食住を提供し、奴隷はその対価として仕事を行う。

 奴隷には男もいれば女もいる。

 一般に、男は労働、女は家事等を目的として買われていく。


 この国は、雇用という形態で人を雇う事は殆ど無い。

 雇用は本人の意思で辞める事、他へ移る事が許される。

 また、働いた事への対価を支払わなければならない。

 それは雇う側にとって面倒である為、奴隷として買い求める。

 奴隷であれば勝手に辞める事は許されない。


 奴隷商人は奴隷が少しでも高く売れるよう気を配る。

 体力のありそうな男奴隷や容姿の整った女奴隷には十分な食事を与える。

 しかしそれに漏れた奴隷は、十分な食事を与えられない。


 奴隷たちは少しでも裕福そうな主人に買ってもらえるよう必死になる。

 裕福な主人に買ってもらう事が、この先の自分の生活に大きな違いが起こる事を奴隷達は知っている。


 ・・・・・・


 男は奴隷市場にやってきた。

 少し離れた所で馬車を待機させ、人目に付かないよう質素な服装でここへ来た。

 小さな手持ちカバンを片手に持ち、使用人も連れていない。

 それは裕福な人間がする事ではない。


 奴隷達は、2つのブロックに分けられている。

 男が最初に見てまわったブロックは、価値の高い奴隷を集めた所で、高い値段が付けられている。

 奴隷達は1人ずつ、大きなコンテナのような物に入れられ、そこで生活している。

 コンテナの一面は開かれており、客は奴隷を見る事、そして話す事が出来る。


 裕福そうな客がコンテナの前を歩くと、奴隷達は必死に声を掛け、熱い視線を送っている。

 女奴隷は服を脱いでアピールしている。

 次に、その男がコンテナの前を歩くと、奴隷達はみな静まりかえる。

 貧しそうな客に対しては、自分を買うと言われないよう、声を掛けない、目を合わせない。


 男は一通り回ってみたが、目当てとなる奴隷はいなかった。

 次に男は、価値の低い奴隷を集めたブロックへ行った。

 安い値段が付けられている。


 1人1人、オリのような箱に入れられ、みんな痩せ細り、先ほどの奴隷達とは大きな違いである。

 ただ、ここの奴隷達は、ここから救ってもらいたい一心から、身なりの貧しい者に対しても、必死に声を掛けてくる。


 男は、あるオリの前で足が止まった。

 そのオリの中には1人の女奴隷が、ぐったりと横になっている。

 年齢は10歳前後。


 男は奴隷商人を呼んで、少女から離れた所で話しをした。

「あの子供は、いくらですか」

「ヘイ、えー金貨1枚です」


「1枚? 安いですね。このブロックの相場は、だいたい3枚と聞いていますが」

「いえ、実はあの子供、商品にならないんで、明日にでも捨てようと考えていたんすよ」

「どういう事ですか」


「要するに、何の役にもたたないっていいますか……ただ、ぐったりと横になってる。だから客も寄り付かない。こっちだって、ただ飯食わせているだけの奴隷なんて、置いておく余裕ないっすからね。ですから、あんな子供、金貨1枚で買っていただけるんでしたら、おお助かりだ。ただ、後になって何の役にもたたないから金返せは、なしですよ」


「わかりました、あの子を買いましょう」

 商人は、嬉しそうな表情を浮かべて言った。

「ありがとうございやす」


 商人は、使用人に指示した。

 使用人は、オリの中に入り、少女の手首を掴んで言った。

「さあ、出ろ」


 突然、その子の顔が真っ青になった。そして震えながら口を動かした。

「……私を……捨てないで下さい」

 少女はオリにしがみついている。


「おまえは、買われたのだ」

「お願いです、私を捨てないで下さい」

 少女は目に涙を溜めている。

 使用人の言葉等、耳に届かない。

 自分を買ってもらえる事等、とうに諦めていた。


 決してここでの生活が良い訳ではない。

 しかし、ここから捨てられたら生きていけない事を知っている。

 そしていつか、ここから捨てられる日が訪れる事に怯えていた。


 使用人は少女の体をつかみ、オリから引きずり出そうとする。

「お願いです、お願いです、私を捨てないで下さい」

 今まで、ぐったりとしていた少女が、最後の力を振り絞るように、オリにしがみついている。

 しかし少女の体力も尽きてしまい、意識を失うように倒れてしまった。


 使用人は、少女をかかえて、オリから出てきた。

「まったく、手をかけさせやがって」

「おいおい、大切な商品だ、キズでも付けたらどうするんだ、取扱いは丁重にな」

「へい、申し訳ありません。しかし良くこんなガキ、買い手がつきましたね」

「……ああ」


 そして商人は、男に尋ねた。

「どうしゃしょう、この子、すこし体でも洗って整えやしょうか?」

「いや、このままでいいです」

「しかしこのままでは、だんな様のお洋服を汚してしまうといいますか」

「心配いりません。それより、あの少女はどこから連れてきたのですか」


「あれは拾ったんす。飢えて倒れていて、このままだと死ぬな。ここは私が拾って食べ物与えりゃ売りもんになるかなぁっと思って。しかし、ちっとも客は寄り付かねえ、こんなんじゃ商売あがったりだ」

「それで、また捨てようと思っていた訳ですか」

「いやーすんでのところでお客様が現れた。こんな事って、あるもんすねー」


「この子を拾ったのは、いつですか」

「今から2年ほど前ですかね。名前も歳も解からないんすよ。まあ、ここでは必要ないすけどね」

 12世紀この時代、小国どうしの戦争が相次ぎ、多くの子供が孤児となった。

 この子も孤児となり、飢えて死ぬ所であった。


 男は金貨を10枚、商人に渡した。

「10枚? ……1枚のお約束でしたが」

「そのお金で、ここにいるみんなに、もっと良い物を食べさせてあげて下さい」

「いんすかぁ? ……わかりやした。そうさせていただきやす」


「では、売買成立という事で、この少女は連れて行きます」

「へい。……あのー、しつこいようですが、後になってから、やっぱりこの娘、役にたたないから金返せ……は、無しですぜ」

「わかっています。では、帰らせて頂きます」

「へい、またのおいでを、お待ちしております」


 男は上着を脱いで少女を包み、少女を抱きかかえて、その場を後にした。

 少女は体力を失ったようで、まったく動かない。

 ただ、うつろな目をしている。


 待機させていた馬車に乗り込み、移動した。

 まだ、11月だというのに、雪が降り始めた。

 馬車で1時間ほど走った先、男が向かったのは、ひとけの無い林の中。


 男は馬車から降りて、馬車と御者を返した。

 あたりは、すっかり暗くなっていた。

 男は少女を抱きかかえて目的地に向かった。


 そこは、ひとめに付かない開けた場所。

 少女を抱きかかえたまま、待機させていたヘリに乗り込み、パイロットに伝えた。

「至急、中央メディカルセンターへ向かってくれ」


 ヘリは少女を乗せて飛び立った。


次回:(第2章 終話)あなたの扱いは


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