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⑵ あなたの扱いは

 男は、奴隷市場で買った少女を、メディカルセンターの集中治療室に入れた。

 着ていた服は全部脱がせ、髪は断髪し、焼却処分した。

 その少女は今、治療用の服をまとっている。


 奴隷商人が言っていた事。

 『後になってから、やっぱりこの娘、何の役にもたたないから金返せ……は、無しですぜ』

 男は、その意味を理解していた。


 この子は、持って、あと数日の命……このままでは。

 当病院で優秀な女性医師を担当医に付けた。

 今、彼女が抱えている病状を洗い出す。


 体内各部のレントゲン検査、超音波検査、血液検査等、あらゆる検査を行った。

 今の彼女は意識はあるものの、ぐったりとした状態である。

 体にはセンサーが取り付けられ、脈拍、心拍数、呼吸数等が、モニターされている。


 検査結果が上がってきた。

 いくつかのウイルスに感染しているため、抗ウイルス剤と合併症に対して抗生剤を投与する。

 今後の彼女に対して、健康立て直し計画が立てられた。


 男は彼女に対して、決めなければならない事がいくつかあった。

 年齢、生年月日、名前が不詳である。

 年齢は検査によってある程度解るが、生年月日と名前をどうするか。


 検査結果から、彼女の年齢は10歳とした。

 彼女と初めて会った日という事で、11月20日を誕生日とした。

 名前は、ここへ連れて来た時に降り始めた雪から『ユキ』とした。


 現在、集中治療室で点滴を受けている。

 意識はあるものの、ただベッドで横になっている。


 ・・・・・・


 それから3週間後、ウイルス検査で陰性を確認する事が出来た。

 ユキを集中治療室から個室に移動させた。

 その部屋は、ベッド、バス、トイレ、洗面台、家具、机が用意されている。

 しかしユキは、ほとんど動く事がない。


 1日1回、検査を行う。

 それとユキの体全体に超音波洗浄を行う。

 これにより、古い角質は剥がれ落ち、皮膚全体が生まれ変わる。


 4週間が経った。

 これからは、失った体力を取り戻す為、運動をさせる。

 男は、女性トレーナーを専属に付けた。

 この施設の屋外運動場でトレーニングを行う。

 全面、弾性素材が敷き詰められた運動場で、外周は約100mの広さである。


 最初はトレーナーに支えられながら1周歩いた。

 途中で何度も倒れそうになり、何度もしゃがみこんだ。

 息も荒く、非常に苦しそうだ。


 トレーニングは1日3回行う。

 そして毎トレーニング後、入浴して体を洗う。

 それによって、奴隷生活を送っていた時とは異なる衛生感覚を身に着けさせる。


 トレーニング3日目になると、しゃがみこむ事なく、1周歩ききる事が出来るようになった。

 そして、トレーニング開始から1週間目、軽いランニングでトラックを1周走らせた。

 最初は、走ったり、歩いたり、止まったり。


 しかしトレーニング開始から2週間目、軽いランニングで走り通せるようになった。

 トレーニングを始めた最初の頃は、苦しそうで、それでも必死にトラックを歩いていた。

 しかし今では走る事に気持ち良さを感じ、今、自分は生きているという元気な目をして走っている。


 ユキの体は、みるみると変わっていった。

 体全体に引き締まった筋肉が付き、背筋をピンと伸ばした姿勢が身に付いてきた。

 奴隷市場での、貧弱で覇気がなく、体を丸めて怯えていた頃の彼女とは別人である。


 トレーニング開始から1ヶ月後、トレーナーがユキに話をした。

「この1ヶ月間、よくがんばりました。1周100mを10周、それを1日3回。日常生活において、支障のない体力を取り戻す事が出来たと判断します。あなたがここにいる目的は、運動する事ではありませんので、私とのトレーニングは、本日をもって終了とします」


「あの……すみません、トレーニングは本日をもって終了との事ですが、私は何の目的でここにいるのでしょう?」

「ごめんなさい、私が指示されているのは、ユキ様が体を壊さずに体力を回復させる事というだけで、それ以上の事は教えて頂けませんでした」


「……私は、ここにいて、いいのでしょうか?」

「ええ、もちろんです。あなたの扱いは特1級です。こんな指示、今まで聞いた事ありません」


「そ、それって、どなたからの指示なのでしょうか」

「ごめんなさい、私は上司から指示されたのですが、その上司は誰からの指示なのか、それも教えてもらえませんでした。今回のようなケース、初めてです」

「……」


「では」

 トレーナーが、この部屋から立ち去ろうとした時、ユキは慌てて挨拶した。

「あの、今まで本当に、ありがとうございました」


 トレーナーは、笑顔でユキに会釈した。

「はい、これからも、お元気で!」


 ユキは、非常に名残惜しい気持ちになっていた。

 ユキにとって、心を通わす事が出来た初めての人だった。



次回の第3章は、ユキの一人称視点となります。

これからもお付き合い頂けますよう、よろしくお願いします。


次回:(第3章1話)入学に向けて

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