⑻ 建学
次の日から、いよいよ新しい農業に対する勉強会が始まった。
それは、今まで行ってきた方法と、大きく異なっていた。
その勉強会と並行して、ゴーレム(建設用重機)を操る修行が行われた。
私は、その修行を見守っていた。
我々の前に用意されたのは、子供のゴーレムだった。
誰が最初にゴーレムを操れるか。それは、この国の歴史に名を残す偉業である。
国民は、こぞって、その試練に立ち向かった。
そして、あっという間に多くの人がゴーレムを操れるようになってしまった。
これについては、アトラスのゴーレム指導教官も驚いている。
なんだ我国民、優秀じゃないか。
子供ゴーレムが操れるようになった者から、親ゴーレムの操りが許された。
な、なんと、我国民が、あの巨大なゴーレムを、自由自在に操っているではないか。
あれ? あの指導教官、司令官に耳打ちしている。
……これ以上、術を盗まれないように?
しまった! もっとゆっくりと学ぶよう、彼らに伝えるべきだったか!
あれ? なんか……司令官が、こっち来る……知らん顔、知らん顔……
「媛さま」
「あっ、司令官様、大変お世話になっております」
「いえ、先ほど指導教官から助言がありまして、この国の皆さん、大変熱心で勘所も良く、3日の予定で立てていたカリキュラムを1日で終わらせてしまったと」
「あはは……そうですか」
「で、この際、学校を作りませんかという提案がありまして」
「学校?」
「はい」
「いや、ラィンテリアにも学校はありますが、勉強の内容は、読み書き計算でして、学校とは子供が通う所ですが」
「はい、私からの提案は、大人の学校です。大学と呼びましょう」
「ダイガク……ですか?」
「はい。まずは農学部、それと土木学部」
「ドボク?」
「はい。講義2、実習8の割合で進めましょう。講師は本国から呼び寄せます」
「はあ……」
「どうでしょうか」
……よくわからんが、悪い話ではないようだ。
「あ、はい。よろしくお願い致します」
という事で、急きょ、国立ラィンテリア大学が創立された。
大学は、新都市の一角に、広い敷地を有して作られた。
人々は、そこを学園都市と呼ぶようになった。
入学資格は『読み書き計算』の学校を卒業した者。
ここで修行する事で、自分も魔術師になれる。そんな噂が広がった。
その噂を聞き付け、多くの国民がその大学への入学を希望した。
大学での履修期間は3ヵ月間。
希望者全てを受け入れる事は出来ない為、先着順となった。
先着に漏れた人も、この先着番号はこの先も有効とし、希望するならば、いずれ自分も入学できる番がまわってくる。
現在3年先の入学者まで決まっているとの事。
もう少し早める為、大学の規模拡大を検討する事になった。
初年度は、農学部、土木学部の2学部からスタートした。
農学部の講義は、品種についての内容から始まった。
様々な季節に育てる作物の説明。
収穫した後、土を痩せさせない為のメンテナンス。
その作物が育つ為の条件や、注意等が説明された。
そして、実技演習についてだが、農作業に使う機械の紹介、及び、その操作トレーニング。
実際に模擬農地を作成し、使い方を学ぶ。
最初は、土を掘り起こし、耕す事から始まった。
次に、土木学の講義は、安全第一を理解してもらう事から始まった。
一つ間違えれば、大きな事故につながってしまう事を認識してもらう。
そして、測量技術の講義が始まった。
大規模な土地面積の測量や、水を流す為の勾配の計算。
固い地層、柔らかい地層、沈む地層等、あらゆる条件の中で、その目的に合った基礎を作らなければならない。
そして実技演習は、我々がゴーレムと呼んでいた建設用重機の紹介、及び操作トレーニング。
実際の作業として、引っ越しを終えた空き家の解体。それを更地にする。
重機の動きを体で覚えるまで、操作トレーニングを行った。
・・・・・・
それから3ヵ月が経った。
国立ラィンテリア大学、第1期生が卒業した。
次の日から、土木学部卒業生は、アトラス作業員の指導と共に、新都市拡大の為の作業に就いた。
そして、農学部卒業生は、大学のキャンパスに集められた。
大きな箱型の乗り物、それをバスと呼ぶらしい。
そのバスが5台、大学のキャンパスに止められていた。
農学部卒業生は、そのバスに乗せられ、そのまま東の地に向かった。
私と司令官も同行した。
巨大な新都市を抜けて更に東へ向かう。
既に舗装された道路が作られており、そのままバスで10分ほど走り続けた。
すると、そこには、驚く光景が待ち受けていた。
私達は、バスの窓からその景色を見て、みな、言葉を失った。
そこには、黄金色の海が広がっていたのだ。
見渡すかぎり、一面が麦畑である。
更に奥には、トウモロコシ畑、ジャガイモ畑、等があるとの事。
目的地に着くと、刈り入れ用の農業機械が用意されており、早速刈り入れ作業が始まった。
司令官が、私の所へ来て話された。
「今回の農地の規模は、今までの農地の50倍程度です」
「50倍!」
「ええ、今後、この規模を300倍まで拡大させます」
「……なるほど、人手が足りない事、理解出来ました」
「予定では、この農地に種をまくところから実践していただきたかったのですが、丁度その時、グランバルからの奇襲を受けまして、まあこのシーズン、農地を眠らせておくのも勿体ないので、最初のシーズンの種まきは、こちらで行いました」
「いや、何から何まで、ありがとうございます」
農学部卒業生は、用意されたコンバインという名の乗り物を操り、早速麦刈りを始めた。
これは、驚くべき乗り物である。
麦を刈りながら実とその他を分離し、その他の殻や藁は細かく粉砕して土に戻しながら進んでいく。
これは、今まで人が行っていた作業に対して数百倍の作業を可能とする。
次々と小麦の実だけが収穫され、積み上げられてきた。
それをトラックに積み、満杯になったものから新都市へ運ぶ。
まだ機械の操縦に慣れていない為、トラックへの積み込み作業がスムーズに行かない。
そこで、トラックへの積み込み作業は、手作業で行った。
私も一緒になって行った。
手も服も、泥だらけになって作業した。
しかし、私の心は嬉しさで一杯だった。
今日1日で、どれだけの量が収穫出来ただろうか。
しかしその量は、全体の農地の2%との事で、改めて驚いた。
全農地に実る収穫物を刈り入れるのに、農業機械をフルに使って2ヵ月かかった。
収穫物は刈り入れた物から、次々とラィンテリア新都市へ運んだ。
小麦、トウモロコシ、ジャガイモ。
始めて見る者は、その運ばれてくる量の多さに、みな言葉を失っていた。
ラィンテリア国民が食す量を十二分に押さえた上で、その残りは全て新都市の中央広場に集められた。
その量たるは、ラィンテリア国民用に押さえた量の約50倍の量である。
その収穫物は、その広場にポツンと建つ建物の中へ運び込んでいる。
国民は見ていた。これだけの量、すぐに建物内、満杯になってしまうだろう。
しかし、次から次へとその建物の中へ運び込んでいる。
誰かが言った。「あの中には魔物が住み着き、この大量の収穫物を食べているに違いない」
それに対して、ある者が言った。「その魔物様に、これだけのお供えを行えば、きっと魔物様はこの国を守り、この国を繁栄に導いてくれるに違いない」
国民の多くは、それに賛同した。
それは何といっても、国民が食すにあたり、今までとは比べ物にならない程の収穫物を、残して頂いた上でのお供えだからである。
そう、私は知っている。
そのお供えを食べて、我々を繁栄に導いてくれる魔物とは……アトラスである事を。
次回:収穫祭




