⑹ 質疑応答
私はアトラス国の思惑を、きちんと知る必要があると考えた。
形だけではあるが、国を預かる者として、司令官とサシでの問答を望んだ。
司令官に問い合わせたところ、入国者の受け入れ準備で立て込んでいるとの事。
だが、わずかな時間ではあるが、質疑応答の時間を作って頂ける事となった。
私はアトラス軍基地へ司令官を訪ねた。
何もない、殺風景な部屋へ案内された。
そこには、少し大きめなテーブルと、椅子が2脚あるだけだった。
司令官と向かい合わせに座った。
すると1人の女性隊員が、お茶とケーキを運んで来た。
こ、このケーキ、食べてはいけない。
以前、アトラス基地での食事で出された事がある。
このケーキを口に運んだ途端、何から何まで、どうでも良くなってしまう。
そんな事では、司令官にお時間を取って頂いた意味がない。
私は、勇気を出して伝えた。
「あの、このケーキ、頂けません」
「ああ、すまん。君、これを下げて」
「はい」
女性隊員は、私のケーキを下げた。
アトラス軍には、女性の軍人もいる事に驚いた。
司令官が話し始めた。
「先にもお伝えしたとおり、今は立て込んでいますので、あまり時間は取れませんが、媛さまが抱いている疑問につきまして、できるだけお答えしましょう」
「ありがとうございます。私にとりまして、アトラス国は謎ばかりです。その件につきましても色々お聞きしたい事があるのですが、お忙しい中、お時間がありませんので、目の前の問題から質問させて下さい」
「どうぞ」
「ご用意した質問ですが、4つあります。ではその1つめですが、以前、アトラス国は我々に、何をさせるお考えですかと問いましたところ、農業と答えられました。そして年間収穫量を今の300倍、今後生産して頂くと」
「はい」
「私は、何の冗談かと思いましたが、司令官様が真顔でそれを話されている事に驚きました」
「私は貴女に冗談を言った事はありません」
……うぅぅ、私の胸を見て、そんな躰と言ったのも、本気だったか。
もしかしたら、あれは冗談? と期待した私が愚かだった。
「では、そのような事、可能なのでしょうか」
「はい可能です。ただし、農業につきましては、今までと大きくやり方を変える必要があります。そのやり方については、今度改めてお話ししましょう」
「……わかりました。次に2つめの質問ですが、今の300倍の農作物、そのほとんどを、アトラス国へ納めて頂くとの事ですが、アトラス国は、それだけの人口、つまり、ラィンテリアの300倍もの人口を抱えておられるのでしょうか?」
「いえ、アトラスが欲しいのはエネルギーです」
「エネルギー?」
「収穫物からエタノールを作ります。まあ、この話も、また、日を改めて」
「……わかりました。次に3つめの質問ですが、今後ラィンテリアは国土を広げ、他国民を受け入れ、人口を増やしたいと言われました。それは、何の為でしょう」
「はい、私達は、この国の復興を支援するお約束をしましたが、それは、それに見合う見返りを期待しての事です」
「見返り……我々にとりまして、アトラス国が期待される見返り等、用意出来るのでしょうか」
「はい。正確に言いますと、見返りを果たして頂くのは、ここの国民ではなく、この国が所有する資源です」
「資源?」
「はい。その資源とは、農作物を育てる為の土壌の事ですが、その資源を少しばかり利用させて頂きます」
「利用?」
「はい。ただし、その資源を痩せさせずに利用する為には、人手が必要です。こちらの計算によりますと、圧倒的に人手が足りません。ですので、今この国が進めて頂きたい事は、人手を増やす事です」
「……では、最後の質問ですが、以前、国民が家を直そう、畑を耕そうとしましたら、アトラス軍に止められました。何故でしょう」
「はい、現在、このラィンテリアの都市を、大きく改造する計画が進んでいます」
「カイゾウ?」
「国としての都市の機能は、そのまま社会の合理性に繋がります。例えば生きる為に必要な水を考えてみましょう。毎日、必要な水を汲みに行きます。しかし、もし水が毎日運ばれてきましたら、水を汲みにいく時間で別の仕事が可能となります」
「……はい……まあ……」
「この町全体を、合理的な街に作り替えます」
「……はあ?」
「その計画を進めています。ですので、既存の畑や家は、取り壊す予定です」
私は、何が何だか分からなくなってきた。
司令官は話しを続けた。
「今、ラィンテリア国民にお願いしたい事は、既存の畑を耕す事ではなく、勉強です」
「勉強?」
「新しい農業としての勉強です」
「はい……そこまでは理解できました。了解しました」
「それと皆さんにも、あのゴーレムと呼んでいる建設用重機を動かしてもらいます」
「……ラィンテリア国民には、魔術の力を持つ者はいませんが……」
「いえ、トレーニングすれば動かせるようになれます」
「我々でも、修行を積めば、魔術師になれるという事でしょうか?」
「……まあ、今はそのような理解でかまいません」
「……はあ」
「……という事で、私は次の予定がありますので、これで失礼します」
そう言って、司令官は席を離れた。
その後、先ほど下げられたケーキが再び出された。
給仕してくれた女性の隊員が言った。
「ごめんなさいね。なんかバタバタしていて、もしよろしければ、どうぞ」
「あ、はい、ありがとうございます。……あ、あなたは?」
「あっ、私ですか? 今回、司令官に秘書として選ばれまして……秘書と言えばカッコいいのですが、まあ雑用係ですね」
「そ、そうですか」
……司令官に選ばれた女性。
「では、ごゆっくりどうぞ」
そう言って、彼女は部屋を出て行った。
しなやかで、知的そうな女性だ。
年齢は、私と同じくらいだろうか。
私は彼女の胸を見逃さなかった。
私と同じくらい、薄い胸だった。
以前、シノブが話してくれた。
ごく、ごく稀に、胸の薄い女性を好む殿方がいるという事を。
その話を聞かされた時、とてつもない憤りを感じたが、今はそうかもしれない……と、思いたい。
それはそれとして、先ほどの司令官のお話、全部答えてくれたが、全部わからん。
なんだったんだ。
私は、ケーキを口に入れた。
ああ……もう……なんでもいい。
なんでもいいって……媛さま、ガンバレ~
次回:復興




