⑸ 収容者
次の日、私は司令官に呼び出された。
昨日の反省文について叱られると思ったが、その事ではなかった。
収容したグランバル軍の兵士についてである……まあ、そうでしょう。
まず、食事である。
約8千人との事で、給仕等の作業を国民に手伝ってもらいたいとの事。
敵の兵士といえど、武器を持たなければ同じ人間である。
私は直ちに多くの若者に指示を出した。
特に混乱もなく、収容された人達は、みんな静かに食事している。
次に、彼らの今後についてである。
大切な話になるので50人ずつに分けて、司令官の部下10人が平行して話しをするようだ。
最初の50人は司令官が話しをされるとの事で、どのような話しをするか、私にも立ち会ってもらいたいとの事。
まあ、だいたい想像はつく。話の要点は2つだろう。
1つめは、速やかにグランバル国へ帰って頂く。
本来彼らは捕虜であるため、ここで強制労働させる事も出来るが、今のラィンテリアには仕事も無く、むしろ食べさせる食料が無い。
2つめは、今後この国に攻め入らないように。
彼らとて、王の命令で戦争にかり出されただけの事であって、彼らに再びこの国に攻め込まないようにと伝えた所で、なんの意味もないが、まあ、これは気持ちの問題として、私としても伝えておきたい事だ。
おそらく司令官は、彼らに対して、そんな話をするのだろう。
・・・・・・
司令官の話が始まった。
「はい、みなさん、ちゃんと食事はとられましたか」
ほう、そこから話を持って行くか。
「あなたがたは、今ここで何が起きているのか、理解されているでしょうか」
みな、静まりかえっている。
「あなたがたはグランバル軍の兵士として、この国を侵略しに来たのです。しかしながら、この国の反撃により、グランバル軍はあなたがたを見捨てて退却しました」
彼らは皆、下を向き、これから起こる事に怯えているようだ。
「しかし、あなた方は生きている。そしてこの先も生きていかなければならないのです」
その言葉で彼らは正面を向き始めた。
「今、あなたがたには2つの選択肢があります。1つはこのままグランバル国へ帰られる事。そして2つめは、このラィンテリア国の国民になる事です」
私は、慌てて立ち上がった。
すると司令官は片手を私の方に向けて、私の行動を抑止した。
グランバル軍の1人から手があがった。
「どうぞ」
「この国民になるとは?」
「はい、ラィンテリアの国民となり、ラィンテリアの為に働いて頂きます。その見返りとして、この国はあなた方の生活をお約束します」
しばらく沈黙が続いた。
そして別のグランバル軍の1人が手を挙げた。
「どうぞ」
「ここにいるみんな、いや、収容された全ての人達は、その申し出に対して、この国の国民になる事を望むでしょう」
他の人達も、その話にうなずいている。
「ここに収容されたほとんどの人は、自分の国が崩壊して流れ着いた難民です。大国グランバルの国民になれば生きていけると思った。そしてグランバルは我々を受け入れてくれた。しかし頻繁に戦争にかり出され、俺たち元難民は最前列に並べられる。そうした中で、1人、そして、また1人、友人が死んでいった。今回、ああ、ついに俺の番がまわってきたと思った。しかし目を覚ましたら生きている。そして、あんなにうまい飯を食わせてもらえた」
私は不覚にも涙を流してしまった。
いや、いかんいかん、国を預かる身として、情に流されてはいけない。
これだけの人数、受け入れられる訳がない。
グランバル兵士の話しは続いた。
「この国で受け入れて頂けるのでしたら、俺は受け入れてほしい。ただ、グランバルに妻と子供を残している。本来死んだ身だ。むしの良い事、重々承知している。だが、ここへ妻と子供を連れてくる事は叶わないだろうか。叶わないのであれば、俺は妻子の元、グランバルへ戻るしかない」
司令官が答えた。
「私は先ほど2つの選択肢を提示しましたが言葉を改めましょう。この国の国民となって家族と共に過ごしたいか、それともグランバルへ帰りたいか、ご判断下さい」
グランバルの兵士が動揺した。
「それは、どういった事ですか?」
「家族も受け入れてくれるのですか?」
司令官が答えた。
「家族、友人、知人、このラィンテリアの国民になりたい方は、全て受け入れます」
私は、慌てて立ち上がった。
しかし司令官は再び私を制した。
司令官が言った。
「この2つの選択肢の中で、グランバルへ帰りたいとお考えの方は、今ここで、この会場からご退出下さい。出口で足に巻かれたバンドを外させて頂きます。その後、あなたは自由です。速やかにグランバル国へお帰り下さい。尚、帰り着くまでの食料をご用意していますので、忘れずにお持ち帰り下さい」
この細やかな配慮に、会場から大きな溜息が出た。
そしてこの会場に集められた50人の中から、グランバルに帰りたいと望む人は一人もいなかった。
「では、ここにいる全員、ラィンテリアの国民になる事を望んでいるという事で、良いのですね」
全員が頷いた。
司令官が話しを続けた。
「では、一旦皆さんはグランバルへ戻って頂き、奥さんやお子さん、ご両親様に、移住する事をお話し下さい。また、こちらに持って来たい大切な形見等、あると思いますので準備して下さい。ただし、身に着けられる程度の持ち物でお願いします。こちらで生活必需品は、ご用意いたします」
一人が手を挙げた。
「そこまでして、我々を移住させて頂いて、あなた方は我々に、何を求めているのですか? 先ほどこの国の為に働いてもらうと言われましたが、具体的には何をする事になるのでしょう?」
その質問に対して、この会場のみんなは同じ不安を抱いていたようだ。
司令官が答えた。
「みなさんに働いて頂きたい仕事は、農業です」
会場が、安堵の空気に包まれた。
「農業なら、俺でもなんとか、出来るかな」
「ああ、戦争にかり出されて、手を血に染めるより、よっぽどいい」
「ああ、そうだ、そうだ」
会場の声が届く。
「司令官様!」
一人が手を挙げた。
「1度死んだ我身だ、こっちへ来たら、一生懸命働きます」
「ああ、俺も俺も」
そうして、話し合いが終わった。
私は会場から出る司令官をつかまえ、抗議した。
「勝手な事をしてもらっては困ります」
「私はこの国の復興を支援する。その約束を貴女としました」
「これは、支援の域を超えています。他国民を受け入れ、国民としての身分を与える等、この国の、私の主権に対する侵害です」
「勘違いして頂いては困ります。あなたには、この国の主権等、無いのです」
私は固まった。
そう、私は、この国のお飾りとしての主権者であった。
それも、全て復興を遂げる為の。
司令官は言った。
「ご心配なく。彼ら8千人、まあ親族や知人を連れて来ると3万人ぐらいになると思いますが、その食料や生活必需品はアトラスで用意します」
私は司令官に尋ねた。
「あなたは、何を考えておられるのですか」
「このラィンテリアの領土を広げます」
「はあ?」
「それと国民人口を増やします」
「……なに……言ってるのですか」
「この国は、グランバルを越える大国になって頂く」
「ハハハ」
私の口から、乾いた笑いが漏れた。
次回:質疑応答




