⑷ 敵襲
突然シノブに起こされた。
「媛、敵襲でございます」
私は飛び起きた。
「何事か!」
「グランバル王国からの襲撃でございます」
「グランバル?」
ここから西に位置する大国である。
巨大な軍事力を誇り、次々と小国を飲み込んでいく。
私はすぐさま城の塔に昇り、西側を見た。
城は、この国一番の高台に建てられ、遠く先まで見わたす事が出来る。
西側は、この城から約1kmまでが居住地で、その先は穀倉地帯となっている。
敵軍は既に穀倉地帯を越え、居住地の手前まで迫り、態勢を整えようとしている。
恐ろしい数の軍勢である。
2万、いや3万ぐらいだろうか。
ラィンテリアとアトラスが戦争を行い、お互い疲弊した所を一気に飲み込む。
常套手段である。
ラィンテリアには、既に戦う力は無い。
取れる選択肢は2つ。
1つは、アトラスと共にグランバルと闘う。
2つめは、アトラスには、お引き取り頂き、ラィンテリアはグランバルに降服する。
考えるまでもない。
いくらアトラスがゴーレムを操る魔術集団であっても、この3万という数においては、いくら暴れまわっても飲み込まれてしまう。
数が違いすぎる。
やはりアトラスには、お引き取り頂き、グランバル王国に降服しよう。
しかしあの司令官、聞き入れるだろうか。
それはグランバルがここを占拠した後、そのままアトラスに攻め込む事は目に見えている。
だからこそ、これだけの軍勢を引き連れてきたのだ。
あの司令官なら、どのように考える。
ここを引き上げれば、自国であるアトラスが戦場になる。
ならばここを戦場として、相手の戦力を少しでも削ぐ。
そして、自国に対して少しでも時間を稼ぐ事を考えるだろう。
それは、いけない。
ここが戦場になる事だけは。
私は決断した。
アトラスにお引き取り願う事を。
そして、それが叶わない時は司令官を殺め、その亡骸をグランバルに引き渡す。
私がこのような立場にいなければ……。
司令官様、事が済めば、私も自害する事をお約束します。
そういえば、司令官様のお名前、まだ教えて頂いてなかった。
私は短刀を握り締め、司令官を探した。
城から出ると、この状況に国民は右往左往している。
コノエが私を見つけて声を掛けた。
「媛様!」
私はコノエに指示した。
「1人でも多く、国の東側に誘導するんだ!」
「承知しました!」
早く司令官を見つけないと。
国民の悲壮な声が耳に届く。
「今度こそ、終わりだー」
私は街中に常駐しているアトラス軍の兵士をつかまえた。
「至急 司令官にお目通り願いたい」
「あれ、司令官なら、さっき城に入っていきましたよ。屋上に行かれたと思います」
私はすぐさま、屋上に上がった。
空が明るくなり始めた。
なんだろう、この屋上に巨大な皿のようなものが、東側に向けて設置されている。
司令官は西側を見ながら、板のような物を耳にあてて独り言を言っている。
「あー横槍が入ってしまって……C2……いやC3を使用します……ああ……それとN3も忘れずに……ああ、だいたいどのくらいで……ああ……では」
遠くの誰かと話をしているのか?
この司令官も魔術師だったか。
司令官は黒い箱のような物を通して、遠くを見ているようだ。
「んー2万8千ってとこかなぁ」
私は短刀の柄に手をかけた。
「司令官様、お逃げ下さい。軍を引いて、自国へお帰り下さい」
「やめましょう。あなたに人殺しは似合いません」
私は驚いて体を引いた。
「それと、シノブさんも、出てきて下さい」
陰からシノブが出て来た。
私と共に行動を起こすつもりだったのだろう。
私が崩れると同時に、シノブが支えてくれた。
司令官が言った。
「あなたが取ろうとされた行動、国を預かる者としては間違っていません。ですが、いきなりお帰り下さい、ではなくて、相談して欲しかったなぁ」
司令官は黒い箱で敵軍を覗きながら、私達に対して独り言のように話し始めた。
「グランバル軍は態勢を整え始めましたね。圧倒的な戦力を見せつけて、戦わずして降服させるつもりでしょう。これ以上、傷を負わさないで手に入れたいのでしょうね。おそらく態勢を整え次第、こちらに使者を送って来るでしょう。降服しなさいって。それまで、どれくらいかなぁ……」
しばらくすると、今度は東の方を向いて司令官は言った。
「あーそろそろかなぁ」
私も東の空を見た。
何だろう、黒い、もやもやした物が、こちらに向かっている。
シノブが声を上げた。
「なにあれ!」
カラスの大群である。
何故、カラスの大群が……いや、違う、ブーンという音を出している。
黒い板、黒い板が、集団で空を飛んでいる!
その板の集団は、私達の頭上を通りすぎ、敵陣の真上で静止した。
敵軍は、何事かと大騒ぎである。
その黒い板が一斉に霧のような雨を降らせた。
敵軍はバタバタと倒れ始めた。
何が起きているんだ!
敵軍の後方にいる大将の陣も慌て出した。
態勢が一気に崩れた。収集が付かない。
大将の陣が慌てて後方に動いた。
それを期に、2万8千の軍は一気に退陣し始めた。
凄まじい光景である。
一斉に、逃げるように去って行く。
黒い板からの雨に当たって横たわる約8千人の兵士を置き去りにして。
それは、三分の一近くの戦力を、一瞬のうちに失っての退却である。
すると、黒い板の集団は、東の空へ帰っていく。
それと入れ変わりに、今度は白い板の集団が飛んできた。
その集団は、横たわる兵士の上に、更に霧の雨を降らせている。
なんと……横たわる兵士に、とどめを刺しているのか!
・・・・・・
しばらくすると、司令官が言った。
「そろそろ大丈夫かな……媛さま」
「あ、はい」
「手のあいている者、大勢出して、あそこで倒れている兵士を収容してほしい」
「……埋葬ですか」
「いや、死んでいませんよ。ただ、眠っているだけです」
「え゛っ!」
「後5~6時間後には目を覚ますでしょう。しかし今日1日は頭がクラクラして動けないでしょうから、それまでに武器を取り上げて……それと、目を覚ましても暴れないように、足を縛りましょう」
「……手は?」
「手を縛ると、食事する時等不自由でしょうから、手は縛らなくていいです」
「手を縛らなければ、足を縛っても解いてしまうのでは」
「いや、いいものがあるのですよ」
司令官は再び板を耳に当てて独り言を言い始めた。
「あ、お疲れ様。麻酔薬ドローンC3と中和薬ドローンN3、OKです。あと結束バンドのLLを2万本と結束プラグ1万個、そう、結束バンド同士を繋ぐやつ。それとニッパ100個ぐらい、至急ドローンで送って下さい。ああ大至急。届け先はラィンテリア城の屋上でお願い……ああ、よろしく」
司令官が魔法の板をしまうと、私達に言った。
「じゃあ、急いで彼らを収容しましょう」
コノエに陣頭指揮をとってもらい、この作業に多くの国民が参加した。
武器を取り上げる者、結束バンドで足を縛る者、彼らを荷台に乗せて広場に運ぶ者。
足を縛る際の結束バンドは、右足と左足を1本ずつで縛り、その2つを結束プラグで繋ぐ。
これで、この結束バンドはニッパで切らないと足から外せない。
尚、両足は30cmほど離れる為、なんとか歩く事が出来る。
何にしても、8千人の数である。大きな広場4ヶ所使って収容した。
アトラス国から8千人分の食料が次々と運ばれてくる……何なんだ、この国は。
収容したグランバルの兵士達には、今後について、明日話をするようだ。
特に大きな混乱もなく事を終えた。
私とシノブはアトラス軍基地へ呼び出された。
なんだろう、御馳走でもしてくれるのかな?
そんな事をシノブと話しながら、軽い足取りで基地へ向かった。
……ところが……司令官の表情が、怖い。
司令官が言った。
「あなたがたは、私を殺めようとしましたよね」
げっ、忘れてた!
「この事実、簡単な事ではありません」
「すみません!」
とっさにシノブが床に手を付いて土下座した。
私も、しなきゃいけないかな~と思って、椅子から降りようとした時、司令官が言った。
「そのような事で許されると思っているのですか」
「では、どうしたら良いでしょう」
「あなたがたには、罰を受けて頂く」
シノブが訊いた。
「お尻100叩きの刑ですか?」
司令官は小さく息を吐いて、私達に5枚ずつ紙を渡した。
これは原稿用紙というものらしい。
司令官が言った。
「今回の件について、反省文を書いて下さい」
私は、それを受け取り「じゃあ」と言って帰ろうとすると、
「城へ持ち帰らずに、ここで書いて下さい。城へ戻って他の者に代筆してもらっては、意味がありません」
……全てお見通しのようである。
「書いたらここに置いて、後はお帰り下さい」
そう言い残すと、司令官は席を立った。
ん~どうしたものか。私の胸の内を書かされるようで、恥かしい。
ふと横を見ると、シノブはすらすら書いている。
そ~っとシノブの原稿を覗き込んだ。
『ごめんなさい、私はバカです、もうしません、許して下さい、なんでもします。どうしたら許してくれますか、……』
な、何と!
……私もまねっこしよっと。
『ごめんなさい、私もバカでした、許して下さい、もうしません……』
私とシノブは、書き終えた原稿をテーブルに置いて、この基地を後にした。
シノブは言った。
「乙女は好きな人以外、本音をしたためたりしないのよ~ あの司令官、わかってないな~」
「そ、そうよね! わかってないよね!」
その日、私はシノブと意気投合して城へ戻った。
どうやら、この2人には、本当にお仕置きが必要のようです。
次回:収容者




