⑺ 媛の決意
カオス様が、また国を離れる。
またカオス様が、いなくなってしまう。
私は一大決心をした。
今晩カオス様の寝室へ伺う。
カオス様は子孫を残す為、私を抱いてくれるだろう。
愛の無い交わりである。
しかし、カオス様に躰を捧げる事で、私に心を向けてくれるかもしれない。
そんな淡い願いを持っていた。
そう、その時の私は……焦っていたのだ。
・・・・・・
私はカオス様の部屋の扉をノックした。
扉を開けたカオス様は、少し驚いた様相だった。
カオス様は、私を部屋へ入れてくれた。
初めて入ったカオス様の部屋。
テーブルとベッド以外、ほとんど何も無い部屋だった。
カオス様が、私に声を掛けられた。
「どうしましたか」
私は、ただ、こたえた。
「抱いて下さい」
一呼吸おいた後、カオス様は私を優しく抱いてくれた。
そして私をベッドに寝せて、私の頭を抱いてくれた。
カオス様は、いつものように、優しかった。
そして……性行為は無かった。
・・・・・・
私は次の日、涙が止まらなかった。
ただ、ただ、悲しくて泣いた。
カオス様が、私に心を向けられる望みを断念した。
シノブが心配して、話かけて来た。
私は昨日の事をシノブに打ち明けた。
すると、シノブは体を震わせて私を怒鳴りつけた。
「媛さまは、バカですか!」
「うぁーバカです。私はバカですー」
「以前、カオス様は、子供を産む為だけの目的で、媛さまが欲しいと言われたのですよね!」
「うぁー私はバカですー」
「そのカオス様が、媛さまに対して性行為を行わなかったのですよね!」
「うぁー私はバカですー」
「ねえ、聞いてます?」
「うぁー私はバカですー」
「それは、子供を産む為の器としてではなく、媛さまの心を求めたからではないのですか!」
「うぁー私はバカですー」
「ねえ、聞いてます?」
「うぁー私はバカですー」
私は子供のように泣きじゃくり……眠ってしまった。
・・・・・・
そして私は、部屋の扉をノックする音で起こされた。
私は、よろよろと体を引きずるようにして扉を開けると、そこにカオス様が立っていた。
「なんと!」
一気に目が覚めた。
「中に入ってもいいかな」
「あっ、はい、どうぞ」
カオス様は、オレンジのビンと、グラスを2つ持っていた。
「どうです、一杯」
私は、慌ててテーブルの上を片付けた。
カオス様と向かい合って座る。
グラスにオレンジの飲み物を注いで、私に渡してくれた。
「スクリュードライバーです」
「……ああ」
「収穫祭、思い出しますね」
「……はい」
そして、二人で乾杯した。
一口飲んだ。
あの時の収穫祭が蘇る。
最高に幸せだった、あの時。
……ちょっと待て、今何が起こっている。
この急展開、思考が追い付かない。
何が起きている、何がどうなっている。
私が立ち上がろうとした時、体がふらついた。
その時、カオス様が支えてくれた。
そして、抱きかかえてくれた。
ああ、以前にも同じような事があった。
東の農場で、私が熱中症で倒れかけた時だった。
あの時、媛であった私は、初めてお媛様だっこというものをしていただいた。
カオス様は、優しく私をベッドに運んでくれた。
それからは……とんでもない事が起きた。
私の記憶に残っている事……肌を触れ合い……体を重ね……私の初めてだった。
やがて、乱れた呼吸が落ち着いてきた。
そして私は意識を失うように……眠ってしまった。
・・・・・・
翌日、目を覚ますと、カオス様はいなかった。
あれは……ゆめ?
「……まずい!」
私は飛び起きた。
そう、今日は四天王会議の日。
アドミンさんから資料を受け取り、四天王の広間へ急いで向かった。
今日は、カオス様を交えて、5者での会議と聞いていた。
広間に着くと資料を配っているところだった。
まだ会議は始まっていない。
私は席に着いた。
するとカオス様が私の所へ来て耳打ちした。
「だいじょうぶですか?」
私は顔を赤らめて、下を向いて答えた。
「はい」
・・・・・・
カオス様は、国を離れるのを延期された。
そしてそれからは、毎晩のようにカオス様と夜を共にした。
肌を合わせ、体を重ね……私は、注いて頂いた命の流れを、愛おしく感じた。
それから3ヶ月後、カオス様との子供を授かった。
・・・・・・
そして……
そして、カオス様との子供が生まれた。
しかし、生まれてきた子は、女の子だった。
私はカオス様の適合者ではなかったようだ。
私は、この国の表側にも裏側にも、居る事は出来ない。
私は南の天王を引退した。
アドミンさんが私の後任となられた。
彼なら任せられる。
私は、この国の一般国民となった。
媛でもなく、天王でもない。
ラィンテリア国にも、アトラス国にも、私の存在は残らない。
それでいいのだ。
これからは、生まれて来たこの子と人生を送る。
その子は、カオス様から『ミサキ』という名前を付けて頂いた。
私にはマンションの広い一室が与えられた。
毎月、生活に困らないだけの金額が、カードに振り込まれる。
シノブはラィンテリアに戻った。
コノエと結婚するらしい。
コノエ……良く頑張りました。
収穫祭の時、司令官からシノブを引きはがした時、気付きました。
選挙ではシノブを補佐にして、陰ながら応援していたのですが、私を追いかけてここまで来てしまうし、やれやれです。
そして今でもシノブは、私が作ったシャトル特例乗車パスで、時々顔を見せてくれる。
まあ、傘下国のトップの妻となれば、今後も特例乗車パスは有効でしょう。
また、首脳会議が終わると、コノエ、長老、ラムス様、リオンさん、ミントさん、そして、四天王の皆さん達が私の部屋へ押しかけ、親睦会の2次会の会場となっている。
そこで私に対して今後の構想等、得意気に話してくれる。
このような機密情報、私に話して良いのだろうか。
何か解らんが、みんな私に、かまって欲しいようだ。
相変わらず賑やかな毎日を過ごさせてもらっている。
そしてカオス様も、月に数回、この部屋に訪れる。
ミサキが寝た後、カオス様と、いちゃいちゃが始まる。
「カオス様って、胸の薄い女性、好きですよね」
「そんな事はない」
「リオンさんも、大きくないし」
「そんな事はない」
「ユキも胸、小さいし」
「そんな事はない」
「私も胸、ないしー」
「そんな事は……」
「……うぅー」
私は、この幸せな生活に感謝している。
・・・・・・
それから2年が過ぎた。
ユキは、アトラス大学を首席で卒業し、上層部への採用が決まったとの事だ。
この国の裏側の組織を始めて知る事になる。
皇帝に直接お会い出来るのは32人委員以上。
ユキ……もう少しですよ。
もう少しで、ユキが想いを寄せる人に、会えるのですよ。
でもその人は……今、私の隣で寝ているのです。
・・・・・・
それから3年後、ユキはカオス様との間で男の子を出産した。
カオス様にとって、最初の男子である。
ユキの子供が、この国の皇帝になる。
よかった。本当に良かった。
・・・・・・
そしてミサキは6歳になり、小学校へ入学した。
小、中、高、一貫の女子学校。
ユキが卒業した学校との事だ。
入学早々、友達が2人出来たとの事。
名前はライムとシルクと言っていた。
いつも学校の帰り、3人で寄り道しているらしい。
……だが、実はこの2人、カオス様が手配したミサキのガードである事を、その時の私は知らなかった。
・・・・・・
そして、カオス様は月に数回、この部屋に訪れてくれる。
ミサキには、カオス様が父親である事を教えていない。
カオス様は私の兄で、仕事でこの地区に来た時、泊まりに来られると伝えている。
ミサキはカオス様が大好きで、3人で食事をするのが嬉しいらしい。
良かった……本当に良かった。
次回:(最終話)天空の媛




