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⑻ 天空の媛

 ミサキが寝た後、リビングでカオス様とコーヒーを飲みながら、くつろいでいた。


 カオス様が話しをしてくれた。

「初代皇帝が生まれた大陸の話をしましょう」

「……初代皇帝は、ここで生まれたのではないのですか?」


「初代皇帝は、その大陸からこの地に移り、アトラス帝国を築き上げたのです」

「初代皇帝が生まれた大陸……」


「今から、およそ1万年前、その地に巨大な地殻変動が起こり、広大な大地を垂直に押し上げました」

「垂直に押し上げた?」


「その押し上げられた大地は、断層の亀裂によって押し上げられた為、周りの地に対して垂直にそびえる形で接しているのです」

「垂直にそびえる大地……」


「そして、その広さは、このアトラス国よりも広く、押し上げられた高さは数百メートルに及びます。その為、周りの地に住む人たちは、その地を訪れる事が出来ません。彼らは、そのそびえたつ大地を仰ぎみて、天空の大陸と呼びました」

「天空の大陸……」


「持ち上げられた大地には、数百人の人間が居ました。彼らは、その地から降りる事が出来ない為、そこで生きていくしかなかったのです。幸いその地には森林があり、野生動物が生息していました。また、森林から流れる小川、それが流れ着く湖があり、そこに魚なども生息していました」


「陸のガラパゴスになってしまったのですね」

「はい。……ただ、空を飛ぶ事の出来る鳥等は、その地を自由に訪れる事が出来ます」

「その地を訪れる事ができるのは、空を飛べるもの……」


「外部との接触を断たれた世界で、彼らは子を産み、育てました。閉じた世界で男女が交わり、子を産む。その血は、少しずつ濃くなっていきます。それによって、突然変異が起きたのかもしれません」

「突然変異……」


「そして、その地に特殊な能力を持つ者が生まれました。彼はその力で天空の大陸を治め、国を創りました。我々は、天空の大陸に創られたその国を『始祖の国』と呼んでいます」

「始祖の国……」


「彼は、その特殊な能力で、この先の未来を探るように見て行きました。そして、ついに終えんを迎えてしまう未来を見てしまったのです。2212年、人類は滅亡する」

「……はい」


「彼は悩みました。その未来を受け入れるか、それとも抗うか。しかし、抗うとなれば、自分1人の力では叶わない。そして、自分の代では叶わない」

「……はい」


「残念ながら、生まれてきた子供は必ず女子で、特殊能力は受け継がれていません。彼は、突然変異によるY染色体を受け継いだ男子を授かる事の出来る女性を探しました」

「数十万人に1人の、適合者ですね」


「しかし、この閉じた大陸に、適合者はいませんでした。そこで彼は適合者を探し出す為、下界に降りる事を決意しました。彼がその地を離れるにあたり、3人の妻と8人の娘に、1つの事を言い渡しました。『この血を決して絶やしてはならない』」

「……この血を……」


「そして彼は、未来から読み取った技術でパラグライダーのようなものを作り、4人の配下を連れて下界へ降りました。そして、この地にアトラス帝国を築き上げたのです」


「その方が、アトラス帝国の初代皇帝……そして4人の配下とは、初代四天王に就かれた方でしょうか」

「ご明察です」

「そのような始まりが、あったのですね」


「初代皇帝が残した予言があります。天空の大陸で『特殊な力を持つ女性』が誕生した時、真に望む未来が開かれるであろう」

「真に望む未来?」


「我々特殊能力者が出来る事は、単に未来を見る事だけなのです。望んだ未来に辿り着く為には、現在をどのように変えなければならないか、実は解っていません。我々は少しずつ現在を変えながら、変わりゆく未来を読み取り、望む未来に近づけようとしています。しかしその先が、人類滅亡を回避する未来へ繋がるのか、その確証はありません」

「……たしかに」


「初代皇帝が予言した『特殊な力を持つ女性』とは、天空の大陸で、特殊なX染色体を獲得して生まれてくる女性であろう。我々は、その女性を『天空の媛』と名付けました」

「……天空の媛」


「初代皇帝の特殊なY染色体を受け継ぐ皇帝と、天空の媛が交わった時、生まれて来る子供こそが、真に望む未来へ導く事が出来る。初代皇帝の予言は、そのように解釈され、代々の皇帝は天空の媛の生誕を待ちわびました。しかし、未だ始祖の国から天空の媛の生誕は報告されません」


「代々の皇帝は、天空の媛の生誕を待ちわびながら、初代皇帝の血を繋いできたのですね」

「……はい」


 天空の媛……聞き覚えがある。

 そう、ラィンテリアで司令官が皇帝である事を知ってしまった時、司令官の話の中に出て来た。

 その時の私は、それが何を意味するのか、まったく解らなかった。


 私は改めて、頭の中を整理した。

 皇帝一族には、切に望んでいる事があった。

 それは、初代皇帝から引き継いだ特殊なY染色体と受精出来る女性(適合者)を1人でも多く探し出す事。

 しかし、最も望んでいる事は、天空の大陸で、特殊なX染色体を獲得して生まれて来る『天空の媛』の生誕。


 そして私は、まだ知らなかった。

 女として生まれたミサキが、特殊な遺伝子を受け継いでいる事を。


〔 完 〕


最後までお付き合い頂いた読者さま、本当にありがとうございました。

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