⑴ ステイン王国
私は、直属の部下である8名と、シノブを南の天王の広間に招集し、話をした。
「これより私は、しばらくこの国を離れます。シノブ、申し訳ありませんが、私に同行して下さい」
「はい」
「お待ち下さい」
言葉を挟んだのは、アドミンさんだった。
「突然、そのような事、承服しかねます」
「アドミンさん、私が留守のあいだ、南の天王代理をお願いします」
「……私がですか」
「はい、貴方なら、お任せできます」
「いえ、お待ちください。この国を離れると申されましたが、スジャク様に何かありましたら」
「シノブが付いていますので、私のガードは心配いりません」
「しかし、せめて行き先と目的をお教え下さい」
「行き先は、ここから南のステイン王国、目的は視察です」
「視察?」
「はい」
「……この国には、四天王様にしか明かされない事があると聞いております。ですのでスジャク様の行動は、私の理解の外にある事は伺えます。しかしながら、もう少し、我ら8人を使って頂いても良いのではないでしょうか」
私は、慌てて弁明した。
「いえ、私は決して皆さんと、ご一緒したくないといった訳ではありませんので……」
「ではスジャク様の向かわれる先へ、我ら8人の中から1人、ご同行させて頂きたく願います」
「え、それは、むしろありがたいお話しなのですが、皆様のお手を煩わしてはいけないかと思いまして」
「何をおっしゃいます。ミント、貴女にスジャク様とのご同行、願えますか?」
「はい。喜んで」
という事で、私とシノブとミントさんの3人で、ステイン王国へ出発する事となった。
ミントさんは、私の8人の部下の中で一番若い女性である。
といっても私より7歳年上で、丁度コノエと同じ年齢。
コノエは私の幼少の頃からの付き合いの為、私としては使いやすいのだが、今回初めてご一緒するミントさんについては、どうしても遠慮してしまう。
ただ、私の持つ裁量権の大きさと、その限界を詳しく知っている為、アドミンさんは、私にミントさんを付けてくれたのだろう。
今回もまた、ティファール王国へ行った時と同様に、夜間、ステイン王国の国境付近までヘリで行き、我々と中継機等を降ろしてヘリには帰ってもらった。
中継機をセットした。
これで、私達3人と、アトラスまでの通話が可能となる。
また、アトラスを経由して、ラィンテリアのコノエとも通話が可能となった。
前回同様、簡易テントで一夜を過ごし、明け方ステイン王国に向けて出発した。
この国の穀倉地帯へ入ったが、人がほとんどいない。荒れ果てた畑が目立つ。
多くの農民はこの国を捨てて国外へ移住したようだ。
捨てられたクワを見つけた。
このクワで荒れた畑の土を掘ってみる。
ミントさんが声をかけてきた。
「スジャク様、何をなさっているのですか」
「この国の土質を調べています」
表面の乾ききった土。
しかし、僅かに掘り起こすと湿った土となる。
土質は悪くない。
何故、作物を育てない。
更に先へ進むと、畑仕事をしている人がいる。
痩せた作物が目に付くが、まだここで農業を続けている。
市街地に入った。町の様子を見て回る。
以前のティファール王国より酷い。
店のほとんどが開いていない。
通りすがりの人を見ると痩せた老人ばかりが目に付く。
そして元気が無い。水と僅かな蓄えで食べているのか……これはいけない。
私は城を訪ねた。衛兵らしき人もいない。そのまま奥へ進み、王の広間へ向かった。
このような荒れ果てた城に、誰か住んでいるのだろうか。
王の広間に着いた。
1人の老人が、広間の真ん中で火を焚き、魚を焼いている。
私は声を掛けた。
「ステイン王!」
彼は振り向き、私の顔を見てしばらくした後、私に気付き言葉を返した。
「おーラィンテリア王国のクレア媛ではありませんか、懐かしい」
「はい。ご無沙汰しております」
「して、こんな老いぼれに、何の御用かな」
「あの……この状況、如何なされたのでしょうか」
「いや……まったくもって、お恥ずかしい」
私は、このステイン国王から、事の始まりを聞いた。
作物の収穫が著しく減少し、生きる為に隣国アトラス国に兵を出したが国境付近で追い払われ、その後報復攻撃を受け、この国を管理する者達は皆バラバラとなり、治安は乱れ流通は止まり、全ての国民は自給自足の生活を強いられるようになった。
食べ物といったら、川で捕れる僅かな魚と、山で採れる木の実やキノコ等で、それで食べ繋いでいるとの事。
多くの国民は、この国を捨てて別の地へ移った。
残った者は、別の地へ移るだけの体力も無い老人ばかりとの事である。
国王は話された。
「国民を守りたいが為、隣の国へ攻め込もうとした。あの時の判断が、そもそも間違いだった」
そう、ラィンテリア王国も同じ間違いを犯した。
しかし、このままではいけない。
残された国民の命を守らなければ。
私は食料を支援する事を申し出た。
「そ、そのような事、媛様に出来るのですか」
私は、さっそくラィンテリアのコノエに連絡した。
「至急、生鮮食料品200トン、オフロード・ダンプカーでステイン王国まで運んでくれないか?」
そして、アトラスのアドミンさんに連絡した。
「ラィンテリアから収めた穀物の中で200トンほど、ステイン王国へ廻して下さい」
・・・・・・
ラィンテリアとアトラスから、食料が届いた。
オフロード・ダンプカーで国民に食べ物を配りながら国中を走り回る。
国民は驚き、大喜びである。
「なんということだ……」
ステイン国王は歓喜の涙を流していた。
今日は、この城の空いている部屋に泊まらせて頂く事とした。
突然ミントさんが発言した。
「スジャク様、あまりにも計画性がありません! 思い付きと言いましょうか、突発的と言いましょうか」
「いや、急を要する」
「それは、ご理解致します。しかしながら、本日お配りした食料、決してあり余っている物ではありません。今回、西の国へ電力を30%まわすお約束をなさったと聞いております」
「あ、ああ」
「今回お配りした穀物は、そのエネルギーに変換させる予定の12%にあたります」
「そ、そうか……」
今度の四天王会議で、私の代理のアドミンさんが、お約束を守れなくなった謝罪をする事になるだろう。
しかし、人の命には代えられない。
「それと、200トンもの生鮮食料品を用意しましたが、穀物ならまだしも、生鮮食料品は保存出来ません」
「そ、そうだ」
「もっと、物事を深くお考えの上で、ご指示下さい」
ああ、まったくミントさんの言われるとおりだ。
私は、ミントさんに訊ねた。
「私の裁量として、動かす事の出来るお金はどのくらいでしょう」
「南の天王であるスジャク様でしたら、年間3000万Gご自分の判断で動かす事が出来ます」
※)1G金貨1枚 (金貨1枚=日本円で10万円)
「さ、3000万G!」 (3兆円)
シノブが驚いた声を上げた。
「で、では、なんとかなるではないか……ハハハハ」
「いいえ、堅実こそが、今大切な時です」
たしかに、そのとおりかもしれない。
だが私には、今回の行動の裏に、国力を見せつけ、この国をアトラスの傘下に落とす狙いがある。
よって、ちまちまと物資を供給していてはインパクトが無い。
ドカンと見せつける所から、私の目論見は始まる。
どうも、ミントさんとは、感覚の違いがあるようだ。
ミントさんの堅実さは良い事なのだが、私とは気が合わないかもしれない。
次回:何故作物が育たない




