⑹ 媛の選択
次の日、再び天元の広間で、昨日の話の続きをして頂いた。
カオス様が話しを始めた。
「昨日は、ゆっくりと寝られましたか」
「はい。……いいえ」
カオス様が、静かに笑っている。
「昨日の話で、何かありましたら、どうぞ」
「はい、世界征服とのお話ですが、どのような方法で征服されるのでしょう」
「武力を持って征服しては、我々が望む未来とは異なる世界が出来上がってしまうと考えています。よって我々は、武力ではなく、経済力で世界を征服する事を考えています」
「ラィンテリアに対して行ったようにですね」
「はい。ラィンテリアは、今後に向けての実験でした」
「……実験?」
「はい。本来であれば、起きないはずの未来です。その先を読み取る為の実験です」
「……なるほど」
「そしてその国には、アトラスの息の掛かった者に統治してもらいます」
「しかし、ラィンテリアは敗戦といった現実からの流れがありましたが、他の国に対しては難しいのでは」
「はい、難しいところです……そのお話は、また日を改めて、貴女のお考えもお話し下さい」
「了解しました。そしてもう一つ、お聞きしたい事があります」
「どうぞ」
「人類滅亡の未来を改変する為の世界征服についてですが、それは、資源の平等分配等のお話しでした。それは、人類全体に対して、平等の社会を目指すという考えでしょうか」
「いえ、この自然界の根底にある理は、弱肉強食と考えています。我々は、持って生まれた不平等を排除し、有効資源の平等分配といった環境を整えた上での自発的な競争社会を目指しています。まったく競争の無い社会は、それもまた、滅亡を招いてしまうと考えています」
「なるほど、了解しました。それでは昨日のお話の続きをお願いします」
「はい。大体概要は、昨日お話し致しましたが、最後に1つ大切なお話しがあります」
「はい」
「今からお話する事につきまして、貴女には2つの選択肢があります。貴女はこの国の表側で、今現在、最上位にいます。その一方で、貴女は私の適合者である可能性があります。このまま南の天王の職を続けるか、それとも私の子を授かるか」
私は質問した。
「もしも、生まれてきた子が女子であった場合、私は適合者ではなかった事になります。その場合、私とその子は、どのようになるのでしょう」
「私の子を産んだ以上、四天王として表舞台には居られません。しかし特殊能力を受け継いでいないのであれば、この国の裏側にも入れません。よって、あなたとその子は二人で、一般国民としての生活を送る事になります」
「了解しました。私と致しましてはその処遇、お受け致す考えです。しかしながらその前に、私の選択は、四天王としての職務を選びたく思います……しばらくは」
「……しばらくは……ですか」
「はい。私はカオス様を愛しております。その結果がどうであろうと、私はカオス様との子を授かりたいです。しかしながら、世界征服のお話を聞いた今、私には、先に成すべき事があります」
……そう、人類滅亡の未来、それに抗う為の世界征服構想。
この話を聞いてから、人を愛する事へのフワフワとした気持ち、恥しい気持ち等、どうでも良くなってしまった。
おそらくカオス様は、とうの昔から、そうであったのだろう。
私の答えに、カオスさまは穏やかな表情で返された。
「了解しました。では、このまま南の天王の職務をお願いします」
「はい」
……人類が滅亡するのが神の意志であるならば、人類は滅亡すべき存在なのかもしれない。
それに従う事こそが正義であり、抗う事は神への反逆とカオス様は言われた。
しかし、私はその運命に抗う事にした。
その運命に抗う事が出来れば、それもまた、神の意志である。
私は、そのように考えた。
・・・・・・
数日後、カオス様は国を離れた。
私が四天王としての職務を選んだからである。
よってカオス様は、新たな適合者を探しに出られたのだ。
人類の未来を繋ぐ為、カオス様は真剣なのだ。
……しかし……女性を物色する旅である。
なんというか……実に恥ずかしい。
いや、いかん、いかん。
私の愛する人、笑ってはいけない(笑)
さて、今日は週に1度の四天王会議であり、四天王が一同に集まる。
四天王は、その4人に上下関係は無いが、在職期間が一番長い北の天王ゲンブ殿が、会議の進行を務める。
内容は主に2つ。
1つは法律の改正提起。
この国は、独立した4つの国であるが、法律は1つである。
法律の改正には、4人の合意を基に行われる。
今回、法律の改正提起はなかった。
そしてもう1つの内容は、各国の状況報告である。
私が治める南部国は、私の優秀な部下8人によって、報告書はまとめられている。
私は単にそれを読み上げるだけである。
私の国は、特に問題はない。
西の天王、ビヤッコ殿から申し出があった。
西部国の電力を賄う発電所が、大規模なメンテナンス工事を予定している為、需要に対して供給が下回る事が懸念される。
各国の電力を廻してもらえないだろうかといった内容であった。
東の天王セイリュウ殿から12%廻しましょうとの事だ。
北の天王ゲンブ殿からは18%廻す事が可能との事。
私の国の電力状況を確認すると、予測した需要の最大値は、供給最大値の70%との事。
そこで南部国からは30%廻す事が可能ですと伝えた。
「すばらしい」と、言って頂いた。
これはみんな、前任の南の天王のおかげである。
さて、私がカオス様からの選択肢の中で、南の天王の職務を選んだのは、こんな事をする為ではない。
世界を征服する。
他の国を支配する。
その現実を知らなければならない。
アトラスは現在、ラィンテリアを支配下においた。
そしてリオンさんが嫁いだティファール王国も、いずれ支配下に置く事が出来るだろう。
そうやって、徐々に支配領域を広げていけばいい。
ユキから聞いた話だが、以前、アトラスに対して侵略を行おうとした国が、ラィンテリアの他に、もう1つある。
アトラスにとって、南に位置するステイン王国だ。
アトラスは鎖国している為、隣国との関係がまったく無い。
しかしラィンテリアにとって、ステイン王国と言えば交流のあった国。
ステイン王国は、何故アトラスを侵略しようとした。
そして今、ステイン王国は、どうなっている。
私は、元ラィンテリア王国の王女、ステイン王国とは繋がりがある。
そして、現在はアトラス四天王の一角。とてつもない裁量権を持っている。
今の私なら……ステイン王国を、落せるかもしれない。
いよいよ媛さまが、世界征服に向けて動き出します。
次回:(第8章1話)ステイン王国




