⑸ アトラスの陰謀
カオス様から、話があるとの事で呼び出された。
シノブから、気の無い態度で接するように言い渡されたが、今の私は嬉しさを隠す事が出来ない。
やはり私はダメダメだ……等と思いながらも、顔は緩んでいる。
さて、私が呼び出されたのは、天元の広間だった。
カオス様が現れ、私と向かい合わせに座った。
『あなたの心を盗んで差し上げましょう』等と言ったてまえ、非常に恥ずかしい。
カオス様が話し始めた。
「この国の仕組みにつきまして、先日アドミン殿からお話を伺ったと思いますが、この上層部でも四天王にしか明かされない事があります」
ん……私の『盗んで差し上げましょう』発言、まったくの、無視か。
「……はい」
「四天王になられた貴女に、この事をお伝えします」
「はい」
「アトラス国の初代皇帝は、特殊な力を持ち合わせていました」
「はい。その力で、これだけの技術を手に入れ、この国を発展させてきた事をアドミンさんから教えて頂きました」
「では、その目的とは何でしょう」
「その説明がありませんでした」
「その目的につきましては、四天王に就かれた方にのみ、明かしております」
うーなんか、やばい話の予感しかしない……。
「……はい」
「まずは、その特殊な力についてですが、我々はその能力を、未来視と呼んでいます」
「ミライシ?」
「初代皇帝は、知ってしまいました。人類は西暦2212年に滅亡する」
「……ハハハ」
「……」
「えーっと」
「貴女なら、どうしますか?」
「どうしますかと言われましても」
「初代皇帝は悩みました。その未来を受け入れるか、それとも抗うか」
「抗うなんて、出来るのですか?」
「初代皇帝は抗う事にしました。しかし、自分1人の力では叶わない。自分の代では叶わない」
「それで、特殊能力者を増やしているのですね」
「はい。特殊能力者によって読み取った未来の技術を取り込む事で、この国を発展させてきました」
「そんな事、できるのですか?」
「特殊能力者は、現在の少し先のテクノロジーを読み取り、そのイメージを示教委員に伝えます。示教委員は現在の科学技術から、その仕組みを解き明かしていきます。そして解き明かされたものを一般国民に開示する事で発展させてきました」
「……どのくらい発展したのですか」
「初代皇帝は、西暦1000年に生まれた人です。現在1200年ですので、アトラスはこの200年間で、西暦2000年レベルまで追いつきました」
「これが、西暦2000年の社会」
「そうです」
「未来視能力って、まだ起きていない未来が、何故見えるのですか」
「その説明は非常に難しいのですが……チェスというゲームをご存じですか?」
「いいえ」
「盤上で交互に駒を動かします。駒には動かせるルールがあります。相手のキングを追い詰めた方が勝ちというゲームです」
「はい」
「このゲーム、上級者になると10手先、20手先が読めるのです。そして名人になると、中盤で最終局面が見えるのです」
「……はい」
「それに似ています。特殊能力者は頭の裏側で、莫大なビジョンを展開する事で、この先の未来を見る事が出来るのです。」
「いやーそんな、少し先の未来ならともかく、1000年も先の未来なんて見えるのですか? そう、以前ユキさんと大学の学祭で経済学の授業を受けたのですが、その中で……たしかラプラスの悪魔という未来を読み取るお話しがありましたが、実際は原因による結果は不確定で、確実な未来を見る事は出来ないとのお話しでした」
「はい、それは西暦2000年での結論です。その後、量子コンピューターの発達から余剰次元の研究が進み、不確定と見なされていた振る舞いが、特殊な規則性に従っている事が解りました。我々は、宇宙の理と一体になる事で、このまま進んだ先の未来が見えるのです」
「……で、その未来視によると、何が原因で人類は滅亡するのですか」
「人口爆発による地球資源の奪い合いです」
「……はあ?」
「現在西暦1200年、世界の人口は約4億人です。その後、徐々に人口が増えていくのですが、1700年に産業革命が起こり、世界人口の増加は加速していきます。そして1900年には16億人の人口が、2000年には80億人となります」
「な、なんと!」
「それからも人口は増え続け、この地球上で人類全体を養うだけの供給が追い付かなくなります。この問題は、2000年頃から現れるのですが、有効な手だてを打つ事が出来ず、人口は増える一方です。人間は食べなければ生きていけません」
「……そうです」
「生きるか死ぬかの瀬戸際に立った時、話し合いでは解決できないのです」
「残念ながら、そうかもしれません」
「話し合いで解決出来ない状況において、人類は考えました。人口を減らせば良い」
「……?」
「そして、取り返しのつかない未来を選択してしまったのです」
「トリカエシノツカナイ……?」
「話し合いで解決する為には、このような状況に陥る前に、手を打たなければならないのです」
「……はい」
「そして、それは今なのです」
「……で、四天王にしか明かしていないという……この国の目指す目的とは……この国は何をするおつもりですか?」
「アトラスは、この科学力を持って、世界を征服します」
「……はあ?」
「世界を統一し、有効資源の平等分配、未開地の開拓、生活に不適合な地域に住む人達の移住、人口の抑制等、人類全体をコントロールします」
「どうやって?」
「私の一族、特殊能力者を各国に送り込みます」
「うわー」
「人類は、滅亡すべき存在なのかもしれません。それが神の意志であるならば、それに抗う行為は神への反逆です。我々皇帝一族が相手にしているのは、他の国でも人間でもありません。相手にしているのは、神です」
「ちょっとまって……頭が追い付かないです。この続きは、また今度という事で、ちょっと頭ん中、整理させて下さい」
「わかりました。では、この続きは、また明日」
・・・・・・
私は、自分の部屋へ戻った。
シノブがラィンテリアから帰って来ていた。
私がカオス様と会っていたのを知って聞いて来る。
「ねえ、どうだった? どうだった?」
そんなシノブの声も、今の私には届かない。
ベッドで横になって考える。
先ほどの話、あれは本気だ。
それともう1つ。今までのアトラスは準備段階だったのだろう。
そして、そろそろ世界征服に向けて、動き出す段階に入るのではないだろうか?
そう『こうなる前に手を打たなければならないのです。そしてそれは今なのです』と、言っていた。
でも、本当にそんな事が、2212年に起こるのだろうか……
私には……
人類滅亡の未来に抗う為の世界征服構想。
このような計画、アトラスの一般国民に対して、ましてや他国の人間に対して、知らせる訳にはいきません。
よってアトラスは、国全体を巨大な壁で囲み、その内部でコソコソと、その計画を進めていたようです。
次回:(第7章終話)媛の選択




