⑶ 恋愛マスター
ディスプレイから呼び出し音が鳴った。
部下の女性の顔が映っている。
「どうしましたか」
「外から無断で入国した者を捕えました」
「……難民ですか?」
「いえ、このような事、本来スジャク様にお伝えするような事ではないのですが、その者、迷い込んで、この国の裏側に入り込んでしまいました」
「はあ……そのような場合、どうしたら良いのでしょう」
「その者、ラィンテリアとの路線に忍び込んで入国された事からラィンテリアの国民ではないかと思いまして、スジャク様にご連絡致しました」
「な、なんという事でしょう。わかりました、その者に会いに行きます。どちらへ行けば良いでしょう」
「エレベーターで3階までお降り下さい。エレベーター前でお待ちします」
「はい、わかりました」
やれやれ、あのステーションのエレベーター、誰でも乗れてしまうから、こっそりとシャトルに乗れば、ここまで来れてしまう。
しかし、いきなりこの国の裏側へ迷い込んでしまうとは、厄介な事をしてくれたものだ。
3階に着いてエレベーターの扉が開いた。
「うぅぅ……媛さまー」
「シノブではないか」
「媛さま……ひどいです……私を置いて……ひどいですー」
私は、私の権限でシノブを私の側付きとした。
そしてシノブを南の天王の広間へ連れて来た。
「媛さま、どうしたんですか、すごいですねー」
「ああ、私は今、南の天王だからな」
「ハハハハッ……えーーーっ」
私は、他言しない事を厳格に約束させた上で、今までの事をシノブに話した。
特に司令官がアトラスの皇帝であったという事には驚いていた。
私はシノブに伝えた。
「ここへ来て、この国の裏側を見てしまった以上、見る前には戻れません。今後も私を支えて下さい」
「はい、私の命に代えましても」
シノブは私を追いかけて、この路線の貨物車両に忍び込んで来たようだ。
私は、私の権限でシャトル乗車パスを作り、シノブに与えた。
これでシノブはアトラスとラィンテリアを自由に行き来出来る。
コノエによる国の統治も気になる。
定期的に、様子を見に行ってもらう為だ。
私はシノブに、司令官との話をした。
『私がカオス様のお心を盗んで差し上げましょう』等と言ってしまった事。
するとシノブは、急に得意顔になって言った。
「媛さまにしては上出来です」
「……にしては?」
「わかりました。ご安心下さい。これからは『恋愛マスター』の、この私が、御指南いたしましょう」
「そ、そうですか……よろしくお願いします」
「まかせなさい」
……大丈夫だろうか?
「まず、媛さまの、そのお言葉を聞いて、カオス様は意識されているはずです」
「そ、そうか」
「そこで、なびいてはいけません」
「と、いうと?」
「今度は、気の無い態度で接するのです。ただし! 無視してはいけません。無視すれば、こちらが意識している事がバレてしまいます」
「なるほど」
「殿方を陥落させる術:その39、放置プレイの術です」
「……しかし、そのような事をしては、嫌われてしまうのではないか?」
「これは、駆け引きです。先にネを上げた者が負けです」
「どうだろう……私としては駆け引き等しないで、真摯にお付き合いしたいのだが」
すると、シノブが声をはりあげた。
「媛さま!」
「は、はい」
「媛さまは『お心を盗んで差し上げましょう』と言われたのですよね!」
「はい」
「その無い胸で、どうやって殿方のお心を盗めるのでしょう!」
「うっ……うぅぅぅっ」
私はその日、涙を流しながら寝た。
媛さま、ファイトぉ!
次回:ホットライン




