⑵ 適合者
次に私は、四天王の広間へ行った。
しかし、今は誰もいなかった。
とても広い部屋である。
しばらくすると、四天王の広間に、司令官が現れた。
「出たな! 司令官もどき!」
「今後、私の事は、カオスとお呼び下さい」
「了解した……はい。で、私は何をしたら良いのでしょう」
「私の子を産んで下さい」
「……はぁ?」
「貴女は私の適合者かもしれません」
「本当ですか!」
「はい」
「……かもしれない?」
「……はい」
「ちょっと待って下さい。以前、司令官……じゃなかったカオス様は、私のような胸のない娘に、興味無いようでした!」
「はい、興味ありません。私が欲しいのは、貴女との子供です」
「……あのね、子供ってどうやって出来るか、知ってます?」
「はい」
「……あのですねえ、子供は愛が無ければつくれないんです!」
「はい。でしたら貴女は、私を愛して下さい」
「はい……いえ、ななな……なんですか、カオス様は、どうなんですか!」
「私が愛した女性は、生涯ただ1人です」
だめだーお子ちゃまだー
私は呆れた口調で尋ねた。
「……で……そのかたは?」
「他のところへ嫁がれました」
「なんだそれ!」
「……」
「……まあ、良いでしょう。私とて元は王国の王女、愛の無い交わりの1つや2つ、些細な事と心得ております」
「……そうなのですか?」
「み、見くびってもらっては困ります。私など、今までお相手した殿方の数など、数えきれないほどで」
「シノブ殿によりますと、媛は正真正銘、その手の経験はありませんので……と言われていましたが」
あ、あのおしゃべりシノブ、私の個人情報を!
「……はっ、はっはっはっ」
私は笑ってその場からフェードアウトした。
・・・・・・
私は自分の部屋へ戻り、頭の中を整理する。
私は今、行かなければならない所がある。
それは、ティファール王国だ。
ラムス王子に対して、結婚のお祝いに伺う約束をしていた。
しかし、実はそれは二の次である。
本当の目的は、前任南の天王に会う為。
私の前では、リオンと名乗っていた。
カオス様が愛された女性。
そのかたは、他のところへ嫁がれたとの事。
確証は無いが、リオンさんのような気がする。
カオス様は、生涯ただ1人の愛した女性と言われた。
リオンさんは何故、カオス様から離れた。
私は会わなければいけない。
私は、ラムス王子の結婚祝いに伺う事を口実に、セリカとココアをガードに付けて、ヘリでティファール王国へ向かった。
「セリカさんも、ココアさんも、急にお願いして、申し訳ありません」
セリカが言った。
「何をおっしゃいます。南の天王様の護衛任務にご指名頂き、大変光栄です」
ココアもうなずいている。
なるほど、この2人、司令官が皇帝である事、知らないようだ。
それから2時間後、ティファール王国の上空に着いた。
もうこの国には、アトラスの技術を隠す必要も無い。
城の中庭に着陸した。
ラムス王子は歓迎してくれた。そして結婚のお祝いをした。
その後、町の様子を伺った。
店には沢山の品物が並べられている。私が幼少の頃に見た活気が戻っていた。
良かった、本当に良かった。
そして、リオンさんと2人で城の屋上で話しをした。
私は、いきなりカマをかけた。
何も知らないのだが、いかにも知っているかのように話をする。
相手の反応から読み取るのだ。
「リオンさんは、何故、カオス様と別れたのですか?」
「……はい?」
リオンさんは、首をかしげた。
しまった!
空振りだったか!
リオンさんは、静かに笑って答えた。
「そうですね。もうやめましょう。もう過去の事です」
「えっ?」
「はい。貴女のお察しの通りです」
「ははは……やはりそうだったのですね」
私の想像が当たっていた事に、複雑な気持ちが心の一部にあった。
リオンさんが言われた。
「私は、カオス様の適合者ではありません」
「いえ、そんなことは……」
「現在、私のおなかには、ラムス様の子を授かっています」
「えっ、あっ、だから式を早めたのですか?」
「ええ、それもありますが、私の……カオス様への未練を断ち切る為に、ラムス様が早めてくれました」
「……ラムス様は、その事を?」
「はい、知っています。私はラムス様の求婚に対しまして、私が想いを寄せている方がいる事。しかし、その方との想いが叶わない事。そして、その方への未練を引きずっている事をお話ししてお断りしました。しかし、それでも結婚して欲しいと言われまして」
「は~ラムス様、カッケェ~」
「はい」
「あっ、改めまして、ご懐妊おめでとうございます」
「ありがとうございます」
その後、しばらく沈黙が続いた。
そしてリオンさんは話し始めた。
「貴女は、カオス様の適合者なのですね」
「あ……いえ、解らないのです」
「……そんな事って、あるのでしょうか?」
「私……どうしたら良いか……」
「示教委員のシャルルさんを訪ねると良いでしょう。適合者の研究をされています。ご相談に乗って頂けると思います」
「示教委員のシャルルさん……ですね」
「貴女がカオス様の適合者でしたら、カオス様を、よろしくお願いします」
「カオス様は、今でも貴女を慕っています」
「それは光栄です」
なんだろう、リオンさんにとってカオス様は、もう過去の人になられてしまったようだ。
・・・・・・
私は、ラムス王子に挨拶してアトラスへ戻った。
そして、示教委員のシャルルさんを訪ねた。
「適合者についてですね」
「はい」
「そもそも、特殊能力者とは、突然変異を起こしたY染色体を持つ者なのです」
「突然変異ですか」
「特殊能力者と通常の女性とのあいだでは、突然変異を起こしたY染色体は拒絶され、X染色体との受精によって正常な女子が生まれます」
「はい」
「しかし、特殊能力者と適合者との受精では、その異常因子であるY染色体を取り込んだまま細胞分裂を起こし、特殊能力を受け継いだ男子が生まれるのです」
シャルルさんは、複雑な表情を浮かべていた。
ここでは特殊能力者を、異常因子を受け継いだ者と表現されている。
「あともう1つ質問があります」
「はい、私の解る事でしたら」
「私は、カオス様の適合者なのでしょうか?」
シャルルさんは、私の質問に対して不思議な顔をされた。
「……カオス様は、何て言われていますか?」
「解らないと言われました」
「……そのような話、初めて聞きました」
「……はい」
「適合者かどうかは、皇帝本人にしか解らないのです。その女性と交わった時、生まれてくる子供が男子か女子か、それを特殊能力によって見分けるようです。それと、誰々の適合者と呼んでいます。つまり、カオス様のお父様の適合者であっても、カオス様にとっては適合者ではないのです」
「……そうなのですね」
「乱暴な話になりますが、カオス様との間で男子が生まれれば、あなたは適合者という事になります。そして、女子が生まれれば、適合者ではなかった事になります」
「はい」
「これは、冷静に判断しなければいけません。もし、皇帝との間で生まれて来た子が女子であった場合、スジャク様とその子は、この国の表側にも裏側にも居場所が無くなります」
「はい。私は大丈夫です。私はカオス様を愛していますので」
私はシャルルさんにお礼を言って、この場を後にした。
カオス様は言われた。
『私が愛した女性は、生涯ただ1人』
ならば、私がカオス様の呪縛を解いてみせる。
今の私なら何でも出来そうな気がしてきた。
私はカオス様を訪ねた。
そしてカオス様に伝えた。
「私がカオス様のお心を盗んで差し上げましょう」
私は、それだけを伝えて、自分の部屋へ戻った。
・・・・・・
……あ゛ーーーーーっ。
恥かし、恥かし、恥かし、恥かし、恥かしーーーーーッ。
盗んで差し上げましょうって、なんなんだよー。
今の私なら、何でも出来そうな気がしてきたぁ?
何も出来ないよー
あ゛ーーーーーっ。
私はその日、布団の中で丸まって寝た。
媛さま、ガンバレ~!
次回:恋愛マスター




