⑹ 引退
私は一人の長老を呼んだ。
戦後、私がこの国を治める為の演説を行った際、私に協力してくれた長老である。
「媛様、お久しぶりでございます」
「ああ、お呼びだてして申し訳ない。で、一つ頼み事がある」
「はい、どのようなご用件でしょう」
「今度の件は、少し厄介な頼み事となる」
「……と申されますと?」
私は今回の選挙状況を話した。
そして、動いてもらいたい内容を伝えた。
長老の表情が、険しく歪んだ。
「どうだろうか、手を貸してもらえないだろうか」
「こっ、これは……私はお受け出来ません!」
「そこを、なんとか……このような事、他に頼める者はいない」
「媛様……このような年寄りに……何という、ご無体な」
「すまない……どうか、この通りだ」
私は長老にひざまずき、手を付いて頭を下げた。
長老は憤慨して帰っていった。
長老、私の願い、なんとか聞き入れてもらえないだろうか……。
・・・・・・
投票日まで、後10日となった。
コノエ陣営は、ますます苦しい立場に追い込まれている。
敵陣営は地方票を集めている。
もっと、地方にも目を向けるべきであった。
ラィンテリア大学への入学等、地方に住む人にとっては、圧倒的に不利である。
地方出身者に対しては、衣食住等、国で提供する等の配慮がなければ、入学したくても入学出来ない。
大学で新しい農業を学べた者は、生産量を上げる事が出来る。
今後、都心と地方での経済格差は、ますます広がってしまう。
地方に住む人達に対して、配慮が足りなかった。
なるほど、選挙を行う事で、色々な物が見えて来る。気付かされる。考えさせられる。
突然、コノエとシノブが私の部屋へ飛び込んできた。
コノエが血相を変えて私に伝えた。
「媛、大変な事が起きました。あの長老が今回の選挙に立候補したのです」
「なに!」
シノブが伝えた。
「問題はそこではありません。あの長老、敵陣のニシキ候補と組んだかのように、今まで媛さまが行われてきた政策を容赦なく批判しております」
「……あの長老、やってくれたか」
「投票日まで、これでは逃げ切れません。こちらが打ち出す政策を、ことごとく批判してまわっています。なんであの長老が……」
「すまない……本当にすまない」
「……媛さま?」
選挙演説は、投票日前日まで行われる。
選挙も終盤に入った。
長老陣営は地方を中心に訴えてまわった。
現在の政策に対する容赦ない批判である。
「皆さん、今、この国は、莫大な負債を抱えています。それこそ子供の代、いや、孫の代までかかっても、返済しきれない負債です。しかしながら、この莫大な負債によって、この国の都心の人達は潤っているのです。国の負債は、国民全員が背負わなければいけません。このような不公平、許して良いものでしょうか!」
・・・・・・
そして、投票日となった。
初めての選挙との事で、投票率は、有権者の99.3%まで上がった。
そして翌日、投票結果が発表された。
コノエ:48%
ニシキ:40%
長 老:12%
そう、この結果、本来ならば、
コノエ:48%
ニシキ:52%
コノエが落選する結果だった。
そこへ長老に出馬してもらい、ニシキ候補と同じ内容を国民に訴えた。
結果、長老はニシキ候補から12%の票を奪い、結果として1番多いコノエが当選となった。
選挙管理委員から、当選者が発表された。
「選挙の投票結果により、コノエ候補がラィンテリア民主国の新しい代表となりました」
そしてコノエが挨拶を行った。
「この結果から、国民の半数以上の方が今の政策に疑問を持たれている事を知る事が出来ました。また、今回の選挙で各地を廻り、特に地方に住まわれている方の苦しい生活を知る事が出来ました。この現実を真摯に受け止め、今まで以上に改善していく事をお約束致します」
拍手がわいた。良かった。本当に良かった。
あれ、シノブ……コノエの雄姿を見て、目をうるうるさせている。
うん……良かった……本当に良かった。
コノエの挨拶に拍手を送っていると、後ろから声をかけられた。
「媛様」
振り向くと、セリカとココアだった。
2人とも、アトラス国の礼服を着ている。
「司令官より言伝です。お約束を果たして頂ける時が来たようです……との言です」
「……はい、わかっております」
「私どもは、媛様をアトラスへお連れするよう、命じられております」
「はい、では行きましょう」
「あの……親しい方へのご挨拶等は……」
「いえ、いいです。もう2度とお会いする事は無いでしょう。会えば辛いだけです」
「……わかりました。では」
私達は車でシャトルステーションまで移動した。
そして、私とセリカとココアの3人でシャトルに乗った。
そう、前回、私とシノブとユキと3人でシャトルに乗った時は楽しかった。
しかし今は違う。私は真ん中の席に1人で座る。
セリカは1番前の席、ココアは1番後ろの席に座った。前後車両への対応なのだろうか。
シャトルは出発した。
司令官と交わした契約を、果たす時が来た。
『あなたは戦争責任者として私に命を差し出す。その見返りに、私はこの国の復興を支援しましょう』
アトラス国に対して、侵略戦争を起こした戦争責任者として、私が示しを付ける契約である。
司令官の配慮によって、ここまでの復興、この目で見る事が出来た。
もう、ラィンテリアに戻る事はない。
みんな、今まで本当にありがとう。
コノエ、ラィンテリア民主国を頼みます。
シノブ、コノエを支えて下さい。
長老、あなたの事は、コノエとシノブに話してあります。ご安心下さい。
ああ、ラムス王子結婚のお祝いに伺う約束、守れなかった。
黄金色に広がる麦畑の海、今年も見たかった。
収穫祭、楽しかった。今年も参加したかった。
このシャトル、私1人で座る席。今はとてもありがたい。
泣くなっ、泣くなっ、私っ……泣くなっ!
・・・・・・
やがて、私を乗せたシャトルは、アトラス国に着いた。
私は、再びアトラスの地を踏んだ。
そして私は戦争責任者として、断罪の椅子に向かった。
次の第6章は、本筋から少し離れて、カオスの1人称視点となります。
次回:(第6章1話)皇帝




