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⑸ 初めての選挙

 1週間、アトラス国の見学を終えて、私達はラィンテリアへ帰ってきた。

 シノブは、ずっとここに居たい等と言い出す始末だ。

 コノエから、私が離れている間、特に問題は無かったとの報告を受けて、安心した。


 さて、私がラィンテリアに戻って、手を付けなければならない事がある。

 司令官率いるアトラス軍が、そろそろ引き上げるとの事だ。

 その前に、この国を本当の意味で民主化を実現させなければならない。


 現在私は、この国を治める立場となっているが、国民から選ばれてなった訳ではない。

 この国が復興を遂げる為、それまでの間、私に力を貸して欲しい。

 その願いを承諾して頂き、今の私はいる。


 この国の復興も、軌道に乗せる事が出来た。

 そろそろこの国は、国民によって選ばれた人に統治させる時期に来た。

 それによってこの国は、初めて民主国家となる。


 選挙を行う。

 選ばれた者が、この国の新たな統治者となる。

 そして私は引退する。


 しかし、この国の統治を引き継ぐ者は、誰でも良い訳ではない。

 国の復興、まだ半ば。

 アトラスからの復興支援に莫大な負債を抱えている。


 現在、ラィンテリアの農地は、元の農地の50倍まで拡大した。

 当初の予定どおり、300倍まで拡大する予定だ。

 そこまで拡大して生産量を上げなければ、抱えた負債に対する返済の目途がたたない。


 よって、次ぎの統治者は、今の政策を引き継ぐ者でなければならない。

 そこでコノエに出馬してもらう事にした。

 コノエなら任せられる。その事をコノエに伝えた。


「はっ、媛様のご命令とあらば」

「いや、私には、命令する権限等、とうに無いのですから」


「では、それが媛様のお望みでしたら」

「はい、お願いします」

「はっ」


 私は、今まで司令官から学んだ事、そしてアトラス国を見学して、そこから学んだ全ての事をコノエに伝えた。

「コノエ、これからのラィンテリア民主国、任せましたよ」

「はっ、私の命に代えましても!」


 ・・・・・・


 そして、国の代表を決める、この国初めての選挙が行われる事となった。

 早速、選挙管理委員を選出し、厳正な選挙が行われるよう、その組織を作った。


 そこで、選挙としての初めてのルールが作られた。

 代表になりたい者は、18歳以上であれば、誰でも立候補できる。

 18歳以上で、ラィンテリアの国籍を持つ者全員に投票権が与えられる。


 当初、難民からの入国者に国を左右する投票権を与えて良いものかという意見が出た。

 せめて入国10年以上の者に投票権を与えるべきとの主張である。

 しかしながら、国民の中で差別が起こってはいけないといった意見から、選挙開始前に入国された者には、投票権が与えられる事となった。


 ただし、立候補は入国10年以上の者とする。

 それは、難民に紛れた破壊工作員が立候補して当選したら、国を乗っ取られてしまうといった懸念からである。


 選挙が始まった。

 現在、登録を済ませた立候補者は、コノエ1人である。

 コノエは各地を廻り、この国の将来、目指すところを演説した。


 シノブには、コノエを補佐するように頼んだ。

 他に投票日まで候補者が現れなければ、コノエが当選となり新しい代表となる。

 この国初めての選挙としては、いささか寂しいものがある……等と思っていたら、いきなり立候補者が16人となった。


 立候補者が複数となった場合、投票により一番票を集めた者がこの国の代表となる。

 彼らは自分の考えを述べて、各地を廻っている。

 しかし、感触が良くないと感じた立候補者は、次々と立候補取りやめの手続きを取り、残った候補者は、コノエともう1人だけになった。


 2人による選挙である。

 コノエと対抗する人は、地方出身の男性29歳。名前はニシキという。


 投票前の世論調査では、

  コノエ:99.8%

  ニシキ: 0.2%

 コノエを支持する人が、圧倒的に多かった。


 今まで貧しかったラィンテリアの国民にとって、ここまで生活が安定してきた。

 私の政策を引き継ぐコノエが支持されるだろう。


 私は安心した。

 これで心置きなく引退する事が出来る。


 ・・・・・・


 それから1週間が経った。

 何か嫌な予感がする。私は至急、世論調査を再度実施した。

  コノエ:78%

  ニシキ:22%


 なんなんだ、この1週間で、何が起こった。

 投票日まで、あと3週間。


 私は、今の政策を支えてくれた者達を集め、選挙対策室を作った。

 そこで、現状を整理した。

 どうも、このまま行くと、投票日には逆転される可能性が出て来る。


 私は選挙対策室の会議の席で発言した。

「ニシキ候補者に、何故票が集まり始めているのです。ニシキ陣営は、何を訴えているのです」

「地方票が集まっています。都心と違い、まだまだ生活の苦しい地域は沢山あります」


「では、ニシキ候補者なら、地方に住む方の生活を改善できるのですか?」

「ニシキ候補者が訴えているのは、こちらの政策の問題点です。この国はこれ以上負債を抱えて良いのか! と」


 ……しまった。復興は順調に進んでいる。だが、まだまだ地方にまでは潤っていない。

 この国の莫大な負債、それは国民全員が働いて返済するもの。

 恩恵を受けている都心ならまだしも、生活の苦しい地方都市にとっては、ただ借金を背負わされているだけ。

 それも1代では返済出来ない借金である。


 いけない。もしここで、ニシキ候補が当選し、政策を変えたら……ここでアトラスからの支援を断れば、現在の50倍の農地では返済しきれない。

 せめて300倍まで農地を拡大してもらうまでは、負債を増やしてでも支援してもらわなければ、この国は破綻してしまう。


 しかしこの現状、どのように説明したら良い。

 国民の同意を得て進めた政策ではない。

 どうしたら良いか。


「誰か、誰か良い案を持つ者はいませんか? 金はいくらかかってもかまいません! 金をまいてでも……」

「媛様! 金をまいて票を買うような事をしましたら、民主政治は終わりですぞ!」


「ばれなければ良い!」

「ばれない程度では、勝つほどの票にはなりません! 勝つほどの金をまけば、この国の今後の選挙は、買収選挙となりますぞ!」

「……すまない。 ……その通りだ」


 今日は一旦解散して、私は自分の部屋へ戻った。

 さて、どうしたものか。


 すると部屋をノックする音が聞こえた。

「誰か?」

「媛様にお手紙が届いております」


 手紙はティファール王国のラムス王子からであった。

 手紙を読んで仰天した。


 この度、結婚する事となった。

 相手は父の命を救い、国に広まる伝染病を食い止めてくれた医療隊のリオンである。

 7度求婚して、ようやく8度目に受けてくれた。

 来月1日、結婚式を行う。出席してほしい……との内容だ。


 国王家の結婚式にしては、急すぎる。何か事情があったのか?

 しかし、来月1日は、我が国初の、国の代表を決める投票日。

 とても出席できない。


 私は、こちらの事情を説明し、出席出来ない謝罪と、日を改めてお祝いに伺う事を手紙に書いて送った。

 まあ、元ラィンテリア国王の父も出席するとの事である。

 ここは1つ、父に私の代わりを務めていただこう。


 しかしねー……ラムス様がねー……リオンさんとねー

 私がラムス様からの求婚を受けられないと謝罪した時、ラムス様は、意外とあっさり謝罪を受け入れてくれた。


 あーあの時、既にラムス様はリオンさんに目移りしていた?

 んーありえる! 

 うぅぅ……真剣に謝罪した私が……恥ずかしい!


 しかしラムス様、リオンさんがアトラス国の南の天王だという事、知らないよねー

 これからどうすんだろーアトラス国、どうなっちゃうんだろー


 さて、今の私は、それどころではない。

 投票日まで後2週間。

  コノエ:59%

  ニシキ:41%


 敵陣が迫って来た。

 コノエ陣営苦戦である。

 どうしたものか。


 この国にとって初めての、国の代表を国民によって決める選挙である。

 このような手は、使いたくなかったのだが……。


このような手は、使いたくなかったのだが……との事ですが、

封印していたブラック クレアが、顔を出すのでしょうか!


次回:(第5章 終話)引退

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