↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/43

⑵ アトラス国

 次の日、ユキは車で迎いに来てくれた。

「おはようございます」

「よろしくお願いします」


 ユキは、笑って訊いた。

「昨日は、きちんと眠れましたか?」

「いやー」

「ハハハハ」

 私とシノブは笑って答えた。


「では、出発しましょう」

 車でステーションまで移動した。


 その建物に入ると、内部は見違えるほど綺麗になっていた。

 そう、ここで私は、司令官の正体を知ってしまった。

 それからは、ここへは来ていない。


 ユキが魔法の扉の前でボタンを押すと扉が開いた。

 あれ? 以前はカードをかざしていた。

 これなら、誰でも魔法の扉に入る事が出来てしまうではないか。


 扉の奥の部屋は、なんか前より綺麗な感じがする。

 ユキが教えてくれた。

 これはエレベーターという機械で、別の階へ行く為の乗り物との事。

 ……なんと、魔法の扉ではなかったのか。


 そして私達は、下の階へ向かうとの事だ。

 扉の奥の部屋に入りユキがボタンを押すと、扉が閉じると同時に『プシュー』と音が鳴った。


 ユキは下を向いて恥かしそうに言った。

「気にしないで下さい。このステーション設計者のご趣味と言いますか……宇宙船のエアハッチが閉じる時の効果音とか……」

「はあ?」


「これからシャトルに乗られるかたに向けて、気持ちを盛り上げて頂く為とかなんとか……」

「……はあ」


 そして、再び『プシュー』という音と共に扉が開いた。

 シノブが呟いた。

「カッコいい」


 エレベーターの開いた扉の向こうは、以前ここへ来た時の洞窟のような通路とはまるで違う。

 何なんだここは、壁も天井も、ツルツルでピカピカで、広々としている。


 少し歩くと、巨大な講堂内部のような所へ出た。

「すごい!」

 再びシノブが言葉を漏らした。


 そこに、大型のバスを繋げたような乗り物が埋まった状態で停まっている。

 白を基調とした艶やかな車体。

 ユキの案内で、そこに乗り込んだ。


 二人掛けの席が、左右にずらりと並んでいる。

 その真ん中が通路で、この作りはバスと同じだが、バスよりゆったりしている。


「現在このシャトルは、データー取りの為の試運転中との事ですので、乗客は私達だけです」

「なんと、贅沢な」


 私とシノブは、真ん中の席に並んで座った。

 するとユキは、その前の席を回し、向かい合わせに座った。

 ユキは、座席のひじ掛けの中から、小さなテーブルを出して、お茶とお弁当を渡してくれた。


「2時間ほどで着きますので、それまで、ゆっくりと食事しましょう」

 私は移動しながらの食事等、ありえないと思っていた。

「では、そろそろ、出発しますよ」

「はい」


 私達を乗せたシャトルとやらは、ゆっくりと走り出した。

 進んでいるのは解る。しかし、まったく揺れがない。

 確かにこれなら、快適に食事が出来る。


 シャトルは、暗闇に入った。車内は明るいのだが、窓の外は真っ暗で、時折光るモノが、ものすごい速さで近づき、遠ざかっていく。


 食事をしながら、ユキは、これからの予定を話してくれた。

「アトラスの駅に着いたら、地上へ出て、オープンカフェへ行きましょう」

「オープンカフェ?」

「屋外でくつろげる、茶店です」

「はい」


「目的は、路上を歩く人達の装いを観察して下さい」

「観察?」

「そのあと、服を選びに行きましょう。購入して着替えましょう」

「なるほど。了解した」


「それから○○へ行って○○して……」

 ユキの話は、アトラス駅に着くまで続いた。


 ・・・・・・


 やがて、アトラス駅に着いた。

 シャトルから降りてエレベーターに乗り、地上階に向かった。

 そして、その建物から出ると、そこは別世界だった。


 なんという人の数だ。まるで、お祭りのようだ。

 幅の広い道に沢山の車が走っている。

 その左右に幅の広い歩道。


 そして歩道に面して高い建物が並び、その地上階が店になっている。

 ……すごい。これがアトラス国。


 私達は、オープンカフェなる店に入り、路上に用意されたテーブルに座った。

 ユキが、飲み物を買ってきてくれた。


 これは、コーヒーという苦味のある飲み物を冷たくしたもので、その上にソフトクリームが乗せられ、チョコレートとビスケットを細かく砕いたものを振りかけたものとの事だ。


 苦味と甘みと香ばしさの、なんとも不思議な味だが、こんなに美味しい飲み物……これは反則である。

 それを、ストローという筒で吸いながら、また細長いスプーンですくいながら食べる。


 巨大な傘による日陰の中、外の空気、穏やかな風、この開放感、最高に気持ちがいい。

 ラィンテリアにも露店の飲食店はあるが、何が違うのだろう。この違いを見つけたい。


 シノブが言った。

「ああ、もう、帰りたくない」


 次に、歩道を歩くアトラスの一般国民を観察した。

 鮮やかな色合いで動きやすい服装。

 そして、様々なデザインがある事に気付いた。


 皆、ピンと背筋を伸ばして、さっそうと歩いている。

 そんな女性達の姿に、格好良さを感じた。

 ラィンテリアと何が違うのだ。


 ユキが話し掛けて来た。

「どうでしょう、そろそろ服を買いに行きませんか」

「いや、どうしたものか、どんな服を選べば良いか、解らなくなってしまった」


「では、お店の方に相談して選んでもらいましょう」

「そう、それがいい」

 という事で、ユキに連れられて婦人服の専門店に入った。


 透明な壁のお店で、沢山の服が並んでいる。

 みんなカラフルで、見ているだけでも楽しい。

 ユキが婦人服の店員さんに、話をしている。

「このお2人に合ったカジュアルな服を、それぞれご紹介下さい」

「かしこまりました」


 そして、私とシノブは、色々な服を着させてもらった。

 だいたい今までは、与えられた服を着るだけだった。

 与えられた服は、それなりに手の込んだ服ではあったが、このように沢山の服の中から選ぶような事は初めてである。


 服装選びというのが、こんなに楽しいものだとは知らなかった。

 色々な服を着させてもらい、鏡を見る。

 私もシノブも、大はしゃぎである。

 服が決まり、その服を着て店を出た。


 次に、ホテルという泊まる所へ、タクシーという車に乗って行くとの事だ。

 私はこの街並みを散策しながら、ホテルまで歩いて行きたいと言ったのだが、歩いて行くには少し遠いようだ。


 タクシー乗り場を目指して歩いていくと、大きな音を鳴らしながら走って来る車があった。

 ユキに聞いた。

「あれは何ですか」


「あれは、緊急車両です」

「緊急車両?」

「あのサイレンが聞こえたら、一般車は、道を譲る決まりとなっています」

「ほう」


「緊急車両には主に3種類あって、火災の現場に駆け付け消火及び救助を行う消防車。けが人、病人を病院へ搬送する救急車。事故を納めるパトカーです」

「なるほど、急を要する車なのですね」


「今通ったのは消防車です。火災現場、近いようですね、行ってみましょうか」

「はい」

 私達は、その現場へ向かった。


「車の上に赤いライトが点滅しているのが緊急車両です。赤い車が消防車、白い車が救急車、白と黒がパトカーです」

「全部来ているのですね」


「火災の場合、消火の為の消防車、病院に搬送する救急車、交通整理の為に、パトカーも出動します」

「なるほど」


 私達は火災現場へ着いた。

 7階建てのビルの最上階の窓から炎が出ている。

 こんなの、どうやって消すんだ。


 消防車の両脇から足のような物が出て、消防車が地面に固定された。

 すると、ハシゴのようなものが伸びて、7階の窓まで届き水を噴射した。

 オレンジ色の服を着た人が窓から入り、逃げ遅れた人を救助した。


 しかし、救助した人を救急車に乗せたが、なかなか動かない。

 すると消防車が目の前の公園へ移動し、芝生に水をまき始めた。


「何やってるんですか?」

「あードクターヘリを呼んだようですね」

「ドクターヘリ?」


「通常、救急車で近くの病院へ搬送するのですが、重症の場合、中央病院へ搬送します。そこまで距離がある場合はヘリで搬送します。あ、既に呼んでいたようですね、来ました」


 バリバリバリと音を立ててヘリが飛んで来た。

 消防車が水をまいた芝生の上に着陸し、その負傷者を乗せて飛び立っていった。


 そう、これがこの国の当たり前なのだ。

 1人の命を救う為、大勢の人が出向き、大勢の人が協力し、必要であれば、航空機まで使って搬送する。

 それが、特別な事ではない。この国にとっては、当たり前の事なのだ。


 私は以前、私の先生から教わった。

 1人の人間の命は、国よりも重い。

 心では解るが、頭では受け入れられなかった。


 たった1人の人間を救えない者が、国全体を救えるか!

 等と言う人がいるが、現実は逆である。


 1人の人間に捕らわれる者は、国全体を救う事は出来ない。

 時として、国全体を救う為、少数の人間を犠牲にする事も出来なければならない。


 そう、それが私の辿り着いた感覚だった。

 しかしこの国は違う。


 国全体も救う。個人も救う。

 これは経済力があって、初めて出来る事。


 そう、これからは、国を守るのは軍事力ではない、経済力だ。

 その時の私は、単純にそう思った。


次回:ラプラスの悪魔

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
analyze
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。