⑴ 見学
ティファール王国のラムス王子から手紙が届いた。
私が送った農機のお陰で、低迷していた農作物の収穫量は回復を越えて、倍増しているとの事。
手配した私に対して、それと、新しい農業を広めてくれたラィンテリアの元貴族達に向けて、感謝の言葉がつづられていた。
私は今、東の農場へ来ている。
国の統治としての仕事をコノエとシノブに任せて、私は畑仕事をしている。
日差しの強い夏の日だった。
あれ? ……どうしたんだろう。急に足元がふらつく。
まわりから全ての音が消え、視界は真っ白い光となった。
私は意識を失いかけ、地面に倒れようとした時、誰かが私の体を支えた。
もうろうとした意識の中で、私は感じた。
私は誰かに抱きかかえられている。これは、お媛様抱っこだ。
媛であった私、今まで一度もお媛様抱っこ等、された事はない。
真っ白な視界の中で……この方は……。
私を大きな木陰へ運び、私の口に飲み物を運んでくれた。
私の額に濡れたタオルが置かれた。気持ちいい。
少しずつ気分が回復してきた。
タオルによって前が見えない。
ゆっくりと起き上がり、タオルを外した。
隣にいたのは……やはり司令官だった。
「熱中症です」
「熱中症……」
言葉は聞き取れるが、頭の中は霧がかかっているようだ。
そのまましばらく横になっていた。
頭の中の霧も、すこしずつ晴れてきた。
あれ、いま、司令官と二人っきり?
さわやかな木陰の下で、まるで夢を見ているようだ……。
やばい、やばい、やばい。
私は無理して起きた。
「あ、司令官さま……ご迷惑をおかけしました」
「気分はいかがですか?」
「はい、なんとか……で、司令官さまが、何故ここに?」
「……はい」
「何か……私に御用でも」
「それは今度にしましょう。今、城に連絡しました。迎えの者が来られますので、養生されてから改めて伺います」
「はあ」
……なんだろう。
その後、シノブが車で迎えに来た。
城へ戻り、こっぴどく叱られてしまった。
それから3日後、司令官が城へ訪れた。
先日用意していた話との事。
私の受け答えに時間を稼ぐ為、シノブにも同席してもらった。
司令官が話された。
「どうでしょう媛さま、アトラス国を見学されませんか」
思いもよらない話だった。
「えっ、貴国をですか?」
「はい」
「あの、外の人間にとりまして、アトラス国の内部は、見る事も入る事も許されないと聞いております」
「はい。アトラス国は、4つの国に別れているのですが、その4つの国を囲むように高いカベが作られていまして、外部の人は、入れない決まりとなっています。そこで今回は特例としてアトラス国の内部を媛さまに見学して頂く事としました」
なんと、これはすごい。アトラス国の内部を見学する事が出来る。
司令官のご厚意に甘えようではないか。
「はい、それではありがたく、貴国を見学させて頂きたく思います」
するとシノブが不機嫌な顔で、口を挟んだ。
「媛さま、また国を空けられるのですか、このような事ばかりで、国の統治としてのお仕事、おろそかになっていませんか」
司令官がシノブに言った。
「どうですか、シノブ殿も媛さまとご一緒に、案内役としてユキさんに同行して頂きましよう」
「媛さま! 直ぐに、ご出発のお仕度を!」
これは、黄金の定石ではないか!
という事で、国の管理をコノエに任せ、私とシノブはアトラス国へ見学に行く事となった。
滞在日数は1週間。女子3人、すっかり旅行気分である。
……これは最後の、司令官から私への餞別なのだろう。
私に残された最後の時間で、アトラス国から学べるものを、ラィンテリアに役立てたい。
ユキから打合せの連絡を受けて、アトラス基地へ行った。
最初に私とシノブは、ユキからそれぞれカードを渡された。
「アトラスでは、このカードで買い物をします。もっとも、私が全て会計致しますので必要ないのですが、私が居ない時に何かありましたら、このカードをご利用下さい」
「ありがとうございます」
「それと、これで会話が出来ますので、何かあれば、これでご連絡下さい」
私とシノブは、そのカードの使い方を教えてもらった。
ティファールでもらったカードより、少し複雑だ。
それからユキは、今後の流れについて、話をしてくれた。
「明朝9時、お迎えに伺います。それから車でステーションへ向かいます」
「ステーション?」
「はい、新都市の……現在広場に建っている建物です」
「あれは、ステーションと言うのですか」
「はい、私達は、そのように呼んでいます」
そうか、私は魔法の扉の入り口と呼んでいた。
「あの……魔法の扉でアトラス国まで行くのですか?」
「いえ? 地下鉄です」
……いかん、これ以上聞くと、ユキにバカだと思われてしまう。
「あ、はい。了解した」
「ラィンテリア国とアトラス国を結ぶ路線です。その電車には『シャトル』という名前が付きました。ステーションも、ほぼ完成しました。綺麗ですよ」
「シャトル? ……了解した……で、持ち物は、何が必要でしょう」
「いえ、特にありません。そのカードだけお忘れになりませんように」
「はい……服装は、どうしましょう」
「何でもかまいません。その服装で大丈夫ですよ……でも、そうですね、せっかくですから、ついた先で店に入って購入しましょう」
「おお……はい、ではご指導下さい」
そして、色々な事を打ち合わせて解散した。
明日、私はアトラス国へ行く。
次回:アトラス国




