⑹ 支援
私は彼女の顔を見て息を呑んだ。
信じられない。
私はこの女性を知っている。
南の天王、たしかスジャクと呼ばれていた。
アトラス四天王の一角が、他国の王子にひざまずき、首を差し出すと言っている。
何故このような事が出来るのだ。
ラムス王子は言った。
「わかった。父を救えなかったその時は、その首、もらい受ける」
彼女達は、王の広間に向かって走った。
医療器材を広げ、医療隊の一人が、王の腕に針を刺した。
見ていた王の護衛隊は驚き、慌てて剣を抜いた。
「止めい!」
ラムス王子が護衛隊を制した。
王の血が、ビンに移されていく。
医療隊の一人が、大きな箱を開けた。
その中には小さなビンが縦横ぎっしり並んでいる。
全てのビンの中には液体が入っており、採取した王の血を一滴ずつ、そのビンに入れていく。
突然、声を上げた。
「反応出ました。M22です」
「至急、M22の血清を持って来て」
一人がヘリへ向かって走った。
王のベッドの脇にビンが吊るされた。
ビンの下に接続した管と、王の腕に刺した針を繋いでいる。
そして、王の体に色々な物を張り付け、何やら見た事の無い物が数字を表示している。
隊長が言った。
「明日になれば熱は下がるでしょう。そして2週間後には、この黒い斑点も剥がれ落ちます」
ラムス王子が言った。
「信じられない」
隊長が言った。
「油断してはいけません。王と接触された方を至急集めて下さい。この病気に感染している可能性があります」
「どうしたら良い」
「3日間、別々の部屋へ隔離して下さい。症状が出た方には、この血清を投与します」
「解った」
隊長は、私の所へ来てマスクを外した。
「初めまして、私はリオンと申します」
……なんだろ~なぁ~ この国の人って、素性隠すの好きだよね~
「あ、はい。初めまして、クレアと申します」
「あなたのお陰で、この病気の封じ込め、間に合いそうです」
「はい……良かったです」
「パンデミックが起こる前でしたので、今有る在庫の血清で、なんとかなるでしょう。発見が遅ければ大変な事になっていました」
「はい、偶然ここに居合わせましたので、運が良かったです」
「……偶然……ですか」
「……はい」
「……なるほど」
「……はぁ?」
「いえ……はい。私はこれより、王が感染した地へ向かいます」
セリカが割り込んだ。
「エルムン地区です」
隊長は、連れて来た6人の内、2人を残してエルムン地区へ飛び立った。
次の日、王は意識を回復し、熱も平熱へ戻ったとの事。
私達も3日間ここに滞在し、感染していない事を確認した。
私は、ラムス王子を訪ね、話をした。
「王子、申し訳ありませんが、求婚の件……」
「ああ、気にしないで下さい。私との結婚をお願いした時、あなたは1歩下がって下を向かれた。その時私は、望みの無い事を感じました」
「申し訳ありません」
「……誰か、思いを寄せている方、おられるのですね」
「いえ、そんな事は……」
私は、ただ、下を向いた。
王子は静かに微笑んでいる。
「それと」
「はい。媛様のお父様方、今後とも大切にお預かりする事をお約束します。今回の黒死病の件で、返せないほどの借りを媛様に作ってしまいました」
「申し訳ありません」
私は深く頭を下げて、この場を後にした。
そして、ヘリを呼んで、ラィンテリアへ戻った。
今回、見て来たティファールの現状。
このままという訳にはいかない。
私は司令官を訪ね、ティファールで農作物が育たない現状を報告した。
「今のティファールは、以前のラィンテリアと酷似しています。どうか、ティファールに対しても、支援の手を差し伸べて下さい」
司令官は答えた。
「我々は、ラィンテリアの持つ資源の利用と引き換えに支援しているのです。残念ながらティファールの地層は、掘り起こすと50cmほどで粘土質になります。我々が求めている資源ではありません」
……いけない。
私の直感が訴える。
支援を、アトラスから取り付ける事が出来なければ、大変な事が起きてしまう。
では、どのように話しを持っていけば良いか……
私は司令官に伝えた。
「しかし、このままではティファールも、ラィンテリア同様、生き延びる為の侵略戦争を起こしかねません。戦争が起きてしまった事で発生する莫大な費用に対しまして、戦争を起こさせない為の費用と、お考え頂けないでしょうか」
司令官は、笑みを浮かべて言った。
「はい、さすがです」
「……さすがです?」
「それでは、農業機械の貸し出し程度となりますが、支援しましょう」
「本当ですか!」
「ラィンテリアで行ったような、大規模農場を造るような支援までは行えませんが、現状の農地でも、丹念に耕す事で、今のような不作状態は回避出来るでしょう」
「解りました。お願いします」
「では、まずは最初に耕運機、脱穀機等の農業機械50台、及びその燃料。その後、時期をずらして200台用意しましょう」
「ありがとうございます」
私は、司令官にその約束を取り付け、城へ戻った。
単に農業機械を持って行っても使い方が解らない。
指導者と共に持って行かなければ。
では、誰に指導してもらうか。
それは、ラィンテリア大学農学部卒業生。
では、誰に指導するか。
それは、あの屋敷で、庭を畑に変える作業を始めた元貴族達。
今回の、クワによる土の耕しによって、この耕運機の価値が理解出来るはずだ。
彼らが農業機械の扱いをマスターし、それを各地に広める。
そうする事で、彼らはティファールの国民から受け入れられるかもしれない。
あの敷地に、いつまでも閉じこもっていてはいけない。
そう、彼らは元貴族、何かアドバンテージを与えれば……そう、これは政治だ。
この新しい農業のあり方を、彼らによって広めてもらう。
私は農学部卒業生で、指導に長けた人を選抜した。
ラィンテリア国民は、この国を捨てて亡命した彼らを許していない。
そこで、グランバルからの亡命者の中から選抜した。
彼らは「お役に立てるようでしたら」と言って、快諾してくれた。
彼らにお願いした期間は1ヵ月間。
事情説明を含めて、コノエに同行してもらう事にした。
コノエも護衛に送り出した部下が心配だったようだ。
ティファールへの輸送手段は、オフロードダンプカー10台。
それによって、農業機械50台を運ぶ。
農業機械指導員18名とコノエを乗せて、一団はティファール王国に居る父達の元へ向けて出発した。
・・・・・・
そして1ヵ月が過ぎ、彼らは戻って来た。
この間に、貴族達は農機の扱いをマスターし、この農機を使って近くの畑を耕していく。
この農機をみて、農家の人達は驚いているとの事。
まあ、そうでしょう。
そうして彼らは、農家の人達との間に溶け込んでいった……との事。
良かった。本当に良かった。
次回:(第5章1話)見学




