⑸ 国王
隣町の宿屋に入った。
セリカとココアは何も言わず、ただ私に付いて来てくれる。
私は極度の疲労から、何も食べずに寝てしまった。
次の日、目を覚ますと朝食の準備がされていた。
セリカとココアが用意してくれていた。
朝食をしっかり取り、再びクワを持って屋敷に向かった。
昨日の続きとして土を耕し始めると、一人の子供が屋敷から出て来た。
弟のミレアである。
「お姉様、お久しぶりです」
「ああ、元気にしていたか」
セリカが弟の前に立った。
弟はセリカのクワを握った。
セリカはクワを離した。
それからは、私と弟のミレアで、土を耕し始めた。
ココアもクワを置き、セリカと共に枯れ木の伐採、移動をしてくれている。
しばらくすると、弟のミレアは手首を痛めてしまったようで、痛みに耐えながらクワを握っている。
すると屋敷から、険しい表情で母が出て来た。
私は弟に怪我をさせた事で叱られると思った。
しかし母は、弟に向かって言った。
「その程度の事、顔に出してはいけません!」
母はココアの置いたクワを掴み、土を耕し始めた。
すると屋敷から、数名の若者が飛び出して来た。
彼らは父達の亡命を護衛するよう命令を受けたコノエの部下達だ。
セリカ、ココアと一緒に、障害となる枯れ木の移動作業を始めた。
陽が暮れて宿へ戻った。
・・・・・・
そして次の日、屋敷の庭で昨日の続きを行おうとした。
屋敷の方を見上げると、窓から見ていた貴族達の姿が見えない。
そして、護衛隊の姿もなかった。
しばらく土を耕していると、貴族達がそれぞれ新品のクワを持ち、敷地の外から入ってきた。
どうやらクワを買いに行っていたようだ。
貴族達は庭の土を耕し始めた。
「いやぁ、幼少の頃、土いじりして遊んでいた頃を思い出しますなぁ」
「最近体がなまってしまって、いい運動を見つけました」
私は、無言で彼らと一緒に土を耕した。
彼らも、生きていく為のこの先を探していたようだ。
しばらくすると、父がクワを持って庭に出て来た。
父と目が合った。
私は父に会釈し、その場を後にした。
私はラィンテリアへ帰る事にした。
その前に、ラムス王子に伝えなければならない。
求婚をお受け出来ない事。
そして、亡命者達に農作物を作らせ始めた事。
彼らの生産量と消費量の差分は、ラィンテリア国からお支払いする事。
そして、彼らをこのまま受け入れて頂きたい事。
その願いを伝える為に、ラムス王子の元へ向かった。
・・・・・・
ティファール王国の王都に着いた。
なんだろう……何やら騒がしい。
私がラィンテリア国の統治者である事を明かし、城内へ入った。
王の広間で、ラムス王子が叫んでいる。
「誰か、この病気を治せる者はいないか!」
……なんだろう。王の広間に呼ばれた医師達は、みな下を向いている。
「王の命を救えた者には、望むだけの領地を与えるぞ!」
私は慌てて駆け寄った。
「ラムス王子、どうされましたか」
「クレア殿ではないか、何故ここに」
「ご説明は後で。それよりお父様、どうなされたのですか」
「5日前、父がエルムン地区へ視察におもむき、帰られた翌日から高熱を出して、今では意識の無い状態となってしまった」
ベッドで横になる王を見ると、顔や腕に黒い斑点が出来ている。
私が王の手を握ろうとすると、セリカに止められた。
そして私の手を引っ張って王の広間から連れ出された。
セリカが言った。
「これは黒死病の疑いがあります。伝染病です。早急に手を打たないと、この国だけの問題ではありません」
「ラムス様の父上は」
「黒死病であれば、このままでは助かりません」
「どうしたら良い」
「本国に救援を要請します」
セリカはカードを操作し、アトラスに連絡した。
今持つ情報を、事細かく伝えている。
ココアが言った。
「ラムス王子の父上は、エルムン地区へ行かれて感染されたとなれば、エルムン地区では、この病気が広まっている事が予想されます。早急にこの病気を封じ込めないと、大変な事になります」
それから2時間後、巨大なヘリが飛んで来た。
我々が乗って来たヘリとは、大きさが違う。
大きな羽が2つ、前後に付いて回っている。
ココアが言った。
「もう、隠れている場合ではないと判断したようですね」
巨大な空飛ぶ物をみて、ティファール王国の国民は大騒ぎである。
ラムス王子が城から出て来た。
「何事か!」
私は即座に駆け寄り、話しをした。
「あれは私の知る者です。お父上を救う為に来られました」
「なに!」
巨大なヘリは、城の中庭に着陸した。
扉が開き、中からオレンジ色の雨具のような衣装を着た者が6人降りて来た。
全身を覆っている為、顔が見えない。
その中の1人が、王子の前でひざまずき、話しをした。
「私はこの医療隊の隊長を務める者です」
女性だ……なんだろう、この声、何処かで聞いた覚えがある。
「王様御病気との連絡を受けまして、馳せ参じた次第です」
「ならん! このような得体のしれぬ者に、この国の王たる命、預ける訳にはいかん!」
「ラムスさま!」
私は叫んだ。
にわかには受け入れがたい。
最もであるが……。
医療隊の隊長が言った。
「お父上のお命、お救い出来なかったその時は、この首を差し出します」
そして彼女は顔のマスクを外した。
次回:(第4章 終話)支援




