⑷ ティファール王国
今回、私に同行して頂く2人の女性、年齢は私と同じくらいに見える。
「はい、初めまして。よろしくお願いします」
早速私は、そのヘリに乗り込んだ。
「ひめさまー」
シノブが、心配そうに叫ぶ。
「シノブ、私が留守のあいだ、ラィンテリアを頼みます!」
「はい!」
ヘリは、シノブを残して、空へ舞い上がった。
暗闇の中を飛んでいる。
非常に怖いのだが、ヘリは、この暗闇の中でも見えているとの事だ。
それから2時間後、ティファール王国に着いたと伝えられた……信じられない速さだ。
人目に付かない所にヘリを着陸させ、降りると2人は色々な物をヘリから降ろし始めた。
全て降ろし終えると、ヘリはすぐに飛び立っていった。
降ろした物、1つは大きな布のようなバッグ。
そのバッグをココアが操作している。
するとそのバッグは、大きく膨らんだ。
それは薄い生地が2層になったような構造で、その間に空気が入り、広がって小屋のような物に変形した。
セリカが言った。
「明朝まで、ここで過ごしましょう」
その中で、1夜を過ごす事になった。
ココアが降ろした荷物から、大きなコップのような物を3つ出した。
次に水筒のような物を出し、蓋を開けるとお湯ではないか。
そのお湯を、大きなコップに注いだ。
そしてその1つを私にくれた。
「媛様、どうぞ」
こっ、これは……知っているぞ!
以前、アトラス基地の食堂で食べた事がある。
たしか、ラーメンと言っていた。
こんなメニューを、このような所で食せるとは。
私はフォークのような道具で食べた。
んー食堂で食べたラーメンとは、ちょっと違う。
しかしこれは勝るとも劣らず、美味しいではないか。
私が美味しく食べているのを、2人は笑顔で見ていた。
その後、ここで仮眠を取った。
・・・・・・
朝を迎えた。
この小屋の一部を操作すると、空気が抜けるように小さくなり、ココアがそれを畳んでバックの形に戻した。
次にヘリから降ろした一番大きな箱を、目立たない木陰に設置した。
これは中継機との事である。
そして私に1枚のカードが渡された。
「このカードで、この中継機を介して、私達と会話が出来ます。帰る時も、これで本国まで連絡する事が出来ます」
私は質問した。
「この中継機が無いと、本国まで声が届かないのですか」
「はい。正確には、この中継機がないと、私達どうしの会話も出来なくなります」
「この中継機を誰かに見つけられて、もし壊されたら?」
「壊されたら、通信が遮断した事が本国で解りますので、新しい中継機がヘリで運ばれてきます。ちなみに、この中継機を動かすバッテリーが無くなった時も、交換しに来ます」
「そ、そうですか」
良く解らんが、心配ないようだ。
「このカードの使い方ですが、◎印を押してください。私達と通話出来ます。通話が終わったら、✕印を押してください。使い方は以上です」
「了解しました」
私は、得意気に答えた。
そして、いよいよ私達は、ティファール王国の市街地に入った。
私達は素性を隠し、この国を見てまわった。
なんだろう、以前この国を訪れた時とまるで違う。
活気が無い。
店に売り物が殆ど並んでいない。
何が起こっているのか。
私は、この町を見守っている治安員を見つけ、声を掛けた。
「あの、この国で、ラィンテリア国からの亡命者を受け入れていると聞きましたが、彼らは何処で生活しているのでしょうか」
その治安員は、怪訝そうな表情で答えた。
「ああ、彼らなら、ここから西に向けて10キロぐらい先のレゾナ地区にいるよ。お嬢ちゃん、彼らの知り合い?」
「あ、ありがとうございました」
私は会釈して、レゾナ地区を目指した。
途中、畑の様子を見ながら歩いた。
少しばかり畑仕事をしていたお陰で農作物の様子が解る。
これはいけない。
ラィンテリアで作物の収穫が激減し、アトラス国に侵略戦争を起こした。
まさに、あの状況に似ている。
すれ違う人にレゾナ地区を訪ねながら、ようやく目的地に着いた。
大きな屋敷が10棟ぐらい並び、広々とした庭がある。
屋敷と庭は柵によって囲まれている。
建物は相当古い。
ここは、元、田舎貴族の屋敷だったのだろうか。
王族、貴族は、庭の手入れ等しない。
庭は庭師に任せ、自ら庭の手入れ等、した事はないだろう。
庭師の居ない今、この用意された庭は荒れ放題である。
しばらくすると、大きな荷車が10台ほど現れ、この屋敷の敷地に入っていった。
様子を伺っていると、何やら運んでいる。
ああ、これは、彼らへの食事だ。
これを1日3回、それを毎日。
この国の台所事情、余裕等無いように見受けられる。
亡命者達、彼らはこの国で何も生み出さず、ただ消費するのみ。
彼らを、このまま受け入れてもらう為には……何とかしなければいけない。
私は隣町へ行き、道具屋を探した。
セリカとココアは、何も言わず、私の後ろに付いてくる。
道具屋で、クワを1本購入した。
すると、セリカとココアも1本ずつ購入しようとしたので、私は止めた。
「セリカさんも、ココアさんも、私がやろうとしている茶番に、お付き合いする必要などありません」
すると、セリカが言った。
「茶番でしたら、3人で行いましょう」
セリカとココアもクワを購入した。
そして亡命者の屋敷に戻り、敷地に入って庭を耕し始めた。
勿論、耕運機を持ってくれば簡単である。
しかし、私が耕しているのは、この庭の土ではない。
亡命した王と貴族達の心である……そう、茶番である。
しばらくすると、貴族達は私達の行動に気付き、私達を窓から見ている。
陽が暮れてきた。
今日の作業を終えようとした時、1人の男がこちらに向かって歩いてきた。
私は、直ぐに解った。
「お父様、お久しぶりです」
「クレア、無事だったか。今まで何をしていた」
「私は今、ラィンテリアの復興に尽力しております」
「……そうか。……しかし我々は、ラィンテリアを捨ててきた。……もう、戻る事は許されない」
「お父様、この庭を畑にしましょう。作物を育てるのです。さあ、お父様もご一緒に」
「……それは……出来ない。私がクワを握れば、私に付いて来た貴族達の名誉を損なう事となる」
「名誉?」
「ああ、いずれ我々は、このまま名誉ある死を選ぶ事になるだろう」
私は震える声で返した。
「なんですか……その、名誉ある死とは」
「……そう、私の家族や貴族達の命を守る為、逃げ出した事から間違いが始まった」
私は父を睨み付け、涙を流しながらその場を後にした。
ここでのセリカとココア、ユキの友達としている時と、別人のように見えます。
ユキの前では、ユキの感受性を豊かにしようと、テンション上げていたようです。
おかげでユキも、第1章の収穫祭では、
「ああっ、司令官、女性を泣かしている、いっけないんだぁー」
などと、軽口をたたけるようになりました(笑)
次回:国王




