⑶ 嫌な予感
コノエとシノブは現場へ向かった。
「ハハハハハ、無駄だ、やがてこの国は火の海となる」
私は男を睨み付けて言った。
「きさま、人の命を何と心得る」
「ハハハハハ、それが、この国の辿る運命よ」
「何が目的か!」
「ハハハハハ」
「どこの国の手の者か!」
「ハハハハハ」
「……?」
「ハハハ……?」
しかし、一向に火の手が上がらない。
しばらくすると、コノエから無線が入った。
「媛様、新都市の住民から、不審者を取り押さえたとの報告が、次々と入ってきています」
「取り押さえた?」
「はい、何でも、家に火を付けたとの事です」
「火を付けた? で、燃え広がらなかったのか?」
「駐留隊の方の話によりますと、新都市居住区の建物は、発泡コンクリートの壁に、外壁はセラミック素材、柱等は金属製によるもので、耐震耐火構造との事です。この程度の放火では、表面にススが付く程度で燃え広がる事はないとの事です」
「な、何と!」
「現在、駐留隊と協力して、不審者の捜査及び取り押さえを進めています」
「了解した」
……これが、ラィンテリアの新都市なのか……おそるべし。
・・・・・・
昨夜の放火騒動から、何事もなかったかのように朝を迎える事が出来た。
破壊工作員となれば、亡命者とは違う。
取り押さえた工作員に取り調べを行った。
どこの国の者か。
誰の指示によるものか。
しかし取り調べに対して誰1人、答える者はいなかった。
国に妻子を残しているのだろう。
新都市の住民は、総出で昨日の放火未遂に対する後始末を行った。
外壁に付いたススは水で綺麗に洗い落とせた。
表面を軽く拭く事で元通りとなった。
この美しい街を、皆で守ろうという意識は、大変強いようだ。
今回の件で、自分の住まいが耐震耐火構造となっている事を知り、改めて驚いていた。
破壊工作員の彼らには、食料を持たせ、追放した。
彼らが何処へ向かうのか、気付かれないように後を付けたところ、やはりグランバル王国の破壊工作員だった。
今後グランバル王国に対して、どのように向き合えば良いのだろうか。
・・・・・・
さて、私の中で、手を付けなければならない問題が山積している。
何を優先させなければならないか。
やはり、ティファール王国のラムス王子からの求婚の件、早急に対応しなければならない。
私の直感が伝える。
何か……嫌な予感がする。
私はティファール王国への訪問を決めた。
私の居ない間、私の代わりをコノエとシノブに対応してもらう。
私が一時、この国から離れる許可を司令官に願い出た。
司令官が言った。
「媛がこの国から離れる件ですが、私から2点、条件があります」
「……はい」
「1点目は、私の部下、女性ですが2名、媛のガードとして同行させて頂きたい」
「はい、かまいません。1人はユキさんですか?」
「いえ、別の女性です」
……この男は、司令官のまね事をしている時でも、何人もの女性をはべらせているのか……けしからん!
「2点目ですが、道中の危険性からヘリを用意しますので、それでティファールまで行って下さい」
「ヘリ?」
「ヘリコプター、通称ヘリ、空飛ぶ乗り物です」
「いや~そんな物で行ったら大騒ぎになってしまいます」
「深夜、人目の付かない所へ着陸させて、皆さんを降ろしたら、そのヘリは一旦戻ります。皆さんが戻られる時は無線で連絡して頂き、同じように深夜、人目の付かない所へ迎えに行かせます」
「はぁ、いや、ありがたいお話です」
「ただ、何人も乗れるヘリではありませんので、媛さま1人と同行させる2人の女性で行く事になります」
「はい、同行者は少ない方が良いと考えていました」
「同行させる2人の女性ですが、特殊公務の試験に合格し、幼少の頃から私に仕えて来ました。厳しい訓練、及び高度な教育を受けていますので、媛さまのお役に立てる事でしょう」
「はぁ、ありがとうございます」
「出発は、いつをご予定ですか」
「はい、一刻も早く」
「では、今夜12時、東の農場で落ち合うようにさせます」
「あの、着くのに何日ぐらいかかるのでしょう」
「いや、2時間程度でしょう」
「え゛っ」
「とにかく、気を付けて行ってきて下さい」
「ありがとうございます」
私は城へ戻り、ティファール王国でも使える貨幣を用意した。
夜の11時、東の農場までシノブに車で送ってもらった。
12時少し前、バタバタという音が聞こえてきた。
急に天から光が射し、巨大な塊が空から降りて来た……あれが、ヘリ?
シノブが私の前に立ち、短刀を握りしめている。
そのヘリから、2人の女性が降りて来た。
2人は私に近づき、挨拶をされた。
「初めまして、今回ティファール王国へ、媛様のガードを仰せつかりました。私はセリカと申します」
「初めまして、私はココアと申します」
司令官からクレアのガードを任されたのは、ユキの親友 セリカとココアでした。
この2人、幼少の頃から司令官の下で、極秘任務に就いていたようです。
ユキの護衛、及び 欠落したユキの感受性を取り戻すよう、動いていたようです。
次回:ティファール王国




