⑵ 破壊工作員
突然求婚された。
「お返事は、ゆっくりと。今度お会いする時にでも」
それだけを言い残して、ラムス王子一行はティファール王国へ帰っていった。
私はその時、体を引いて下を向いてしまった。
何故、その時、私は直ぐに断らなかった。
私の中で、司令官への想いを断ち切りたいといった気持ちがあったのだろう。
・・・・・・
この城の窓に射し込む夕日が沈み掛ける時であった。
コノエが一人の男を連れて入って来た。
その男の手を後ろで縛っている。
「何事か」
コノエが答えた。
「新都市の居住区で、この者の挙動不審な行動を見かけ、声を掛けたところ逃げ出した為、取り押さえました」
「何かしていたのか?」
「この者の所持品を調べたところ、このような物を持っていました。これは何なのか、問いただしましたが、一向に口を割りません」
それはビンに入った液体と、何やら小さな道具だった。
「ビンに入っている液体は、何か解るか?」
シノブがビンの蓋を開けて言った。
「どうも、油のようです」
「あぶら? ……で、その道具は?」
「……解りません」
その道具をシノブが回した時、いきなり発火した。
「こ、これは!」
「発火道具か?」
コノエが男を睨め付けた。
「貴様、これで何をしようとしていた!」
私が問いただした。
「油をまいて火を付ける。火災を企てていたのか!」
男は窓の外の夕日を見ながら、無言のままである。
コノエが言った。
「まあ、未遂に終わって良かったです」
シノブが言った。
「ええ、しかし何故このような事を企てたのでしょう」
男は、ただ、窓の外の夕日に目を向けていた。
丁度その時、日が沈んだ。
今まで無言だった男が、急に話し始めた。
「ハハハハハ、この国は、もう終わりだ」
「なに!」
「この日没に合わせて、一斉に火が放たれる」
「一斉にと言ったか! 仲間がいるのか!」
「やがて、この新都市は、火の海となる」
コノエが言った。
「この男、組織で動いているとすれば、破壊工作員です」
しまった。
未だにグランバルからの亡命者が後を絶たない。
十分な調査を行わず受け入れていた。
亡命者に紛れて、破壊工作員まで受け入れていたのか。
「ハハハハハ、この国は、確かに外からの防備は優れている。しかし国の中へ入ってしまえば、この国を亡ぼす事等、いとも簡単」
なんという事だ! ここまで復興を遂げる事が出来たというのに!
コノエは、その男を柱に縛り付け、腰に付けていた箱を私に渡した。
「これは、アトラス軍駐留隊からお借りしている無線機という物です。私はこれから新都市の北側居住区へ向かいます。媛は城から、火の上がった場所をこれでお伝え下さい」
シノブが言った。
「私は南側居住区へ向かいます。私も無線機をお借りしていきますので、火の上がった場所をお伝え下さい」
「ハハハハハ、もう遅い、83ヶ所から、一斉に火の手があがる」
「は……83人も……破壊工作員が紛れていたのか!」
迂闊だった。
平和な毎日に浸っていた。
私の油断だ。
83ヶ所から、一斉に火の手が上がるという。
消火作業に力を注ぐか。
だが、住民の命の方が大切だ。
では、この新都市を捨て、避難を優先させるか。
しかし、これだけの人数、明日から住む所を失う。
どうしたら良いか。
次回:嫌な予感




