⑴ 気持ちの整理
ラィンテリア新都市の中心に建てられた、あの不思議な建物の中で、私は司令官がアトラス国の皇帝である事を知ってしまった。
私は司令官への想いを切り離す為、必死に働いた。
働くといっても農作業である。
東の果てに作られた新しい農場で、農機の操りを習いながら土を耕している。
その時、1台の車が猛スピードで向かって来た……なんだろう。
私は畑から上がった。
車は私の前で止まり、シノブが降りて来た。
私が農機の操りに励んでいるあいだ、シノブは車の操りに励んでいたようだ。
「媛! 至急、城へお戻り下さい」
「どうした」
「ティファール王国のラムス王子がお目見えです」
「なに!」
私はシノブが操る車に乗って、城へ向かった。
ティファール王国は、ラィンテリア国の北に位置する国で、友好関係を結んでいる。
ラムス王子は私より4歳年上で、私にとっては憧れのお兄様だった。
私はラムス王子のお父様から何故か気に入られ、互いの父親同士の話し合いで、私はティファール王国へ嫁ぐ約束をしていたようだ。
しかしそのような約束事、この国が王制を廃止した今となっては無効であろう。
車の中でシノブが言った。
「ラムス王子、素敵になられましたよ」
私は司令官に命を捧げた。
ラムス王子とお付き合いする資格等、今の私には無い。
しかしラムス王子が直々に来られたとの事……ただ事ではない。
城へ着くとシノブが急かした。
「さあ、早く、お召し替えを」
私の足が止まった。
「媛さま?」
「私は、既に媛ではない。このままお会いする」
「いえ、そのような泥だらけのお姿、客人に対して失礼です」
「ああ、そうかもしれない。失礼の無いよう振舞う」
私はシノブに叱られながら客人の待つ広間に向かい、扉を開けて声を掛けた。
「ラムス様、お久しぶりでございます」
ラムス王子と側近は、私の泥だらけの姿を見て驚いている。
私はラムス王子の前でひざまずき、頭を下げて挨拶した。
「このような見苦しい姿でお招きする事、お許し下さい」
ラムス王子は自分の手袋を外し、私の目線に合わせてしゃがんだ。
そして、私の手を取って言葉をかけた。
「媛様、さあ、お立ち下さい。こちらこそ突然の訪問、お許し下さい」
私と王子はテーブルに着いた。
王子は話し始めた。
「本来、先に使者を送り、私が伺う日取りを打ち合わせて頂くのが筋でありますが、現在ラィンテリア国がどのような状態なのか、私の目で、ありのままの姿を確認したく思いまして、無礼を承知で訪問させて頂きました。お許し下さい」
「と言いますと、ラィンテリア王国が崩壊した事、ご存じでしたか」
「……はい」
……なんだろう、返事に今、間があった。
「実は……」
「……はい」
「媛様のお父様……この国の王家の皆様、及び、この国の各地を納めてきた貴族の方々、総勢182名、我が国に亡命されて、現在皆様をお預かりしております」
「なんですと!」
私は、衝撃を受けた。
「亡命された皆さんは、無事なのでしょうか」
「はい、丁重にお預かりしております」
「……ありがとうございます」
私はその時、この国を捨てて逃亡した父への憤りより、無事に生きていてくれた事、その嬉しさの方が大きかった。
しかし困った。
私の肉親でもあるが、王家、及び貴族達、この国に受け入れる事は出来ない。
ここまで建て直してきた新生ラィンテリア民主国、彼らを受け入れたら混乱してしまう。
私の苦しい表情を読み取って、王子は言った。
「ご安心下さい。媛様のご心配、御察し致します。亡命された皆様には、今後も我国でお過ごし頂きます」
「そ、そうして頂ければ助かります。しかし、何故そのような事まで……もう、この国は、王国ではありません。私も媛ではありません。ただの一般国民です」
「はい、何故でしょうね。実は今回、2つの事をお伝えする為、訪問させて頂きました」
「はい?」
「1つ目は、媛様との、親同士で決めた婚約を白紙に戻させて頂きたい事」
「……はい」
「2つ目は、貴国から亡命された方々をお返ししたい事」
「……え?」
「しかし、この国を見て考えが変わりました。国民の皆さん、生き生きしている。とても羨ましい」
……羨ましい?
「それと媛様の畑仕事をされている姿、それと泥だらけの手を見て……敗戦から、よくここまで建て直されました。亡命された方々には、今後も我国でお過ごし頂きます」
「申し訳ありません」
「それと代わりに、と言っては失礼ですが、お願いがあります」
「はい」
「私の妻になって下さい」
「……えっ!」
次回:破壊工作員




