⑵ 初めての友達
私は現在、1人で生活している。
この部屋は、私にとって広すぎる。
誰も居ない世界に1人、取り残されたような不安が襲ってくる。
そんな不安を打ち消す為、今まで習った勉強を何度も繰り返した。
そして、入学の日を迎えた。
私は指南役の先生と共に学校へ向かっている。
この国は9月から年度が替わる。
私の編入は、クラスのみんなと一緒に5年生となる。
学校に着いた。
小、中、高、一貫の女子学校とのこと。
私にとって、初めて見る学校。
とても綺麗な学校だ。
授業が始まる前、指南役の先生は担任の先生を紹介してくれた。
優しそうな、上品な先生だ。
チャイムが鳴った。
指南役の先生は担任の先生に挨拶して帰られた。
担任の先生は私を連れて教室に向かった。
教室に入ると、女の子が沢山いた。
あわてて、みんな席に着く。
先生は、私を紹介してくれた。
「本日より、このクラスに転入されたユキさんです。皆さん仲良くして下さいね」
続いて、私が自己紹介した。
「ユキと申します。本日よりこの学校で皆様と共に勉学に励みたいと思います。至らぬ点もあるかと思いますが、皆様からのご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
挨拶を終え、お辞儀した。
教室は、静まり返った。
……あれ、何か間違えた?
すると突然、みんなから拍手がわいた……あれ?
「はい、みなさん静粛に」
先生は、私を一番後ろの席に案内してくれた。
そして、そのまま授業が始まった。
一番後ろの席、それは、授業を受けているみんなを見る事が出来る。
指南役の先生は言われた。授業内容と共に、クラスの一人一人を観察しなさいと。
私は、授業に付いていくのが大変だった。
これからも必死に勉強しないと、付いていけなくなってしまう。
権利? 義務? 解らない言葉を、メモしていった。
チャイムが鳴り、授業が終わった。
すると、みんなが私の所へ押しかけてきた。
「ユキちゃん、何処から来たの?」
「お父様のお仕事って、なあに?」
「休みの日は、何しているの?」
質問攻めである。
「ちょっとみんな、そんなに一度に、ユキさん困っているじゃない。初めまして、私はセリカ、クラス委員長です。よろしくね」
「あ、はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
「私はココア、このセリカとは、小1からの悪友、よろしくね」
「悪友? あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」
そして、今日の授業が終わり、帰る支度をしていた時、委員長のセリカと、その悪友と言っていたココアが私の所へ来て一緒に帰ろうと言って来た。
私は嬉しかった。
初めて友達が出来た。
・・・・・・
毎朝5時、私は目を覚ます。
コーヒーメーカーのスイッチを入れて、バスルームで熱いシャワーを浴びる。
濡れた裸の上からバスローブを羽織り、コーヒーカップを持ってベランダに出る。
ひんやりとした空気をゆっくりと吸い込み、昇る朝日を見ながら熱いコーヒーをブラックで飲む。
私の1日が始まる。
・・・・・・
やがて私は、中学生になった。
初めて着る中学の制服。鏡を見て、大変気に入った。
小学校からのクラスが、そのまま中学に上がる為、今までと変わる事といったら、校舎と制服と担任の先生ぐらいである。
私は一生懸命勉強した。
小5で編入した時は下の成績であったが、今はクラスの成績優秀者、上位3名としてユキ、セリカ、ココアの名前がいつも上がっていた。
授業が終わると、いつも3人で下校した。
必ず何処かへ寄って、何かしら、やらかしていた。
今日は、デパートの清掃用品売り場へ行って、実演販売している所へ見に行った。
販売員は優しそうな若いお兄さんで、主婦が集まっている。
その中に3人、割り込んで前に行った。
実演販売が始まった。
そのお兄さんは、油がベタベタ付いた換気扇のファンを取り出して言った。
「見て下さい、この油汚れを、こうなってしまうと、もう落すの大変ですよねー」
するとココアが声を掛けた。
「いやーおにいさん、それは無理だよ、もうどうしようもないね」
続いてセリカが声を掛けた。
「無理、無理、おにいさん、そうなっちゃったら、絶対無理だよー」
……いやー実演販売なのだから、綺麗に落とせるんじゃないの?
そのお兄さんは、得意げな顔をして言った。
「では、このスプレーを掛けてみましょう」
すると、泡がみるみる油を溶かし、ピカピカのファンに変わって行った。
ココアが言った。
「すごい、おにいさん、あっという間にピカピカになっちゃった」
実演販売のおにいさんは、得意満面の笑みを浮かべている。
セリカが言った。
「すごい、すごいよ、おにいさん、信じられない」
……なんだろーなー、このお兄さんに、かまってもらいたいだけのように感じてしまう。
ココアが言った。
「すごい、こりゃ 買うっきゃない!」
すると、見ていた主婦達が、そろそろーっと売り場から離れていった。
おにいさんは、がっくりしている。
私達も、そーっと、その場を後にした。
・・・・・・
次の日、いつものように3人で下校し、公園へ寄った。
そこに、小学生の男の子4人が居て、その中の一人を泣かせている。
私達は、駆け寄った。
セリカが声を掛けた。
「どうしたの?」
小学生の1人が言った。
「なんだよ、おねえちゃん達」
ココアが答えた。
「私達は、正義の味方だ!」
「正義の味方? こいつ、俺が大切に育ててきた携帯ゲームのセーブデータ、消しちゃったんだぜ!」
「わざとじゃないよ、カード触ったら消えちゃったんだ!」
「おまえが乱暴に触るからだろー」
セリカが言った。
「ああ、だいたい事情は解った。まあ、わざとじゃないって言ってんだから、許してあげなよ」
セーブデータを消された男の子は、泣きそうな声で返した。
「やだねー」
ココアが言った。
「じゃーどーすんだよー、まあ、ここは私に免じて、許してやれよ」
男の子は怒った口調で言った。
「じゃあ、おねーちゃん、パンツ見せろよ」
……な、なんて事いう子でしょう、私は驚いた。
「いいよ」
するとココアは少年の前に立って、スカートをめくった。
少年は、顔を真っ赤にして「わー」と言って逃げていった。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、正義は勝つ!」
勝ち誇ったように、ココアは言った。
……ココアちゃん、そんな、はしたない正義って、無いよー
・・・・・・
次の日、3人で下校していると、同じ年ごろの男子生徒が私の所へ近づいて来た。
この制服、優秀な男子校だ。
その男子生徒が、私に言った。
「あの、僕と付き合って下さい」
私は、びっくりした。
セリカが私と男子生徒の間に割り込んで、口を挟んだ。
「ごめんなさい、私達の中学校は、男子とのお付き合い、禁止されているの」
男子生徒は、ビックリした様子を見せた。
私は伝えた。
「ごめんなさい、私には、想いを寄せている方がいます」
彼は、顔を真っ赤にして「わー」と言って逃げていった。
ココアが言った。
「なんだー? 昨日の小学生みたい……で、思いを寄せている人って?」
セリカが言った。
「ふーん、ユキがねー」
その後2人とは、沈黙したまま別れた。
・・・・・・
次の日、2人を誘ってファーストフード店に入った。
そして私は2人に話した。
「ごめんなさい、隠している訳ではなかったんだけど……」
セリカが言った。
「いいよ、ごめん、昨日はただ、ビックリしただけ」
ココアが言った。
「うん、私もビックリしただけ、一番奥手だと思っていたユキがって……で、どんな人?」
「私の勝手な片思いなの」
ココアが言った。
「片思いかぁ」
セリカが言った。
「うん、気にしないで、私達の事は」
でも、気にしない訳にはいかなかった。
事あるごとに、私が想いを寄せている人の事を聞いて来る……やれやれ。
アトラスにとって、ユキは大切な存在のようです。
そのユキを、護衛も付けずに1人で学校に通わして……大丈夫でしょうか?
ユキからは、学校へ通う事への期待感、また不安感など、まったく伝わって来ません。
長い間、奴隷市場でオリの中で生活していた為、感受性が欠落しているようです。
そんなユキも、セリカとココアに振り回される中で、豊かな感受性が身に付くと良いのですが。
次回:(第3章 終話)戦場へ




