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静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


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77/85

第25話 最初の記録 Part1 七つの番号

《急落事象調査》

《限定共有資料》

《共有元 ミライ庁監査局》

《共有先 基盤運用統括室》

《閲覧範囲 設備・生活基盤影響》

《個人識別情報 非表示》

九時四十三分。

悠真は基盤運用統括室の会議区画で、表示された範囲を確認した。

以前にも使った場所だった。

四人用の机。

壁面画面。

業務認証端末。

今日は悠真を含めて三人しかいない。

統括室の担当者が正面に座り、もう一人は交通需要を担当する社員だった。

「今日確認していただくのは、調査初期記録の整理です」

担当者が言った。

「判定そのものの監査ではありません」

画面が切り替わる。

《確認対象》

《急落後の設備需要変化》

《支援実施による地域需要変化》

《初期記録と現行記録の対応》

《確認対象外》

《N-Index算出》

《生活支援区分変更の妥当性》

《急落要因の判定》

《予測モデル内部情報》

悠真は《担当範囲を確認》を押した。

隣の社員も同じ操作をする。

「また七件ですか」

社員が訊いた。

「はい」

担当者が答えた。

「今回は集計ではなく、発生順に確認します」

正面の画面に一行だけ表示される。

《対象事象 七件》

《発生確認期間 四月十二日から四月二十四日》

その下に、

《時系列を表示》

という項目がある。

担当者が開いた。

七つの行が並んだ。

《Case-01》

《四月十二日》

《Case-02》

《四月十四日》

《Case-03》

《四月十六日》

《Case-04》

《四月十八日》

《Case-05》

《四月二十日》

《Case-06》

《四月二十二日》

《Case-07》

《四月二十四日》

悠真は一覧を見た。

「二日おき?」

隣の社員が言った。

担当者は首を振った。

「発生日の並びがそうなっているだけです。周期性は確認されていません」

「発生時刻は?」

「本日の確認には使用しません」

一覧には日付だけが残る。

「Caseの番号って、発生順なんですね」

悠真が言った。

「登録順です」

「同じ?」

「今回は一致しています」

担当者は淡々と答えた。

悠真は四番目を見る。

《Case-04》

四月十八日。

最初ではない。

最後でもない。

七件の中央にある。

それでも、以前から比較資料に使われているのはこの番号だった。

画面が次へ進む。

《急落事象 共通登録条件》

《二十四時間以内に生活支援区分が二段階以上低下》

《N-Indexが通常の日次変動範囲を大きく超えて変動》

《重大な法令違反・事故・疾病その他の明確な生活変化を確認できない》

《再計算結果 一致》

《調査区分 Level-4》

見たことのある内容だった。

ただ、七件が番号付きで並ぶと、印象が少し違った。

「全部、同じ条件?」

隣の社員が訊いた。

「登録条件は同じです」

「下がり方も?」

「異なります」

「数値は見られます?」

「今回の業務には必要ありません」

画面に、

《詳細値 担当範囲外》

と表示される。

社員はそれ以上聞かなかった。

「まず、発生直後の設備影響から確認します」

担当者がCase-01を開いた。

《Case-01》

《初回記録》

《生活支援開始 あり》

《設備需要変化 あり》

《主な影響》

《住居内需要》

《公共交通》

《生活時間帯》

数値はない。

設備側で必要な分類だけだった。

《初回補正》

《既存手順で対応》

《追加設備対応 不要》

「普通ですね」

隣の社員が言った。

「設備側では」

担当者が答える。

次。

《Case-02》

《生活支援開始 あり》

《主な影響》

《住居内需要》

《公共施設》

《行政窓口》

《初回補正》

《既存手順で対応》

《追加設備対応 不要》

Case-03も似ていた。

支援内容は違う。

需要の動きも違う。

それでも設備側の処理は既存手順に収まっている。

悠真はそれぞれの記録へ確認を付ける。

「急落したこと自体で設備が変わるわけじゃない」

悠真が言った。

「はい」

担当者が答える。

「生活支援が始まり、その結果として生活条件が変化します。設備側が扱うのは主にその後です」

「前にも同じ集計ありましたよね」

「今回は初期記録との照合です」

画面の端に、

《現行記録との対応》

が出ている。

四月に作られた最初の設備記録。

その後更新された支援記録。

現在の設備需要。

三つを照合する作業らしい。

Case-01。

《初期記録》

《住居内需要 増加見込み》

《現行記録》

《増加確認》

《補正済み》

Case-02。

《初期記録》

《公共施設利用 増加見込み》

《現行記録》

《増加確認》

《補正済み》

Case-03。

《初期記録》

《公共交通利用 変化見込み》

《現行記録》

《変化確認》

《補正済み》

予測と実際が完全に同じという意味ではない。

方向。

時間帯。

設備分類。

当時の記録が、後から確認できる形で残されている。

「次、Case-04です」

担当者が言った。

悠真は画面を見る。

《Case-04》

《四月十八日》

《代表管理事例》

以前から見ている表記だった。

その下。

《初回記録》

《生活支援開始 あり》

《主な影響》

《住居内需要》

《公共交通》

《生活時間帯》

《地域施設》

項目が少し多い。

「支援が複数?」

悠真が訊いた。

「はい」

「今も?」

「支援内容そのものは本日の確認対象外です」

画面には設備側の変化だけが表示される。

《初回補正》

《既存手順で対応》

《追加設備対応 不要》

ここまでは、ほかの事例と同じだった。

悠真は下へ送る。

《初期調査記録》

項目が一つ増える。

《再計算結果》

《一致》

その下。

《急落要因》

《確認できず》

これも以前見た。

さらに下に、

《初回要因説明》

という欄があった。

悠真の指が止まる。

《説明文 生成されず》

「これ、何です?」

隣の社員も同じ箇所を見ていた。

担当者が資料を確認する。

「初回監査時の記録です」

「説明できなかったってこと?」

「表示されている範囲では、説明文が生成されていません」

「理由は?」

「本日の共有範囲には含まれていません」

悠真は画面を見る。

《再計算結果 一致》

《急落要因 確認できず》

《説明文 生成されず》

三つが並んでいる。

「ほかの六件は?」

悠真が訊いた。

担当者が一覧表示へ戻した。

《初回調査状態》

Case-01。

《要因説明 あり》

《確定要因 未確認》

Case-02。

《要因説明 あり》

《確定要因 未確認》

Case-03。

《要因説明 あり》

《確定要因 未確認》

Case-04。

《要因説明 生成されず》

《確定要因 未確認》

Case-05。

《要因説明 あり》

《確定要因 未確認》

Case-06。

《要因説明 あり》

《確定要因 未確認》

Case-07。

《要因説明 あり》

《確定要因 未確認》

悠真は一覧を読み直した。

「説明があるって、原因が分かったわけじゃないですよね」

「はい」

担当者が答える。

「入力条件と予測変化から、判定に寄与した要因候補を文章化できたという意味です」

「じゃあ七件とも原因不明」

「現時点の調査記録では、共通原因は確認されていません」

「Case-04だけ、候補の説明も作れなかった?」

「初回記録上はそうです」

担当者はそこで言葉を切った。

「ただし、それを代表事例の指定理由と考えないでください」

悠真が顔を上げる。

「違うんですか?」

「代表指定理由は別の管理項目です」

「見られます?」

担当者が操作する。

《代表管理事例 Case-04》

その下に、

《代表指定理由》

が表示された。

悠真は開こうとした。

《現在の担当業務には含まれません》

《必要な場合は所管へ照会してください》

赤くはない。

警告音もない。

いつもの灰色の表示だった。

「設備確認には要らない?」

「はい」

担当者が答える。

「今回必要なのは、七件の初期設備記録と現行記録の対応です」

悠真は《戻る》を押した。

Case-04の設備記録へ戻る。

《初期記録》

《住居内需要 変化見込み》

《公共交通利用 変化見込み》

《生活時間帯 変化見込み》

《地域施設利用 変化見込み》

《現行記録》

それぞれの項目に、

《変化確認》

《補正済み》

と並んでいる。

支援後の生活は、記録どおり変わっていた。

設備側から見れば、処理できている。

「この人、今は?」

隣の社員が訊いた。

担当者が画面を見る。

「設備需要に関する現行状態ですか?」

「はい」

《現行設備影響》

《既存補正内》

《追加対応 不要》

それだけだった。

健康。

仕事。

家族。

本人が今の生活をどう思っているか。

そういった項目は表示されていない。

悠真は少し画面を送った。

下には何もなかった。

「次へ進めます」

担当者が言う。

《Case-04》

《初期設備記録と現行設備記録》

《対応確認》

悠真は《確認》を押した。

《確認済み》

画面がCase-05へ切り替わった。


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