第24話 調和性 Part3 決まったあと
昼休みを過ぎた頃、人事支援室から結果が届いた。
《担当範囲変更》
《本人希望 確認済み》
《所属責任者 確認済み》
《受入部門照会 不要》
《勤務条件 変更なし》
《八月一日より段階移行》
悠真は通知を開いた。
所属は変わらない。
席も変わらない。
勤務時間も変わらない。
増えるのは担当範囲だけだった。
《追加担当》
《自治体基盤調整》
《生活条件説明資料確認》
《部門横断照会対応》
その下に、課長から短いコメントが付いている。
《現在の案件状況を踏まえ、段階的に担当範囲を拡張します》
《既存担当の引継ぎは発生しません》
さらに、
《業務負荷は月次確認時に再調整します》
とある。
「来ました?」
岸本が訊いた。
「ああ」
「決定?」
「八月から」
「何か変わります?」
「今やってるのが正式に入るくらい」
「席は?」
「ここ」
「じゃあ私の隣ですね」
「嫌なのか?」
「逆です。異動したら誰に細かいこと聞けばいいのかと思ってました」
「自分で調べろよ」
「効率悪いじゃないですか」
「そういう時だけ効率言うな」
岸本が笑う。
悠真は通知の最後まで送った。
《本人確認》
《内容を確認》
《照会する》
悠真は《内容を確認》を押した。
《担当範囲変更を登録しました》
通知が通常の人事履歴へ移る。
それだけだった。
昨日まで何度も開いた候補一覧は、もう表示されていない。
必要になれば履歴から見られる。
別の候補が削除されたわけではない。
異動案も。
研修案も。
今は選ばなかっただけだった。
「終わりました?」
岸本が言う。
「ああ」
「どうです?」
「どうって?」
「決めた感じ」
悠真は少し考える。
「普通」
「そんなもんですか」
「岸本はどうだったんだよ」
「私も普通でしたよ」
「じゃあ聞くな」
「人によって違うかと思って」
「違わなかったな」
岸本は頷き、自分の画面へ戻った。
数分後には、二人とも別の資料を見ていた。
*
十五時四十八分。
相川市から、北部生活圏の更新資料が共有された。
午前中に悠真が確認した設備縮小案とは別の資料だった。
《北部生活圏 地域運用計画》
《次年度案》
設備。
相談窓口。
公共交通。
生活支援拠点。
それぞれの変更候補が一つの地図に重ねられている。
悠真の担当は設備部分だけだった。
それでも、全体図は確認できる。
北部の住宅需要は少し減る。
相談窓口は現在の開設時間を維持。
公共交通は昼間の一部便を小型車両へ変更。
中心部への接続本数は維持。
生活支援の巡回拠点は二か所から一か所へ集約。
代わりに予約訪問枠を増やす。
「結局、窓口の時間は変えないんですね」
岸本が資料を見ながら言った。
「ああ」
「前に延長案ありましたよね」
「意見集めた結果、今のまま」
「利用者少なかった?」
「夜を延ばすより、予約枠増やした方が使う人が多いらしい」
「なるほど」
悠真は設備欄を見る。
《住宅系設備》
《更新規模 縮小》
《非常時供給能力 維持》
《将来増設接続 維持》
《公共施設系設備》
《変更なし》
《交通結節設備》
《変更なし》
設備だけなら、午前に確認した内容と同じだった。
地図上では、北部の一部が少し薄くなる。
中心部は濃いまま。
その間を結ぶ交通線は残る。
「小さくするけど、なくすわけじゃない」
岸本が言った。
「需要あるからな」
「増えたら?」
「増やせるようにしてる」
「減り続けたら?」
「次の更新でまた見る」
「ずっと調整ですね」
「設備なんてそんなもんだろ」
悠真は設備部分へ確認を付けた。
《設備条件 確認済み》
画面の地図はそのままだった。
住宅。
交通。
施設。
人が使う場所。
使わなくなった場所。
新しく使われる場所。
それぞれに合わせて、線と色が少しずつ変わっている。
誰か一人の判断で作られた形ではない。
転居した人。
残った人。
仕事を変えた人。
変えなかった人。
支援を利用した人。
利用しなかった人。
一つ一つの選択が、その地図のどこかに含まれている。
悠真は次の確認項目を開いた。
《地域設備計画》
《次年度需要予測へ反映》
《確認》
押す。
地図が閉じた。
*
十九時二十七分。
帰宅すると、陽菜が玄関まで来た。
「来た」
「何が?」
「日程」
靴を脱ぐ前に端末を見せられる。
《地域発展学習プログラム》
《九月 初回日程》
曜日と時間が並んでいる。
火曜日。
木曜日。
放課後。
「早かったな」
「今日来た」
「八月下旬じゃなかったのか?」
「初回だけ先に決まったんだって」
「模型教室は?」
「見て」
陽菜が予定表へ切り替える。
九月。
火曜と木曜に、新しい予定が入っている。
土曜日には模型教室。
月四回。
一部の日には、
《参加時刻調整候補》
と小さく表示されていた。
「月二回になるって話じゃなかった?」
悠真が訊く。
「学校始まったら、平日にも行ける日あるって」
「振替?」
「うん」
「真央ちゃんは?」
「土曜」
「じゃあ一緒なのは?」
陽菜は予定表を数える。
「三回かも」
「増えたな」
「まだ決まってないけど」
画面には、
《予定候補》
《本人確認前》
とある。
「これも選ぶのか?」
「うん」
「いつ?」
「来月」
「じゃあまだ先だな」
「忘れないでね」
「お前の予定だろ」
「パパも見るでしょ」
「見るけど」
陽菜は端末を閉じる。
「真央ちゃんにも言った」
「何て?」
「参加するって」
「それだけ?」
「あと模型見せた」
「反応は?」
「木が多いって」
悠真が笑った。
「俺もそう思った」
「パパは言ってないじゃん」
「今思った」
「ずるい」
陽菜はリビングへ戻っていく。
その途中で振り返った。
「真央ちゃん、次は屋根作るって」
「何の?」
「店」
「また店?」
「前の続き」
「まだ続いてるのか」
「終わってないよ」
「いつ終わるんだ?」
「分かんない」
陽菜は笑って、そのまま奥へ行った。
悠真は玄関に立ったまま、少しだけ予定表を見る。
火曜日。
木曜日。
土曜日。
学校。
プログラム。
模型教室。
全部入っている。
まだ決まっていないところには、決まっていないと表示されていた。
*
二十二時五十二分。
家族が寝たあと、悠真は一人でリビングにいた。
明日の仕事を確認する。
《九時 部門定例》
《十時三十分 相川市設備条件確認》
《十三時 契約更新》
《十五時 地域需要月次整理》
通常の予定だった。
その下に、
《担当範囲変更》
が追加されている。
《八月一日より適用》
悠真は開かずに閉じた。
家庭予定へ切り替える。
陽菜の九月予定。
まだ仮の部分が多い。
《発展学習プログラム》
《参加登録済み》
《地域建築模型教室》
《継続》
少し下には、自分の予定もある。
《業務担当範囲変更》
《確認済み》
美咲。
蒼。
蓮。
家族それぞれの予定が、いつも通り並んでいた。
画面の下に、
《生活計画更新》
という通知が一件ある。
悠真は開いた。
《家族予定の変更を反映しました》
《移動・送迎候補を更新しました》
《食事時刻候補を更新しました》
《家庭内予定重複 なし》
《追加確認が必要な項目 なし》
どれも普通の更新だった。
悠真は《確認》を押した。
画面が閉じる。
その直前。
通知一覧の一番下に、見たことのない項目が一瞬だけ表示された。
悠真の指が止まる。
《協調率》
第24話 完




