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静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


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第24話 調和性 Part2 選んだ方

二十時十二分。

夕食が終わる頃には、陽菜の参加登録は家族予定へ反映されていた。

九月以降。

週二回。

まだ曜日は決まっていない。

《発展学習プログラム》

という予定枠だけが薄く置かれている。

模型教室の予定も残っていた。

《地域建築模型教室》

月四回。

九月分はまだ調整前のため、重複日の表示はない。

「いつ分かるの?」

陽菜が訊いた。

「初回案内が八月下旬って出てただろ」

悠真が答える。

「遅い」

「まだ一か月以上あるぞ」

「決まったら早く知りたいじゃん」

「決まってないから出せないんだろ」

「候補は?」

「出てない」

陽菜は予定表を送る。

《日程確定後に通知します》

それ以上はなかった。

「真央ちゃんに言っていい?」

「参加すること?」

「うん」

「いいだろ」

「明日言う」

「今連絡しないの?」

美咲が訊いた。

「明日学校で言う」

「珍しいね」

「直接言いたいから」

陽菜は予定表を閉じた。

「模型の写真も見せる」

「そっちが先になりそうだな」

「どっちでもいい」

陽菜は棚へ向かった。

悠真はその背中を見る。

参加登録が決まったからといって、何かが急に変わったわけではない。

明日も学校へ行く。

真央とも会う。

模型教室もある。

九月から、そこへ週二回が増える。

家庭用端末が食後の予定を表示した。

《陽菜》

《翌日準備 完了》

《推奨就寝時刻 二十二時十分》

陽菜が言う。

「まだ二時間ある」

「宿題終わってるなら好きにしろ」

「模型やる」

「また?」

「木の位置」

「さっき決めてなかった?」

「写真で見たら違った」

陽菜は模型の前へ座った。

小さな木を一度抜く。

少し離れた位置へ挿す。

悠真には、さっきとの違いがほとんど分からなかった。

二十一時三十六分。

陽菜たちが自分の部屋へ戻ったあと、悠真は仕事用端末を開いた。

持ち帰り作業ではない。

人事支援室の通知だけを確認するためだった。

《キャリア形成支援》

《確認期限 本日》

《現在 保留中》

昼間から変わっていない。

美咲がソファから声をかける。

「それも今日まで?」

「ああ」

「仕事の?」

「人事」

「前に言ってたやつ?」

「そう」

美咲は読んでいた本を閉じた。

「まだ決めてなかったんだ」

「決めなくても今のままではあるんだけどな」

「じゃあ、今のまま?」

「それを今見てる」

悠真は候補を開く。

《現在所属での職務継続》

《現在所属内での担当拡張》

《地域基盤調整部門への配置変更》

《専門研修を伴う将来配置》

昼間と同じ四つ。

配置変更を開く。

業務内容。

勤務条件。

通勤条件。

想定される担当範囲。

自治体との調整が増える。

現在よりも社外関係者との打ち合わせが多い。

出張も少し増える。

専門研修を伴う案も見る。

研修期間。

担当変更の時期。

必要資格。

勤務への影響。

どれも悪い条件ではない。

むしろ、長期的には有利と書かれている。

《想定される将来業務範囲 拡大》

《専門性活用機会 増加》

《部門間調整経験 活用》

悠真は閉じた。

次に、

《現在所属内での担当拡張》

を開く。

今の部署。

今の席。

今の勤務条件。

設備需要計画。

自治体案件。

住民説明資料。

そこへ、

《地域基盤計画における生活条件確認》

《部門横断資料照会》

《自治体初期調整支援》

が加わる。

「どう違うの?」

美咲が訊いた。

「異動しないで、今やってる仕事を少し広げる」

「最近やってること?」

「だいたい」

「じゃあ、もう広がってない?」

悠真は少し考えた。

「確かにな」

「なら今とあんまり変わらない?」

「正式に担当範囲へ入るくらいかな」

「やりたい?」

悠真は画面を見る。

「嫌ではない」

「それ、やりたいの?」

「仕事だぞ」

「陽菜には何回も聞いてたじゃん」

悠真は美咲を見る。

美咲は笑っていた。

「同じじゃないだろ」

「違う?」

「子どもの習い事と仕事だぞ」

「でも選ぶんでしょ」

「まあ」

「じゃあ、どれがいいの?」

悠真はもう一度四つの候補を見る。

異動。

研修。

担当拡張。

現状維持。

画面の上には、

《推奨》

とは書かれていない。

一番上に置かれている候補には、

《現在所属内での担当拡張》

とだけある。

その理由を開く。

《候補順に反映された主な情報》

《現所属での継続希望傾向》

《自治体案件における確認実績》

《設備需要計画経験》

《部門横断照会への対応履歴》

《現在勤務条件との適合》

その下。

《今回の候補順は選択を制限するものではありません》

「よくできてる」

悠真が言った。

「何が?」

「俺が残りそうなの分かってる」

「残りたいんじゃないの?」

「たぶん」

「なら合ってるね」

「ああ」

美咲は本を開き直した。

「じゃあ、それでいいんじゃない?」

「簡単に言うな」

「簡単なの?」

「いや」

悠真は画面を見る。

今の部署に不満があるわけではない。

仕事内容にも慣れている。

相川市の案件は続いている。

最近増えた確認作業も、最初ほど遠い仕事には感じなくなった。

異動すれば新しい仕事がある。

研修を受ければ、今後できることも増える。

その可能性が消えるわけではない。

画面には、

《将来再提案 可能》

とある。

現在所属を選んでも、以後の異動提案を拒否する設定にはならない。

「押さないとどうなるんだっけ?」

美咲が本を見たまま訊いた。

「今の仕事が続く」

「じゃあ押さなくても同じ?」

「今はな」

「なら何で押すの?」

悠真は少し黙った。

昼間、岸本に言った言葉を思い出す必要はなかった。

「決めてないまま残るのと、残るって決めるのは違うだろ」

美咲が顔を上げる。

「そういうもの?」

「俺はな」

「なら押せば?」

「うん」

悠真は、

《現在所属内での担当拡張》

を選んだ。

画面が切り替わる。

《候補内容を確認してください》

《所属》

《エネルギー基盤事業部 国内計画課》

《勤務条件》

《現行条件を継続》

《担当範囲》

《設備需要計画》

《自治体基盤調整》

《生活条件説明資料確認》

《部門横断照会対応》

《開始予定》

《八月以降 業務状況に応じて段階移行》

下に、

《この内容を希望》

《比較へ戻る》

がある。

悠真は最初の項目を押した。

《希望を受け付けました》

次の画面。

《所属責任者との確認後、担当範囲を確定します》

《勤務条件に変更が生じる場合は、確定前に再確認します》

まだ決定ではなかった。

人事支援室へ本人の希望を送っただけ。

「終わり?」

美咲が訊いた。

「俺の返事は」

「何にしたの?」

「今の部署で少し広げる」

「やっぱり」

「何がやっぱりなんだ」

「そうすると思った」

「先に言えよ」

「言ったら影響したって言うでしょ」

「言わないよ」

「本当に?」

悠真は少し考える。

「たぶん」

「ほら」

美咲が笑った。

端末に通知が出る。

《本人希望 確認済み》

《所属確認 未完了》

《結果通知予定 二営業日以内》

悠真は画面を閉じた。

翌朝。

業務端末を開くと、人事支援室の項目は通知欄の下へ移っていた。

《担当範囲変更》

《所属責任者確認中》

急ぐ項目ではない。

悠真はそのまま通常業務を開いた。

《相川市生活基盤更新計画》

《旧住宅地区 設備更新規模》

昨日まで保留になっていた需要再確認が完了している。

《将来需要再確認 完了》

《更新規模》

《縮小案を採用》

《供給余裕 基準内》

《災害時冗長性 適合》

《将来増設余地 確保》

以前、共通設計だけを先に進めていた案件だった。

容量依存部分が再提示されている。

岸本が隣から画面を覗く。

「決まったんですね」

「ああ」

「縮小?」

「需要予測更新したら、それで足りる」

「北部ですよね」

「そう」

悠真は詳細を開く。

住宅需要。

公共施設需要。

交通需要。

生活支援施設。

数字は以前見たものから少し更新されている。

中心部は増加。

北部は緩やかに減少。

設備規模を抑えても安全余裕は残る。

「工事費も下がる?」

岸本が訊く。

「下がる」

「じゃあ良かったじゃないですか」

「設備だけ見ればな」

「また細かい言い方」

「需要が減ったから縮めるだけだよ」

「それが設備の仕事でしょう」

「ああ」

悠真は容量依存設計を開いた。

《変圧設備容量》

《縮小案へ更新》

《監視設備》

《変更なし》

《非常時供給経路》

《変更なし》

《将来増設用接続部》

《維持》

必要なところだけ小さくする。

後から増やせる部分は残す。

設計として不自然なところはない。

《確認対象》

《需要条件と設備容量の整合》

悠真は確認を進めた。

一項目ずつ。

供給余裕。

非常時容量。

保守性。

将来拡張。

最後。

《設備需要条件》

《整合》

《担当確認》

悠真は押した。

《確認済み》

資料が次の工程へ送られる。

《詳細設計へ反映》

岸本が言う。

「佐伯さんの人事も決まったら、こういうの増えるんですかね」

「たぶん」

「嫌です?」

「今やってるだろ」

「じゃあ変わらない」

「少し増える」

「それで選んだんですよね」

「ああ」

岸本は自分の画面へ戻る。

「じゃあ合ってますね」

悠真も次の案件を開いた。

「今のところはな」

「将来違ったら?」

「その時また考える」

「陽菜ちゃんみたい」

悠真が顔を上げる。

「何で知ってるんだよ」

「何がです?」

「いや」

岸本が首を傾げる。

悠真は画面へ戻った。

午前の予定には、あと三件残っていた。


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