↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
74/85

第24話 調和性 Part1 押す理由

朝。

陽菜は、食卓で模型の写真を撮っていた。

昨日作った学校の広場。

校舎。

体育館。

小さな屋根。

二つのベンチ。

端に置いた、座ってもいい段差。

「それで全部?」

悠真がコーヒーを飲みながら訊いた。

「まだ」

陽菜は端末を少し動かす。

「何枚撮るんだよ」

「入口からと、こっちから」

「同じだろ」

「違うよ」

「何が?」

「ベンチの見え方」

悠真にはほとんど同じに見えた。

陽菜は画面を確認し、一枚を消す。

もう一度撮る。

「学校に送るんだっけ」

「うん」

「プログラムの?」

「先生に見せるだけ」

「まだ参加決まってないぞ」

「分かってる」

陽菜は写真を送信する前に、一枚ずつ確認していた。

背景に家族の写真が写り込んでいないか。

住所が分かるものがないか。

窓の外が大きく入っていないか。

学校から言われた通りに確認している。

美咲が朝食を運びながら言った。

「慎重だね」

「先生に見てって言われたから」

「ちゃんと聞いてる」

「普通でしょ」

陽菜は最後の一枚を選んだ。

《学校活動共有》

《画像三枚》

《送信しますか》

《送信》

押す。

《送信しました》

それだけだった。

「終わり?」

悠真が訊く。

「うん」

陽菜は端末を食卓へ置いた。

その画面に、別の通知が出た。

《確認待ちの項目があります》

昨日から残っているものだった。

《地域発展学習プログラム》

《建築・都市設計基礎》

《本人参加希望 確認済み》

《保護者確認 未完了》

陽菜が一度画面を見る。

それからパンを取った。

「今日まで?」

悠真が訊いた。

美咲が確認する。

「七月十日までだから、まだ」

「そうか」

「パパ、忘れてない?」

陽菜が言う。

「忘れてないよ」

「昨日も言った」

「昨日も忘れてないって言った」

「じゃあいいけど」

それで話は終わった。

陽菜はパンを食べ始める。

蓮が牛乳をこぼしかけ、美咲に止められる。

蒼は今日の授業予定を見ている。

家庭用端末が雨の可能性を知らせた。

《十五時以降 一時的な降雨の可能性》

《折り畳み傘の携行を推奨》

「今日降るの?」

美咲が言った。

「昨日二十二パーセントだったぞ」

「更新されたみたい」

悠真も自分の端末を見る。

《帰宅時間帯 降水確率 三十八パーセント》

「持っていくか」

「玄関にあるよ」

「分かってる」

「昨日も端末に教えてもらってなかった?」

蒼が言う。

「今日は覚えてる」

「なら大丈夫」

悠真はコーヒーを飲み終えた。

立ち上がる。

その前に、食卓の端末へ視線を戻した。

《保護者確認 未完了》

まだ残っている。

陽菜はもう見ていなかった。

玄関で靴を履いていると、陽菜が廊下へ出てきた。

「パパ」

「何?」

「今日押す?」

「何を」

「プログラム」

悠真は靴紐を結びながら答える。

「帰ってからな」

「分かった」

「何で?」

「先生に、決まったら教えてって」

「今日じゃなくてもいいんだろ?」

「うん」

「じゃあ帰ってから」

「はーい」

陽菜はそのままリビングへ戻ろうとした。

悠真が呼び止める。

「陽菜」

「なに?」

「昨日の模型」

「うん」

「本当にああいうのやりたいんだな」

陽菜が少し笑った。

「何回聞くの?」

「確認」

「またLifeOS?」

「違う」

「同じじゃん」

「俺は理由聞いてるだろ」

「昨日言ったよ」

「そうだけど」

陽菜は少し考える。

「作りたいから」

「街を?」

「街も」

「広場?」

「それも」

「じゃあ何?」

陽菜は玄関の壁へ背中を預けた。

「分かんない」

「分かんないのかよ」

「やってみないと分かんないでしょ」

悠真は笑った。

「それで参加するのか?」

「だから参加するんじゃん」

「なるほどな」

「変?」

「いや」

陽菜も少し笑う。

「行ってらっしゃい」

「ああ。行ってきます」

扉を開ける。

外へ出る前に、悠真はもう一度振り返った。

陽菜はすでにリビングへ戻っていた。

午前十一時二十六分。

相川市の設備更新資料を確認している途中で、人事支援室から通知が届いた。

《キャリア形成支援》

《確認期限 本日》

《現在 保留中》

悠真は画面を止めた。

自分の提案だった。

数日前から残している。

《現在所属での職務継続》

《現在所属内での担当拡張》

《地域基盤調整部門への配置変更》

《専門研修を伴う将来配置》

候補は変わっていない。

一番上には、

《現在所属での職務継続》

ではなく、

《現在所属内での担当拡張》

が表示されている。

昨日までと同じだった。

《本人適合》

《現在業務との連続性》

《自治体案件経験》

《説明条件確認経験》

《将来業務範囲》

下に、

《詳細を比較》

がある。

悠真は開かなかった。

「今日まででしたっけ」

岸本が言った。

「見えてた?」

「通知だけ」

「今日まで」

「決めました?」

「まだ」

「今日決めるんですよね」

「たぶん」

「期限あるので」

「分かってるよ」

岸本は少し笑った。

「佐伯さん、最近ずっと保留してますね」

「岸本に言われたくない」

「私はもう決めました」

「そうだったな」

「担当範囲拡張」

「ああ」

岸本の方は、以前に選択済みだった。

異動しない。

現在の仕事を続けながら、一部の担当を広げる。

本人の希望に合わせて出された候補。

本人が選んだ。

それだけだった。

悠真は自分の画面を見る。

《確認期限 本日》

その下。

《期限まで回答がない場合》

《現在所属・現在担当を継続します》

《配置変更・研修参加は確定しません》

以前確認した説明と同じ。

決めなくても、罰はない。

勝手に異動することもない。

今の仕事が続く。

「放っておいたら今のままなんですよね」

岸本が言う。

「ああ」

「それでも決めるんです?」

悠真は画面を見たまま答える。

「放っておくのと、今のままを選ぶのは違うだろ」

岸本は少しだけ黙った。

「そうですね」

悠真は《現在所属での職務継続》を開いた。

現在の担当。

設備計画。

自治体案件。

需要予測。

住民説明資料。

今までと同じ仕事。

次に、

《現在所属内での担当拡張》

を開く。

《設備需要計画》

《自治体基盤調整》

《生活条件説明資料確認》

《部門横断照会対応》

大きくは変わらない。

ただ、少し広い。

「佐伯さん」

「何?」

「今どっちです?」

「まだ見てる」

「じゃあ聞かない」

「聞いたじゃないか」

「答えなくていいです」

岸本は自分の仕事へ戻った。

悠真も画面を閉じる。

人事提案はまだ保留のまま残った。

十八時五十二分。

悠真が帰宅すると、陽菜はリビングにいなかった。

「陽菜は?」

「お風呂」

美咲が答える。

「早いな」

「今日、体育あったって」

「疲れた?」

「そうでもないみたい」

棚の上には、昨日の模型が置かれていた。

少し変わっている。

入口の横に、小さな木が一本増えていた。

「また変えた?」

「学校から帰ってすぐ」

「何で木?」

「先生に、日陰も考えてみたらって言われたみたい」

「なるほど」

悠真は鞄を置く。

家庭用端末が点いた。

《確認待ち 一件》

《地域発展学習プログラム》

《建築・都市設計基礎》

《本人参加希望 確認済み》

《保護者確認 未完了》

昨日と同じ。

美咲が画面を見る。

「どうする?」

悠真は上着を脱ぎながら答えた。

「押そうと思う」

「そう」

美咲はそれだけ言った。

「いいの?」

悠真が訊く。

「何が?」

「俺が押して」

「いいよ」

「美咲でもいいだろ」

「昨日からパパが考えてたんだから」

「別に俺が決める話じゃないだろ」

「じゃあ陽菜?」

「本人はもう決めてる」

「なら残ってるの、私たちだけだね」

悠真は端末を見る。

《保護者確認》

まだ開かなかった。

「陽菜出てきてからにする」

「うん」

美咲も急かさなかった。

十九時十一分。

陽菜が髪を拭きながらリビングへ入ってきた。

「パパ帰ってた」

「おかえりじゃないのか」

「パパがおかえりでしょ」

「そうだった」

「おかえり」

「ただいま」

陽菜は冷蔵庫から水を出した。

悠真が言う。

「陽菜」

「なに?」

「プログラム」

陽菜が振り返る。

「押す?」

「ああ」

「いいの?」

「いいよ」

陽菜は少しだけ笑った。

「やった」

大きな声ではなかった。

美咲も笑う。

悠真は家庭用端末を開いた。

《地域発展学習プログラム》

《建築・都市設計基礎》

《本人参加希望 確認済み》

《保護者確認 未完了》

下へ送る。

条件。

期間。

週二回。

学校変更なし。

模型教室継続可能。

本人希望による終了可能。

昨日も一昨日も見た内容だった。

悠真は最後まで確認した。

《保護者確認》

《承認》

《後で確認》

指を止める。

「パパ」

「何?」

「まだ考える?」

陽菜が訊いた。

悠真は画面を見る。

「いや」

《承認》を押した。

画面が切り替わる。

《参加条件を確認しましたか》

《確認した》

押す。

《本人の参加希望を確認しましたか》

悠真は陽菜を見る。

「まだやりたい?」

陽菜が笑った。

「うん」

《確認した》

押す。

数秒。

《保護者確認を受け付けました》

《参加登録手続きを開始します》

続いて、

《本人確認》

《保護者確認》

《実施機関確認》

三つが並ぶ。

上の二つには、

《完了》

と表示されていた。

実施機関だけ、

《処理中》

だった。

「これで終わり?」

陽菜が訊く。

「まだ向こうの登録」

「じゃあ明日?」

「たぶん」

「決まったら学校にも来る?」

「来るんじゃないか」

「先生に言お」

陽菜は端末を覗く。

数秒後。

《実施機関確認 完了》

《参加登録 確定》

《初回案内 八月下旬》

陽菜が笑った。

「決まった」

「ああ」

「ありがとう」

「俺に?」

「パパが押したから」

悠真は少し考えてから言う。

「お前が行きたいって決めたからだろ」

陽菜は一度だけ頷いた。

「うん」

それから棚の模型へ向かった。

「木、見た?」

「見た」

「どう?」

「いいんじゃないか」

「適当」

「日陰になるだろ」

「時間で変わるよ」

「そこまで考えるの?」

「プログラムで聞いてみる」

陽菜は模型の前へ座った。

小さな木を少しだけ動かす。

悠真は家庭用端末を見る。

《参加登録 確定》

その下に、

《予定反映》

《九月以降の放課後予定へ反映します》

と表示されていた。

悠真は《確認》を押した。

画面が家庭予定へ戻る。

九月の予定表には、まだ具体的な日程は入っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。