第23話 幸福の測り方 Part3 確認待ち
二十一時四十六分。
陽菜は模型を片付けていた。
広場そのものは棚に残し、余った木片と紙だけを箱へ戻している。
「それ、完成じゃないの?」
美咲が訊いた。
「まだ」
「何が足りない?」
「分かんない」
「分かんないのに未完成?」
「明日見たら変えたいところあるかもしれないから」
陽菜は蓋を閉めた。
「じゃあ、今日は終わり?」
「うん」
模型の横には、二つのベンチと、小さな段差が残った。
入口も、さっきより少し広くなっている。
「歯磨いて寝ろよ」
悠真が言う。
「分かってる」
「明日の準備は?」
「した」
「本当に?」
陽菜が鞄を指した。
「見れば?」
「そこまでしないよ」
「じゃあ聞かなくていいじゃん」
「確認だよ」
「LifeOSみたい」
美咲が笑った。
悠真も笑う。
「俺は一回しか聞いてないだろ」
「端末も一回の時あるよ」
「負けた」
陽菜は満足そうに笑って、廊下へ出ていった。
少しして洗面所から水の音がする。
食卓の上には、夕食の時に開いていた参加案内が残っていた。
画面は暗くなっている。
美咲が食器を片付けながら言った。
「楽しそうだったね」
「ああ」
「昨日より」
「今日は自分で作ってたからな」
「前から好きだったんだろうね」
「模型はな」
「模型だけじゃなかったんじゃない?」
悠真は棚の上を見る。
校舎。
広場。
ベンチ。
立って待つ場所。
座ってもいい段差。
人によって使い方が違うと言いながら、陽菜が一つずつ置いたものだった。
「かもな」
美咲は最後の皿を流しへ入れた。
「私は賛成だよ」
「分かってる」
「反対?」
悠真は少し間を置いた。
「反対ってほどじゃない」
「じゃあ?」
「昨日、何か見落としてるんじゃないかと思ってた」
「今日も?」
悠真は答えず、棚の模型を見た。
「陽菜が楽しそうなのは分かった」
「うん」
「やりたい理由も」
「うん」
「真央ちゃんのことも、本人はちゃんと考えてる」
美咲が頷いた。
「じゃあ、だいたい見たんじゃない?」
「たぶん」
「たぶんなんだ」
「親ってそんなもんだろ」
「私は結構すぐ押せるけど」
「それは美咲だから」
「どういう意味?」
「俺より決めるの早い」
「昨日は待ったよ」
「俺が帰るまでだろ」
「家族の確認だからね」
美咲は布巾を掛けた。
「でも、陽菜のことだから」
「分かってる」
それ以上は続かなかった。
*
二十二時十八分。
陽菜が寝室へ向かう前に、リビングへ顔を出した。
「パパ」
「何?」
「明日、模型の写真撮っていい?」
「何で俺に聞くんだ」
「学校で見せるから」
「自分のだろ」
「背景に家映るかもしれないじゃん」
「そこまで気にするのか」
「先生が、家のもの写ってないか見てから送ってって」
「じゃあ気をつけろよ」
「うん」
陽菜は戻ろうとして、止まった。
「あのプログラム」
「うん」
「まだ押してないよね?」
「ああ」
「今日押さなくてもいいの?」
「期限はまだだろ」
「そうだけど」
陽菜は少し考えた。
「忘れない?」
「忘れないよ」
「ほんと?」
「端末も出すだろ」
「じゃあ大丈夫か」
それだけ言って、陽菜は廊下へ消えた。
扉が閉まる音がする。
悠真は時計を見る。
昨日の再提示時刻は、十九時だった。
夕食前に一度表示されている。
その時は開かなかった。
確認期限までは、まだ三日ある。
*
二十三時十一分。
美咲も寝室へ上がったあと、悠真はリビングに残っていた。
明日の天気を確認する。
《降水確率 二十二パーセント》
《通常経路を推奨》
その下に、家族予定が並んでいる。
大きな変更はない。
さらに下。
《確認待ち 一件》
悠真は押した。
《地域発展学習プログラム》
《建築・都市設計基礎》
《本人参加希望 確認済み》
《保護者確認 未完了》
昨日と同じ画面だった。
《参加期間》
《九月から十二月》
《週二回》
《放課後》
《学校活動への変更 なし》
《地域建築模型教室 継続可能》
《本人希望による終了 可能》
悠真は下へ送る。
《予定影響》
《放課後移動 週二回追加》
《帰宅時刻 平均四十八分遅延》
《地域建築模型教室 同一時間帯参加》
《月四回 → 月二回見込み》
《家庭内送迎負担》
《月平均一・八時間減》
さらに下。
《本人確認》
《参加を希望》
《確認日時 本日》
昨日はなかった更新だった。
陽菜が学校で説明を受けたあと、参加希望をもう一度確認したらしい。
その下に短い記録がある。
《本人コメント》
《街や広場を作ることをやってみたい》
自由記述だった。
悠真はそこを読んだ。
次に、
《保護者確認》
が表示される。
《承認》
《後で確認》
昨日と同じ二つ。
画面の下には、
《確認期限 七月十日》
とある。
警告はない。
残り時間も出ていない。
悠真は画面を閉じなかった。
しばらくそのままにしていると、表示が少し暗くなった。
指で触れる。
元の明るさへ戻る。
《承認》
《後で確認》
二つの項目が、そのまま並んでいた。
悠真はどちらにも触れなかった。
端末を食卓へ置く。
画面は消えず、
《保護者確認 未完了》
だけが残った。
第23話 完




