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静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


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第23話 幸福の測り方 Part1 別の数字

十三時三十分。

悠真は、普段とは違う会議区画にいた。

正面の画面には、

《生活基盤計画研修》

《生活指標の読み方》

と表示されている。

相川市案件の追加研修だった。

自治体案件で生活条件を扱う社員を対象にしたもので、参加者は十二人。

設備担当。

需要計画。

住民説明。

契約管理。

所属は少しずつ違う。

岸本は二列後ろに座っていた。

「午後全部これですか?」

開始前に、岸本が訊いた。

「十六時まで」

「長いですね」

「途中休憩あるだろ」

「研修で二時間半は長いです」

「聞く前から言うなよ」

岸本は手元の資料を開いた。

「幸福度って、私たち見るんですか?」

表紙の下に今日の項目が並んでいる。

《生活満足》

《生活安定性》

《予測可能性》

《設備・地域計画への利用範囲》

「俺も初めてだよ」

「設備の研修には見えない」

「だから受けるんだろ」

開始時刻になった。

画面が切り替わる。

担当者は人材研修部ではなく、地域基盤計画室の社員だった。

「本日は、自治体案件で共有される生活関連指標について確認します」

最初に注意事項が表示される。

《本研修で扱う数値は、すべて匿名化された地域集計です》

《個人の幸福状態を判定するための研修ではありません》

《設備計画担当者が、住民個人の評価を行うことはありません》

悠真は資料を送った。

次のページ。

三つの項目が横に並ぶ。

《生活満足》

《本人申告を中心とする生活への主観的評価》

《生活安定性》

《住居・就労・健康・手続き等の継続状態》

《予測可能性》

《一定期間の生活条件から、需要・移動等の変化を予測できる程度》

担当者が言う。

「似た動きをする場合もありますが、同じ指標ではありません」

例が表示された。

《地域A》

《生活満足 高》

《生活安定性 高》

《予測可能性 高》

「これは分かりやすい例です」

同じ住居。

安定した就労。

大きな生活変更なし。

本人申告でも現在の生活への満足が高い。

交通利用や電力需要にも大きな変動がない。

「こういう地域は、設備需要も比較的読みやすくなります」

次。

《地域B》

《生活満足 高》

《生活安定性 中》

《予測可能性 低》

岸本が少し身を乗り出した。

担当者が説明を続ける。

「こちらは、居住者の入れ替わりが多い地域です」

就職。

転職。

進学。

転居。

世帯構成の変化。

生活条件は頻繁に動いている。

一方で、本人申告による生活満足は高かった。

《主な回答》

《新しい仕事に満足している》

《現在の住環境を気に入っている》

《地域活動への参加が増えた》

《希望していた転居を実現した》

悠真は画面を見る。

「満足してても、予測しにくいんですね」

前方の社員が訊いた。

「はい」

担当者はすぐに答えた。

「変化が多いことと、不幸であることは別です」

そのまま次の資料へ進む。

《地域C》

《生活満足 中》

《生活安定性 高》

《予測可能性 高》

長期間、同じ住居。

就労状態も安定。

生活時間帯の変化も少ない。

ただし本人申告では、

《特に不満はない》

《今の生活を変える予定はない》

《満足とも不満とも言えない》

が多い。

岸本が小声で言った。

「それでも安定は高い」

悠真も小さく答える。

「生活変わってないからな」

「幸福とは別」

「ああ」

前方の画面に注意書きが出る。

《生活安定性の高さは、生活満足の高さを意味しません》

続いて、

《予測可能性の高さは、本人の幸福を意味しません》

と表示された。

悠真はその一文を読んだ。

担当者が続ける。

「逆も同じです。満足度が高いからといって、将来の行動を高い精度で予測できるとは限りません」

資料に四つ目の例が出る。

《地域D》

《生活満足 高》

《生活安定性 中》

《予測可能性 中》

理由欄。

《新規就労》

《転居》

《家族構成変更》

《新規地域活動》

《生活時間帯変化》

どれも、悪い出来事ではなかった。

「これ、全部良い変化ですよね」

別の社員が言った。

「本人にとっては、そう評価されています」

「でも安定性は下がる?」

「評価期間内に生活条件の変更が多いため、一時的には下がります」

「じゃあ、安定性を上げるために変更を止めるわけではない?」

担当者が少し笑った。

「しません」

画面が切り替わる。

《指標は目的ではありません》

《生活支援・行政施策・設備計画では、それぞれ必要な指標を必要な範囲で使用します》

「例えば設備側が予測可能性を上げるために、住民へ転居しないよう求めることはありません」

何人かが頷いた。

「人が生活を変えた結果、需要予測が外れるなら、設備側が予測を更新します」

悠真は資料へ目を戻した。

転居。

就労。

学校。

外出。

生活時間。

変われば、予測も変える。

これまで自分がやってきた仕事と同じだった。

十五時。

休憩を挟んで、演習に入った。

《研修課題》

《次の地域について、設備需要計画で参照すべき情報を選択してください》

匿名地域のデータが表示される。

《生活満足 八六》

《生活安定性 六九》

《予測可能性 五八》

その下。

《直近三か月》

《転居増加》

《新規就労増加》

《公共交通利用増加》

《夕方在宅率低下》

《地域施設利用増加》

選択肢。

《生活満足》

《生活安定性》

《予測可能性》

《実測設備需要》

《生活条件変化》

《すべて》

悠真は少し考えた。

設備需要を確認するなら、

《実測設備需要》

《生活条件変化》

《予測可能性》

を選ぶ。

《回答》

数秒後。

《適切》

《生活満足は地域施策評価に使用されますが、本設問の設備需要補正には直接使用しません》

岸本が後ろから言った。

「佐伯さん、何選びました?」

「三つ」

「私も」

「全部じゃないんだな」

「全部見たら、また情報増えるじゃないですか」

「研修中だぞ」

「小声です」

以前にも聞いた言い方だった。

悠真は少し笑った。

次の設問。

《生活満足 九一》

《生活安定性 七四》

《予測可能性 六一》

《本人希望による生活変更が多い地域》

設問は、

《生活満足の高さを理由に、需要変動を小さく見積もってよいか》

《はい》

《いいえ》

悠真は《いいえ》を押した。

《正解》

《本人の幸福と、生活行動の予測可能性は分けて扱ってください》

画面が次へ進んだ。


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