表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/85

第22話 保留の期限 Part2 何を?

帰宅したのは、十九時を少し過ぎた頃だった。


玄関を開けると、リビングから陽菜の声が聞こえた。


「パパ、見て」


靴を脱ぐ前だった。


「何を」


「これ」


陽菜が端末を持ったまま廊下まで出てくる。


画面には、見慣れない案内が開かれていた。


《地域発展学習プログラム》


《建築・都市設計基礎》


《参加候補として選定されました》


「何だ、それ」


「学校で来た」


「今日?」


「うん」


美咲がリビングから言う。


「夕方に保護者にも届いたよ」


悠真は鞄を置き、陽菜から端末を受け取った。


《対象》


《地域建築模型活動・空間設計学習への継続参加者》


《学校活動における関連分野への関心》


《本人希望との適合》


《参加期間》


《九月から十二月》


《週二回》


《放課後》


「選ばれたのか?」


「候補だって」


陽菜が言う。


「まだ決めてない」


画面の上には、確かにそう書かれている。


《参加は任意です》


《現在の学校活動への変更はありません》


《参加しない場合の不利益はありません》


「建築のやつ?」


悠真が訊いた。


「模型だけじゃないって」


「何やるんだ?」


陽菜はもう一度画面を操作した。


説明が開く。


《主な活動》


《建築模型制作》


《歩行経路・広場・施設配置の設計》


《実際の地域空間を用いた観察》


《利用者条件を想定した設計比較》


《少人数グループによる制作》


《最終月に地域施設への提案発表》


悠真は最後まで読む。


「結構ちゃんとしてるな」


「面白そうでしょ」


陽菜の返事は早かった。


「やりたいのか?」


「うん」


迷いはあまりなかった。


美咲が食卓へ皿を置きながら言う。


「学校でも説明を受けたみたい」


「先生から?」


「担当の先生と、外部の人」


陽菜が答える。


「今日、ちょっとだけ話した」


「もう?」


「参加するか決める前の説明だよ」


「何聞かれた?」


「模型で何が好きかとか」


「何て答えたんだ?」


陽菜は少し考えた。


「道」


「やっぱり」


「あと、座るところ」


「ベンチ?」


「ベンチだけじゃないよ」


陽菜は少し不満そうに言った。


「人が止まるところ」


「同じじゃないのか?」


「違うよ」


「どう違うんだ」


「ベンチなくても止まれるでしょ」


悠真は笑った。


「そういうのをやるのか?」


「たぶん」


陽菜は端末を取り戻す。


「この前の模型みたいに、どこに何置くか考えるんだって」


「真央ちゃんと作ったやつ?」


「うん」


「真央ちゃんも?」


陽菜の指が止まった。


「これは来てないって」


「そうか」


「でも模型教室は一緒だよ」


「続けるの?」


「辞めなくていいって」


陽菜が画面を送る。


《現在活動との関係》


《学校 変更なし》


《地域建築模型教室 継続可能》


《既存課外活動 継続可能》


《必要に応じて予定調整候補を提示》


美咲も横から画面を見る。


「模型教室と重なる日は?」


「月に二回くらい」


陽菜が先に答えた。


「毎回じゃない」


「振替できるのか?」


「模型教室はできるよ」


「でも真央ちゃんは?」


「真央ちゃんはいつもの日に行くと思う」


悠真は画面を下へ送った。


《予定影響》


《放課後移動 週二回追加》


《帰宅時刻 平均四十八分遅延》


《地域建築模型教室 同一時間帯参加》


《月四回 → 月二回見込み》


《家庭内送迎負担》


《月平均一・八時間減》


《学校課題への影響》


《低》


《睡眠時間への影響》


《現行範囲内》


数字はそれだけだった。


誰と会う回数が減る。


誰と過ごす時間が増える。


そういう項目はない。


「送迎減るんだ」


美咲が言った。


「会場、学校から近いんだって」


陽菜が答える。


「模型教室より?」


「うん」


「それは助かるね」


「帰りも駅まで一緒に帰れる人いるって」


「誰?」


「まだ分かんない」


「参加する人?」


「たぶん」


陽菜は楽しそうだった。


悠真はもう一度、参加案内の最初まで戻る。


《建築・都市設計基礎》


《参加候補として選定されました》


特別な学校へ移るわけではない。


授業をやめるわけでもない。


今の友達と会えなくなるわけでもない。


週に二回。


放課後に、新しい場所へ行く。


それだけだった。


「いいんじゃない?」


美咲が言った。


「本人もやりたいみたいだし」


「うん」


陽菜も頷く。


「いつから?」


悠真が訊いた。


「九月」


「まだ先だな」


「でも返事は今週中」


陽菜が確認欄を開く。


《本人参加希望》


《希望する》


すでに選ばれていた。


「もう押したのか?」


「学校で」


「確定した?」


「してないよ」


陽菜は画面を送る。


《本人希望を確認しました》


《保護者確認後に参加登録を行います》


《保護者確認期限 七月十日》


「パパかママが押すんだって」


美咲が言う。


「私でもいいんだけど、帰ってから一緒に見ようと思って」


「なるほど」


悠真は席へ座った。


食卓には夕食が並んでいる。


蓮が先に箸を持って待っていた。


「たべていい?」


「いいよ」


美咲が言う。


「パパ待ってたんじゃないの?」


「もう来たからいいの」


「じゃあいただきます」


蓮が一人だけ先に手を合わせる。


蒼も自分の席へ座った。


「陽菜、何か受かったの?」


「まだ受かってない」


「候補だよ」


美咲が言う。


「都市設計のプログラム」


「へえ」


蒼は陽菜の画面を見る。


「好きそうじゃん」


「でしょ」


「模型だけ?」


「街も作る」


「本物?」


「本物は作らないよ」


「じゃあ模型じゃん」


「違う」


「何が?」


「考えるの」


「模型も考えるだろ」


二人の話が始まる。


悠真は箸を取った。



食事のあと、陽菜はもう一度プログラムの説明を開いた。


今度は紹介映像だった。


小学生から中学生くらいの子どもたちが、机の上に街区模型を作っている。


建物。


道路。


横断歩道。


小さな公園。


バス停。


広場。


人形。


あるグループは、同じ敷地に三種類の配置を作っていた。


《通り抜けやすい案》


《滞在しやすい案》


《店舗面積を広く取る案》


画面の中で、子どもが説明している。


音声は小さかった。


陽菜は身を乗り出して見ていた。


「これやりたい」


「こういうの好きだもんな」


悠真が言う。


「家だけじゃないのがいい」


「道もあるから?」


「道もあるし、人がどこにいるか考えるの」


映像が切り替わる。


公園の模型。


入口が二つある。


中央に遊具。


端に小さな屋根。


別の案では、遊具の位置が変わり、入口からベンチまでの距離が短くなっていた。


陽菜が画面を指す。


「こっちの方がいい」


「何で?」


「入口から座るところ近いから」


「でも遊具から遠いぞ」


「遊ぶ人じゃない人もいるじゃん」


悠真は画面を見る。


以前、家で作っていた模型を思い出すまでもなかった。


陽菜は前から、そういうところを見ていた。


「面白そうだな」


「うん」


陽菜が笑う。


紹介映像が終わった。


《参加を希望しますか》


その項目には、


《本人希望 確認済み》


と表示されている。


下に保護者欄がある。


《保護者確認》


《承認》


《後で確認》


美咲が悠真を見る。


「どうする?」


悠真は画面を見た。


条件をもう一度開く。


週二回。


放課後。


帰宅は少し遅くなる。


睡眠には影響しない。


学校も変わらない。


模型教室も続けられる。


月に二度、真央と同じ時間に参加できない可能性がある。


それだけだった。


「陽菜」


「なに?」


「本当にやりたい?」


「うん」


「結構忙しくなるぞ」


「週二回でしょ?」


「宿題もある」


「家でも模型作ってるよ」


「それは好きでやってるからだろ」


「これも好きだと思う」


「まだやってないだろ」


「だからやってみたい」


陽菜は笑っていた。


困っている様子はない。


「真央ちゃんとは?」


「模型教室で会うよ」


「今より減るだろ」


「二回は一緒でしょ?」


「月に、な」


「学校でも会うよ」


悠真は続けようとしてやめた。


陽菜が首を傾げる。


「何?」


「いや」


美咲が訊く。


「何か気になる?」


「……少し考えてからでもいいんじゃないか」


陽菜は画面から顔を上げた。


嫌そうな顔ではなかった。


怒ってもいない。


ただ、分からないという顔だった。


「何を?」


悠真はすぐには答えなかった。


「だから、その……」


画面を見る。


参加条件。


日程。


移動。


学校。


模型教室。


送迎。


どれも書いてある。


「予定とか」


「見たよ」


「忙しくならないかとか」


「大丈夫って出てる」


「出てるっていうか」


「宿題も今と同じくらいだって先生言ってた」


「途中で嫌になったら?」


「辞められるよ」


陽菜が画面を開く。


《参加後》


《本人希望による終了可能》


《学校評価への不利益なし》


《再参加 空き状況により可能》


「ほら」


「そうだな」


「ほかに?」


悠真は答えなかった。


陽菜も急かさなかった。


少し待ってから、もう一度訊いた。


「何を考えるの?」


声は同じだった。


知りたいだけだった。


悠真は画面を見た。


美咲も何も言わない。


蓮は床で玩具を並べている。


蒼は少し離れたところで、自分の端末を見ていた。


家の中は、いつもの夜だった。


「……別に、今じゃなくてもいいだろ」


悠真が言った。


「うん」


陽菜は簡単に頷いた。


「じゃあ明日でもいいよ」


端末を閉じる。


「お風呂入ってくる」


「宿題は?」


「終わってる」


「早いな」


「今日は少なかった」


陽菜は端末を食卓へ置き、廊下へ出ていった。


美咲がその背中を見送る。


「やりたいって言うと思った」


「知ってたのか?」


「案内見た時に」


「何で?」


「好きそうじゃない」


悠真は返事をしなかった。


食卓の上に置かれた陽菜の端末には、まだ参加案内が開いている。


《本人希望 確認済み》


《保護者確認 未完了》


その下に、


《確認期限 七月十日》


と表示されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ