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静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


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第18話 離れた人々 Part2 同じ方向

十五時四十分。

相川市から、西部地域の設備再編案について確認依頼が入った。

《地域設備需要再編》

《確認項目》

《生活圏変化を踏まえた設備更新優先順位》

悠真は資料を開く。

地域ごとの需要変化が、五年分並んでいた。

北部。

中心部。

南側住宅地。

隣接自治体境界。

数値の増減だけなら、さっき見たものと同じだった。

今回は、その横に生活条件の集計が付いている。

《居住地変更》

《就労地変更》

《生活支援利用》

《主要移動手段変更》

《家族構成変化》

岸本が画面を覗いた。

「今日ずっと人の移動見てますね」

「需要再編だからな」

「設備の話なのに」

「設備だけ動くわけじゃないだろ」

悠真は中心部を開いた。

《流入要因》

《就労利便性》

《公共交通接続》

《生活支援施設近接》

《医療アクセス》

《行政手続拠点近接》

その下に、

《主な流入元》

がある。

北部生活圏。

西側住宅地。

隣接自治体。

市外。

「ばらばらですね」

岸本が言った。

「ああ」

悠真は別の中心拠点を開く。

こちらも似ていた。

駅。

診療所。

生活支援窓口。

公共施設。

小規模商業。

必要なものが近い場所ほど、流入が続いている。

家族の近く。

職場の近く。

郊外。

市外。

画面上では、それぞれ別の行になっていた。

「これ、何を見るんです?」

岸本が訊いた。

「自治体側が、転居支援を設備計画に含めていいか確認したいらしい」

「含める?」

「今後も同じ傾向が続く前提で更新規模を決めるかどうか」

「本人が選んで移ったなら、いいんじゃないですか?」

「予測に使うなら、理由も見る」

悠真は一件開いた。

《変更前》

《居住 北部生活圏》

《就労 市外》

《公共交通利用 低》

《生活支援利用 なし》

《変更後》

《居住 中心生活圏》

《就労 市内》

《公共交通利用 高》

《生活支援利用 あり》

《転居候補》

《現住所継続》

《中心生活圏》

《隣接自治体》

《就労先周辺》

《本人選択 中心生活圏》

候補は残っている。

選んだ履歴もある。

悠真は次を開く。

《本人選択 現住所継続》

転居していない。

その次。

《本人選択 隣接自治体》

さらに次。

《本人選択 就労先周辺》

「結構ばらけてますね」

「そうだな」

岸本が少し画面を送る。

「でも、支援拠点の近くに移る人、多くないです?」

悠真は集計を開いた。

《生活支援利用者 転居後生活圏》

《支援拠点近接圏 41.3%》

《就労近接圏 26.8%》

《家族近接圏 18.6%》

《その他 13.3%》

「四割くらい」

「多い」

「使うなら近い方が楽だろ」

「まあ」

岸本はそれ以上言わなかった。

悠真も集計を閉じる。

十六時十分。

自治体側との短いオンライン確認が始まった。

参加者は五人。

相川市の設備担当。

生活支援担当。

東央商事の課長。

悠真。

岸本。

相川市側の担当者が資料を共有する。

「今回確認したいのは、北部設備更新の縮小幅です」

《現行案》

《更新容量 現状比九二%》

《代替案》

《更新容量 現状比八七%》

「八七まで下げても供給条件は満たします」

悠真が言う。

「ただし、生活圏変更の継続率をどこまで前提に置くかで余裕率が変わります」

市の生活支援担当が答える。

「今後三年は、現状傾向を維持すると見ています」

「根拠は?」

課長が訊いた。

《生活支援利用後 居住選択》

《過去三年》

《現住所継続 56.9%》

《転居 43.1%》

岸本が小さく息を吐いた。

四割を超えている。

ただし、転居先は一つではない。

《転居先内訳》

《市内中心生活圏》

《市内他地区》

《隣接自治体》

《その他》

市の担当者が続ける。

「転居を推奨しているわけではありません」

誰も何も言わない。

「現住所継続も同じ候補群に残しています。本人希望と生活条件を確認した上で提示順を調整しています」

悠真は表示を見る。

《候補表示条件》

《通勤負担》

《支援アクセス》

《家族支援》

《住居費》

《移動負担》

《医療アクセス》

《本人希望履歴》

「表示順は個別ですか?」

悠真が訊いた。

「はい」

「全員に中心部を上に出してるわけじゃない?」

「違います」

市の担当者はすぐ答えた。

「たとえば家族支援を優先している人には、中心部が上位に出ない場合もあります」

岸本が資料を見る。

「それでも中心部が増えてる」

市の担当者が頷いた。

「結果としては」

その言葉だけが残った。

十六時二十五分。

相川市側が追加資料を開く。

《支援後生活安定率》

《現住所継続 68.4%》

《転居 84.7%》

課長が画面を見る。

「差が大きいですね」

「はい」

生活支援担当が答える。

「ただし、転居したから安定した、という因果までは確定していません」

《注意》

《群間条件差あり》

《支援内容差あり》

《本人選択差あり》

《単純因果解釈不可》

悠真は数字を確認する。

「設備計画としては、傾向だけ使う?」

「そのつもりです」

「じゃあ八七は少し攻めすぎる」

課長が言った。

悠真も同意した。

「九〇くらいで残した方がいいと思います」

《更新容量 現状比九〇%》

市側の担当者が入力する。

「理由は?」

「生活圏変更が続いても、転居しない人は残るからです」

悠真が答えた。

《設備側意見》

《継続居住世帯への余裕確保》

《生活圏変更予測の不確実性を考慮》

《更新容量九〇%を推奨》

市の担当者が頷く。

「では、その案で内部確認します」

最終決定は相川市側に戻った。

会議が終わる。

岸本が椅子にもたれた。

「四割か」

「全体じゃなくて、あの集計の対象だけな」

「分かってます」

岸本は、閉じた資料をもう一度見た。

「移った人の方が安定率、高いんですよね」

「単純比較できないって書いてあっただろ」

「はい」

岸本は頷いた。

悠真は次の業務へ切り替えようとした。

その時、相川市の資料一覧に別の項目が見えた。

《支援終了後 生活圏》

《継続追跡対象》

設備担当には詳細権限がない。

ただし、集計だけは見られる。

悠真は開いた。

《支援終了後一年》

《支援開始時と同一生活圏 62.1%》

《別生活圏 37.9%》

その下に、

《支援終了後三年》

がある。

《同一生活圏 51.6%》

《別生活圏 48.4%》

岸本も見た。

「増えてる」

「ああ」

「支援終わった後も?」

「そうみたいだな」

《別生活圏》

という言葉だけでは、どこへ行ったか分からない。

同じ市内かもしれない。

隣の自治体かもしれない。

仕事の近くかもしれない。

家族の近くかもしれない。

悠真は内訳を開く。

《生活圏変更理由》

《就労》

《家族》

《住居》

《支援アクセス》

《本人希望》

割合は表示されていなかった。

設備確認には不要だからだろう。

悠真は閉じた。

十七時。

北部設備更新案を保存する。

《推奨》

《更新容量 現状比九〇%》

《理由》

《需要減少傾向》

《生活圏変更継続》

《継続居住需要を考慮》

《将来変動余地を確保》

《設備側確認 佐伯悠真》

保存。

その直後、地図の表示が更新された。

北部の色が少し薄くなる。

中心部は変わらない。

隣接自治体境界の交通設備だけ、わずかに濃くなった。

岸本が立ち上がる。

「今日は人を動かして、設備も動かしましたね」

「俺は設備しか動かしてない」

「人が先に動いたからでしょう」

悠真は地図を見る。

「そうだな」

それだけ答えた。

地図の上では、

どこから誰が来たのかは見えない。

どこへ誰が行ったのかも見えない。

薄くなった場所と、

濃くなった場所だけが残っていた。


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