第18話 離れた人々 Part1 戻った生活
月曜日の午後。
悠真は、相川市を含む西部地域の需要予測を地図上に重ねていた。
住宅。
商業施設。
交通結節点。
公共施設。
蓄電設備。
色の濃さで、三年後までの需要変化が表示されている。
相川市の北部は、以前より少し薄い。
代わりに中心部と駅周辺が濃くなっていた。
《地域設備需要再編》
《対象期間 2038年度下期》
《住宅需要 北部 減少》
《生活支援施設需要 中心部 増加》
《公共交通需要 中心部 増加》
《地域蓄電需要 中心部 増加》
「思ったより動いてますね」
岸本が隣から地図を見る。
「人が?」
「需要です」
「同じようなもんだろ」
「設備の人がそれ言っていいんですか」
「人が住んでなきゃ需要も出ない」
悠真は北部を拡大した。
住宅需要の減少は急ではない。
数年かけて少しずつ下がっている。
一方で、中心部は逆だった。
特に単身向け住宅。
生活支援拠点。
診療所。
公共交通。
数字が同じ方向へ動いている。
《要因候補を表示》
悠真は開いた。
《世帯構成変化》
《就労地変更》
《高齢世帯転居》
《支援利用開始》
《生活圏変更》
一番下を開く。
《生活圏変更》
《転居》
《就労先変更》
《通学先変更》
《日常利用施設変更》
どれも珍しくない。
「これ、設備側で全部見るんですか?」
岸本が訊いた。
「全部じゃない。需要に効いてるやつだけ」
悠真は表示を切り替えた。
《生活条件対照確認》
金曜日に追加された項目だった。
《変更前》
《変更後》
二列が並ぶ。
最初の事例。
《変更前》
《居住 北部生活圏》
《就労 市外》
《主な移動 自家用車》
《支援利用 なし》
《変更後》
《居住 中心生活圏》
《就労 中心生活圏》
《主な移動 公共交通》
《支援利用 あり》
《本人選択確認 済》
悠真は設備影響を見る。
《住宅需要 減少》
《公共交通需要 増加》
《地域施設需要 増加》
《整合 確認》
を押した。
次。
《変更前》
《居住 北部生活圏》
《就労 中心生活圏》
《変更後》
《居住 北部生活圏》
《就労 なし》
《生活支援利用 あり》
《本人選択確認 済》
住宅需要はほとんど変わらない。
交通需要だけが下がっている。
三件目。
《変更前》
《居住 北部生活圏》
《就労 市外》
《変更後》
《居住 他自治体》
《就労 他自治体》
《転居支援利用 あり》
《本人選択確認 済》
悠真の指が止まった。
「相川から出てる人もいるんですね」
岸本が言う。
「ああ」
「転居支援?」
「そうみたいだな」
詳細を開く。
《転居理由》
《就労条件との適合》
《生活支援アクセス》
《通勤負担軽減》
《本人希望》
候補は複数提示されていた。
現在地継続。
相川市中心部。
隣接自治体。
就労先周辺。
選ばれたのは隣接自治体だった。
「市としては困らないんですか」
岸本が訊いた。
「一人転居したくらいで?」
「一人なら」
悠真は一覧へ戻った。
同じ分類が、まだ続いている。
四件。
五件。
六件。
居住地を変えた人。
仕事を変えた人。
休職していた人。
勤務時間を減らした人。
家族の近くへ移った人。
どれも本人確認済みだった。
どれも、選択肢は一つではない。
悠真は集計へ切り替えた。
《生活支援後 主要生活条件変更》
《対象 西部地域》
《就労条件変更 18.4%》
《居住地変更 11.7%》
《勤務形態変更 22.1%》
《生活支援利用開始 31.6%》
《主要生活圏変更 14.2%》
「結構変わりますね」
岸本が言った。
「支援受けた後なら、そういうこともあるだろ」
「生活立て直してるってことですか」
「じゃないか」
画面の上に、別の集計が出ている。
《支援後状態》
《安定 76.8%》
《改善傾向 15.1%》
《継続確認 6.4%》
《再支援 1.7%》
岸本が数字を見る。
「かなり良いですね」
「ああ」
《安定 76.8%》
数字だけなら、うまくいっている。
悠真は次の事例を開いた。
《支援前》
《居住 同一地域 十二年》
《就労 同一事業所 九年》
《家族 同居》
《支援後》
《居住 別地域》
《就労 別事業所》
《家族 同居》
《本人選択確認 済》
住宅需要。
交通需要。
施設需要。
すべて、変更後の生活と一致している。
《整合 確認》
悠真は押した。
次へ進む。
*
十五時十分。
西部地域全体の再編案がまとまった。
《地域設備需要再編》
《住宅系》
《北部 二系統縮小》
《中心部 一系統増強》
《公共交通連携設備》
《三地点増強》
《生活支援施設周辺》
《蓄電容量増強 二地点》
設備としては自然な変更だった。
人が多く使う場所へ、設備を寄せる。
利用が減った場所では、更新規模を抑える。
課長が画面を見る。
「北部、もう一段落とせる?」
「予測上は」
「余裕率は?」
「一八・六パーセント残ります」
「なら候補に入れて」
「分かりました」
悠真は北部の系統を一つ選択する。
《更新規模 縮小》
その直前に、生活条件表示が小さく出た。
《主要生活圏変更》
《継続傾向》
悠真は詳細を開かず、そのまま設備条件を確認した。
《供給余裕 適》
《災害時冗長性 適》
《将来増設余地 確保》
《候補追加》
課長側の画面へ反映される。
「これでいい」
「はい」
「最終決定は自治体と設備側協議後」
「分かってます」
悠真は資料を閉じようとした。
その時、画面の隅に、
《参考》
が一件表示された。
《急落事象関連》
悠真は手を止めた。
設備需要確認の対象になった記録だった。
個人情報はない。
事例番号も表示されていない。
《生活条件対照確認 適用》
その下に、
《主要生活圏変更 あり》
とだけあった。
悠真は開く。
《変更種別》
《居住地》
《就労条件》
二つ。
詳細は担当範囲外だった。
「何かありました?」
課長が訊いた。
「いえ」
悠真は画面を戻した。
地域全体の地図が再び表示される。
北部から中心部へ。
中心部から別の自治体へ。
仕事の近くへ。
家族の近くへ。
必要な支援の近くへ。
地図上では、すべて需要の移動として表示されていた。
悠真は北部系統の縮小案を、提出候補へ入れた。




