第17話 未統合の一文 Part3 残らない表示
十八時十二分。
退勤前の業務一覧に、一件だけ確認が残っていた。
《担当履歴引継ぎ》
《未統合情報 一件》
昨日から見ていた表示だった。
ただ、状態が変わっている。
《統合済み》
《取扱確認待ち》
悠真は開いた。
《旧担当者作業メモ》
《統合先 設備需要確認手順》
《反映済み》
《原文保持 履歴領域》
その下に、最後の処理がある。
《引継ぎ完了確認》
《統合内容を確認し、後続業務に必要な情報が正式手順へ反映されていることを確認してください》
悠真は新旧を並べた。
左。
《数値ではなく、変更前後の生活を比較すること》
右。
《設備需要に変化が確認された場合、関連する生活条件について変更前後を対照確認する》
同じではない。
だが、仕事で何をすればいいかは右の方が分かりやすい。
対象範囲もある。
表示条件もある。
個人情報の扱いも決まっている。
悠真は下へ送った。
《反映内容》
《居住状態》
《就労・通学条件》
《主要移動条件》
《生活支援利用》
《地域施設利用》
《設備利用条件》
《追加取得情報 なし》
《設備需要確認以外への転用 不可》
最後に、
《確認》
がある。
悠真は押した。
《引継ぎ処理を完了しますか》
《完了》
《戻る》
《完了》
画面が切り替わる。
《担当履歴引継ぎ》
《完了》
昨日から残っていた通知が消えた。
「終わった?」
岸本が訊いた。
「ああ」
「一文のやつ」
「手順に入った」
「元の文は?」
「履歴」
「じゃあ、もう通知には出ない?」
悠真は業務一覧へ戻る。
ない。
《未統合情報》
も、
《確認待ち》
も消えている。
「出ないな」
「探せばある?」
「履歴からなら」
「探さなかったら?」
「見ない」
岸本は一度頷いた。
「手順だけ使う」
「ああ」
「それで仕事できる?」
「できる」
「じゃあ、そうなりますね」
岸本は端末を閉じた。
悠真もそれ以上は開かなかった。
*
十八時二十七分。
帰ろうとしたところで、設備計画課の共有欄に短い質問が入った。
《手順改訂について》
《生活条件対照確認の適用範囲を確認したい》
送信者は、別チームの社員だった。
悠真は席に戻る。
《質問内容》
《設備需要変化が軽微な場合も対照確認が必要ですか》
改訂された手順を開く。
《適用条件》
《予測値または実測値に一定以上の変化が確認された場合》
その下に閾値が設定されている。
悠真は返信した。
《軽微変化は対象外です》
《適用条件欄の閾値を超えた場合のみ確認してください》
数十秒後に返る。
《確認しました。ありがとうございます》
それだけだった。
相手は、元のメモを見ていない。
見る必要もなかった。
《数値ではなく》
という書き出しを知らなくても、新しい手順は使える。
悠真は共有欄を閉じた。
*
翌週分の作業予定を確認していると、改訂履歴が一覧へ追加されていた。
《設備需要確認手順》
《改訂 38-07-09-02》
《変更理由》
《確認精度向上》
《変更内容》
《生活条件対照確認を追加》
《提案》
《佐伯悠真》
《確認》
《基盤運用統括室》
《承認》
《設備計画課責任者》
悠真は一度だけ画面を送った。
旧担当者作業メモへのリンクは、通常表示にはなかった。
履歴を開けば確認できる。
悠真は改訂履歴を閉じた。
*
エレベーターを待っていると、岸本が隣に立った。
「結局、どうだったんです?」
「何が?」
「昨日から見てた一文」
「普通だったよ」
「普通なのに、手順変わった」
「使えたからな」
扉が開く。
一階へ降りる途中、悠真の端末が振動した。
《設備需要確認》
《生活条件対照確認 対象》
改訂された項目が、もう付いている。
《確認期限 翌営業日》
悠真は通知を閉じた。
*
翌朝。
別の社員が設備需要確認を開く。
《生活条件対照確認》
《変更前》
《変更後》
画面の下に、確認対象が並んでいる。
その社員は一つずつ確認し、
《整合 確認》
を押した。
元の一文を開く必要はなかった。
第17話 完




