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静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


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第17話 未統合の一文 Part2 手順にする言葉


十一時四十分。

基盤運用統括室から返信が届いた。

《未統合メモ 取扱確認》

《確認結果》

《設備需要確認手順への統合 適》

《原文のままでは確認範囲が広いため、設備影響に関連する生活条件へ限定する》

《正式反映には担当責任者承認が必要です》

その下に、修正文案が付いている。

《設備需要に変化が確認された場合、関連する生活条件について変更前後を対照確認する》

悠真は二度読んだ。

意味はほとんど変わっていない。

ただ、

《数値ではなく》

が消えている。

「返ってきたんですか?」

岸本が訊いた。

「ああ」

「入る?」

「入れていいって」

悠真は修正文案を共有した。

岸本が読む。

「普通ですね」

「普通だな」

「昨日の一文は?」

「これ」

悠真は元のメモも開いた。

《数値ではなく、変更前後の生活を比較すること》

岸本は二つを並べた。

《数値ではなく、変更前後の生活を比較すること》

《設備需要に変化が確認された場合、関連する生活条件について変更前後を対照確認する》

「長くなりましたね」

「手順だからな」

「でも、ちょっと違う」

悠真が横を見る。

「どこが?」

「最初のは、数値を見るなって感じがする」

「見るなとは書いてない」

「数値ではなく、って書いてありますよ」

「数値だけじゃなく、って意味だろ」

「そう読んだんですか?」

「ああ」

「私は、先に生活を見ろって感じに読めました」

悠真は二つの文章へ目を戻した。

確かに、原文だけならそうも読める。

だが設備需要の確認手順として扱うなら、数値を見ないという意味にはできない。

需要変化を確認する仕事で、数値を外す理由がない。

「だから、そのまま手順にはできないんだろ」

「曖昧だから?」

「そう」

岸本が頷いた。

「じゃあ、こっちなら誰が読んでも同じになる」

「それが手順だろ」

「でも、元の人が言いたかったことと同じかは分からない」

悠真は答えなかった。

統括室からの返信には続きがある。

《原文作成者への追加照会》

《不要》

《理由》

《既存資料および関連確認履歴から、業務上必要な範囲を特定可能》

《原文の意図推定は統合要件に含まれません》

岸本もそこを読んだ。

「意図推定は要らない」

「ああ」

「すごい言い方」

「正しいだろ」

「仕事としては」

岸本はそう言って、自分の画面へ戻った。

十三時十五分。

悠真は統合案の確認画面を開いた。

《設備需要確認手順 改訂案》

《追加項目》

《生活条件対照確認》

《適用条件》

《予測値または実測値に一定以上の変化が確認された場合》

《確認対象》

《居住状態》

《就労・通学条件》

《主要移動条件》

《支援利用》

《地域施設利用》

《設備利用条件》

《表示範囲》

《設備需要確認に必要な範囲のみ》

《個別評価には使用しない》

最後に、

《提案者 佐伯悠真》

《確認部署 基盤運用統括室》

《承認者 設備計画課責任者》

とある。

悠真は課長を呼んだ。

「これ、確認お願いできますか」

課長が自席から画面を開く。

「昨日の引継ぎ?」

「未統合メモです」

「内容は?」

「設備需要を見る時に、変更前後の生活条件も対照するようにする案です」

課長はしばらく黙って読んだ。

「今までも似たことは見てるよな」

「項目ごとには」

「何が変わる?」

「一つの画面で前後を並べます」

「追加情報は?」

「増やしません。今見られる範囲だけです」

「確認工数は?」

悠真が試算を開く。

《平均追加確認時間》

《一件あたり 一分四十秒》

《対象見込み》

《全設備需要確認の一八・三パーセント》

課長は数字を見る。

「これならいいか」

「承認します?」

「一応、実装側の確認も通してから」

「統括室は適で返してます」

「じゃあ承認する」

課長が画面へ触れる。

《責任者承認》

《承認済み》

《手順反映処理へ送信》

それだけだった。

警告も出ない。

追加会議もない。

《反映予定 本日十八時》

画面が閉じる。

「元のメモはどうなる?」

課長が訊いた。

「統合済みになります」

「本文は残る?」

「履歴には」

「ならいい」

課長は次の資料へ移った。

十四時二十分。

別件の設備需要確認が入った。

新しい手順はまだ反映前だったが、悠真は試験表示を使うことができた。

《生活条件対照表示 試行》

対象は通常支援事例だった。

《設備需要変化》

《家庭電力 減少》

《給湯需要 減少》

《地域施設電力 増加》

右側に生活条件が並ぶ。

《変更前》

《単身》

《在宅勤務 週四日》

《地域施設利用 少》

《変更後》

《単身》

《出社勤務 週三日》

《地域施設利用 増》

数値を見た時点で、設備側の変化は分かっていた。

生活条件を並べると、その変化が何によるものかも早く分かる。

悠真は確認欄へ入力する。

《需要変化と生活条件の整合 確認》

《追加照会 不要》

三十秒ほどで終わった。

「使えそうですか?」

岸本が訊く。

「使える」

「昨日の人、いいこと書いてたんですね」

「まあな」

「名前残るんです?」

悠真は履歴を開いた。

《作業メモ》

《統合処理中》

《作成者 旧担当者》

《統合先 設備需要確認手順》

「今は出てる」

「反映されたら?」

「履歴には残るんじゃないか」

「通常画面では?」

悠真は説明欄を見る。

《統合完了後》

《原文は履歴領域へ移動》

《通常手順画面には統合後表現のみ表示》

「手順からは見えなくなる」

「へえ」

岸本は少し考えた。

「じゃあ、後から入った人は知らないんですね」

「何を?」

「誰が最初に書いたか」

「知る必要ないだろ」

「まあ、そうなんですけど」

悠真は試行画面を閉じた。

確かに、手順を使うだけなら必要ない。

誰が気づいたか。

どういう言葉で書いたか。

その人が何を考えていたか。

設備需要を確認する社員に必要なのは、確認方法だけだった。

十七時五十六分。

反映通知が届いた。

《設備需要確認手順》

《改訂完了》

《改訂番号 38-07-09-02》

《追加》

《生活条件対照確認》

悠真は新しい手順を開く。

《設備需要に変化が確認された場合、関連する生活条件について変更前後を対照確認する》

午前中に見た文案そのままだった。

その下には確認対象が並んでいる。

居住状態。

就労・通学。

移動。

支援利用。

地域施設。

設備利用。

どこにも、

《数値ではなく》

という言葉はない。

悠真は検索欄へ入力した。

《数値ではなく》

該当なし。

手順内には出てこない。

次に、

《変更前後の生活を比較すること》

と入力する。

該当なし。

《履歴を含めて検索》

へ切り替える。

一件。

《旧担当者作業メモ》

《統合済み》

開く。

《数値ではなく、変更前後の生活を比較すること》

そこには残っていた。

「消えてない」

悠真が言う。

岸本が振り向く。

「何が?」

「元の文」

「探したんですか?」

「一応」

「珍しい」

「何が」

「必要ないのに」

悠真は画面を見る。

通常の手順からは見えない。

検索範囲を履歴まで広げれば出てくる。

削除されたわけではない。

誰でも見られるわけでもない。

必要な人が、必要な時に探せる。

それだけだった。

「残ってるならいいじゃないですか」

岸本が言った。

「ああ」

悠真は履歴を閉じた。

通常画面へ戻る。

《生活条件対照確認》

新しい項目が一つ増えていた。

元の一文より長い。

対象範囲も明確だった。

誰が読んでも、同じ作業ができる。

悠真はそのまま画面を閉じた。


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