↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静国 -Silent Dominion-  作者: はやぽん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/85

第12話 七件 Part2 共通点

《再計算確認》

悠真は項目を開いた。

《対象事象 七件》

《再計算実施 七件》

《再計算結果 一致 七件》

一行ずつ読んだ。

七件すべて。

Case-04だけではない。

四月十二日から二十四日の間に確認された急落事象は、すべて再計算しても同じ結果になっている。

隣の社員も画面を見た。

「全部?」

「ああ」

「七件とも?」

「そう書いてあります」

社員は自分の端末でも同じ表示を開いた。

《再計算結果 一致 七件》

「じゃあ、処理ミスじゃないんですね」

以前にも聞いた言葉だった。

悠真は画面を見る。

「少なくとも、同じ条件なら同じ結果になる」

「でも、一件くらい違ってもよさそうですけどね」

「何が?」

「異常なら」

悠真は少し考えた。

「再計算で変わる方が、システムとしては問題じゃないですか」

「ああ。確かに」

社員は笑った。

「同じ方が正常か」

「処理としては」

画面には注意書きが表示されている。

《再計算一致は、区分変更の個別要因を説明するものではありません》

《再計算一致は、生活支援区分変更の妥当性を単独で証明するものではありません》

悠真は二つ目を読み直した。

再計算して同じになる。

だから処理は再現できている。

それと、最初の区分変更が正しかったかどうかは別。

以前確認した通知にも、似た説明があった。

同じ入力。

同じモデル。

同じ基準時点。

同じ結果。

再計算とは、そこまでを確認する手続きだった。

「ちゃんと書いてありますね」

社員が言った。

「何が?」

「一致したから正しい、ではないって」

「ああ」

「じゃあ、七件とも理由は分からない?」

悠真は次の項目を開いた。

《急落要因》

《確認できず 七件》

二人とも黙った。

七件。

再計算一致。

重大な入力欠損なし。

重大な通信異常なし。

明確な生活上の急変なし。

急落要因、確認できず。

Case-04について見てきた条件が、すべて七件へ広がった。

「全部なんですね」

社員が言った。

「ああ」

「一件だけ、特殊な事例じゃなかった」

悠真は返事をしなかった。

正確には、七件それぞれが特殊なのかもしれない。

同じ原因だとは書かれていない。

同じモデル上の挙動だとも書かれていない。

共通しているのは、既存の確認手順では原因を説明できていないことだけだった。

画面の下に、新しい注意書きが出る。

《七件が同一原因によって発生したことを示すものではありません》

《相互の関連性は、本資料の確認対象ではありません》

「先回りして書かれてますね」

社員が言った。

「同じこと考える人が多いんだろ」

「佐伯さんも?」

「七件って並んだら、考えるだろ」

「ですよね」

社員はそこで話を切り、自分の作業へ戻った。

悠真は画面を下へ送った。

《共通確認事項》

その名称に対して、並んでいるものは奇妙だった。

《重大な通信異常なし》

《重大な入力欠損なし》

《明確な生活上の急変確認できず》

《再計算結果 一致》

《急落要因 確認できず》

何かが共通して「ある」のではない。

確認したものが、見つからなかった。

異常がない。

欠損がない。

原因になる生活変化がない。

処理をやり直しても変わらない。

それでも結果だけが大きく変化している。

悠真は項目名へ触れた。

《共通確認事項について》

説明が表示される。

《本項目は、七件に共通する原因を示すものではありません》

《現在までに共通して確認された調査状態を整理したものです》

「調査状態」

悠真は小さく読んだ。

原因ではない。

七人に共通する生活条件でもない。

七件とも、同じところまで調べても理由が分からない。

その状態が共通している。

それだけだった。

《追加確認》

《監査局 継続中》

《アルゴ開発課 継続中》

《関係機関検証 継続中》

調査は止まっていない。

七件あると分かったからといって、放置されているわけではない。

むしろ、一件の時より調査範囲は広がっていた。

悠真は詳細を開こうとした。

《監査内容の詳細は、現在の担当業務には含まれません》

当然だった。

今日の仕事は設備影響。

七件の原因を調べることではない。

悠真は閉じた。

休憩を挟み、十五時三十分。

五人は再び会議区画へ集まった。

《資料分類・説明条件確認支援》

《完了確認》

三営業日の作業結果が壁面へ表示される。

《確認期間 六月二十八日から六月三十日》

《参加者 五名》

《設備・生活基盤記載確認 完了》

《修正提案 採用済み》

《未処理 〇件》

《追加設備対応 不要》

担当者が一項目ずつ確認していく。

「今回の確認支援で、設備需要記載に未解決の事項はありません」

画面に緑色の印が付く。

「本人向け通知に関する修正提案についても、所管部署への反映が完了しています」

悠真が提案した生活時間帯の表現も、その中に含まれていた。

「急落事象については、設備影響の確認を完了しました。監査そのものは継続します」

《設備影響確認》

《完了》

《急落事象調査》

《継続中》

二つの表示が並ぶ。

「設備側では終わりなんですね」

参加者の一人が尋ねた。

「今回の確認工程は終了です」

「急落事象に新しい結果が出た場合は?」

「設備条件へ影響する場合は、必要な担当部署へ改めて確認依頼が出ます」

「今回の参加者へ直接?」

「その時点の担当業務と適合条件によります」

悠真はその答えを聞いた。

一度関わったからといって、ずっと情報が届くわけではない。

必要になった時に、必要な人間へ渡される。

これまでと同じだった。

「最後に、確認事項があります」

担当者が画面を切り替える。

《担当終了後の情報取り扱い》

《個別資料への閲覧権限 終了》

《確認履歴 保存》

《業務上必要となった場合 再申請可能》

《調査継続通知 原則対象外》

「皆さんは監査担当ではありませんので、今後の調査経過は通常通知されません」

「七件についても?」

「はい」

「結果が出ても?」

「現在の担当業務に関係しなければ表示されません」

参加者は頷いた。

誰も異議を唱えなかった。

悠真も、それが普通だと思った。

個人情報を含む全国調査の経過を、過去に設備確認へ参加した社員へ送り続ける理由はない。

担当が終われば、情報も離れる。

それが情報管理だった。

《担当終了を確認しますか》

《確認》

悠真は押した。

《資料分類・説明条件確認支援》

《担当終了》

画面の灰色の枠が消えた。

三日前まで存在していた資料一覧もなくなる。

業務予定へ戻る。

《十六時 設備保守契約確認》

《十七時 相川市詳細設計進捗共有》

いつもの仕事だった。

「終わりましたね」

会議区画を出ながら、隣の社員が言った。

「ああ」

「七件って聞いた時は、もう少し大きい話かと思いました」

「大きい話じゃないんですか?」

悠真が尋ねると、社員は少し困ったように笑った。

「分からないです」

「ですよね」

「全国で七件なら少ない気もしますし」

「ああ」

「でも、全部理由が分からない」

「そうですね」

「そのためにLevel-4で調べてる」

「はい」

「じゃあ、やることはやってるんでしょうね」

悠真もそう思った。

問題が見つかった。

調査する。

本人へ支援する。

異議を受ける。

再計算する。

設備影響を確認する。

原因が分からなければ、分からないまま調査を続ける。

制度ができることは、すでにかなり行われているように見えた。

「佐伯さんは、気になります?」

社員が尋ねた。

「七件ですか?」

「原因」

「ああ」

「調べたい?」

悠真は少し考えた。

「俺の仕事じゃないですから」

「そうですよね」

社員は笑った。

「自分もです」

エレベーターの前で別れた。

悠真は自席へ戻る。

岸本は、悠真が席へ着くなり尋ねた。

「終わりました?」

「ああ」

「三日間のやつ」

「終わった」

「何か分かりました?」

悠真は端末を起動する。

外部資料の画面はもうない。

確認履歴だけが残っていた。

《資料分類・説明条件確認支援》

《完了》

詳細は開けない。

「全国で七件ある」

岸本の手が止まった。

「何が?」

「急落事象」

「Case-04みたいなのが?」

「ああ」

「七件?」

「四月十二日から二十四日まで」

岸本は少しだけ眉を上げた。

「短くないですか?」

「十三日間」

「その後は?」

「分からない」

「七件で終わり?」

「それも分からない。今日の資料はその期間だけだった」

「七件とも、同じなんですか?」

悠真はその質問にすぐには答えなかった。

同じ。

その言葉が何を指すかで答えが変わる。

「二十四時間以内に区分が二段階以上落ちてる」

「はい」

「N-Indexも通常の日次変動を大きく超えてる」

「はい」

「大きな事故とか生活の変化は確認されてない」

「Case-04と同じですね」

「再計算も全部一致」

岸本の表情から、少しだけ笑いが消えた。

「七件全部?」

「ああ」

「原因は?」

「全部、確認できず」

岸本はしばらく黙った。

周囲では普通に仕事が続いている。

電話をしている者。

オンライン会議へ入る者。

給湯室から戻る者。

誰もこちらの話を気にしていない。

岸本が小さく言った。

「それって、共通してるってことですよね」

「調査状態は」

「調査状態?」

「同じ原因だとは書いてない」

「でも、七件とも理由が分からない」

「ああ」

「七件とも再計算は同じ」

「ああ」

「大きな生活変化もない」

「ああ」

岸本は自分で並べてから、画面を見た。

「十分似てません?」

「似てる条件を集めた調査だからな」

「そうか」

彼女はすぐに頷いた。

急落事象という条件で抽出したのだから、急落していること自体が共通するのは当然だった。

原因不明であることも、調査対象になる条件の一部。

七件を並べたことで初めて生まれた共通点とは限らない。

「じゃあ、七人に共通してるものは、まだ分からない?」

岸本が尋ねた。

「今日見た範囲ではな」

「年齢とか、仕事とかは?」

「表示されてない」

「住んでる場所?」

「地域単位まで。個別には分からない」

「家族?」

「見てない」

「何で急落したかも?」

「分からない」

岸本は小さく息を吐いた。

「分からないこと、多いですね」

「設備側だからな」

「それだけですか?」

悠真は岸本を見る。

「何が?」

「設備側だから見えないのか、調べても分かってないのか」

その違いはあった。

担当外で見えない情報。

監査局にもまだ分からない情報。

同じ《表示されない》でも、意味は違う。

今回については、

《急落要因 確認できず》

と明記されている。

そこだけは、権限の問題ではない。

「原因は、向こうも分かってない」

悠真が言った。

「そうですよね」

岸本は少し考えた。

「じゃあ、そこだけは同じですね」

「何が?」

「佐伯さんも、監査局も、本人も」

悠真は返事をしなかった。

少なくとも、本人向け通知には理由が確認中だと書かれていた。

監査局も調査継続中。

悠真も知らない。

立場は違う。

見えている資料も違う。

それでも、原因について持っている答えは同じだった。

分からない。

「でも、支援は続くんですよね」

岸本が言った。

「ああ」

「区分も?」

「少なくとも確認した資料では維持されてた」

「理由が分からなくても」

「ああ」

「合理的ではありますよね」

岸本の声には、皮肉はなかった。

「何かあるかもしれないなら、支援した方が安全だし」

「何もしないで待つよりはな」

「実際、支援は使われてる」

「ああ」

「設備も問題なく対応できてる」

「そうだな」

岸本は頷いた。

「じゃあ、今すぐ困ることはない」

「少なくとも設備側では」

「便利な言葉」

いつもの調子が少し戻った。

悠真も笑った。

「今回は本当に設備側の話だ」

「分かってます」

「またそれか」

「便利なので」

岸本は自分の仕事へ戻った。

悠真も設備保守契約の資料を開いた。

画面には、交換部品の納期と費用が並んでいる。

七件という数字は、もう表示されていなかった。

それでも、完全に消えたわけではなかった。

Case-04は一件ではなかった。

それだけは、もう知っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。