表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自己紹介。  作者: 無記名
7/13

第7話「声」

その日は、早めに部屋に戻った。


リビングにいるのが、少しだけ落ち着かなかったからだ。


***


ドアを閉める。


静かになる。


***


「……」


***


ベッドに座る。


深く息を吐く。


***


さっきのことは、考えない。


考えない方がいい。


***


「ねえ」


***


ドアの向こうから、声がした。


***


「……」


***


娘の声。


***


聞き慣れている、いつもの声。


***


「なに」


***


できるだけ普通に返す。


***


「今日さ」


***


少し間があって、続く。


***


「学校でさ」


***


「……うん」


***


「ちょっと面白いことあって」


***


「へえ」


***


会話は、普通だった。


***


いつも通りのやり取り。


***


「……」


***


少しだけ、安心する。


***


「ねえ」


***


「うん」


***


「聞いてる?」


***


「聞いてるよ」


***


そう答える。


***


ほんの少しだけ間があって。


***


「聞いてるよ」


***


もう一度、同じ声。


***


「……」


***


息が止まる。


***


今のは、言っていない。


***


「……なに?」


***


少し強めに返す。


***


沈黙。


***


数秒。


***


「聞いてるよ」


***


今度は、息子の声。


***


「……」


***


背中に、冷たいものが走る。


***


「……ふざけてるのか」


***


小さく呟く。


***


少し間。


***


「ふざけてるのか」


***


同じ言葉。


***


同じ抑揚。


***


「……」


***


喉が、ひりつく。


***


「……やめろ」


***


低く言う。


***


少し間があって。


***


「やめろ」


***


娘。


***


さらに遅れて。


***


「やめろ」


***


息子。


***


「……」


***


呼吸が、浅くなる。


***


そのとき。


***


「ねぇパパ」


***


娘の声。


***


「……」


***


一瞬、思考が止まる。


***


「ねぇパパ」


***


少し遅れて、息子。


***


「……」


***


「……なんだよ」


***


声が、かすれる。


***


少しの沈黙。


***


「自分の物語、書いてるんでしょ」


***


娘。


***


「……」


***


言葉が出ない。


***


すぐあとに。


***


「自分の物語、書いてるんでしょ」


***


息子。


***


「……」


***


心臓の音が、大きくなる。


***


「ねぇパパ」


***


娘。


***


「ねぇパパ」


***


息子。


***


今度は、ほとんど同時。


***


「……」


***


「……なにを言ってる」


***


声が震える。


***


そのあと。


***


少しだけ、間があって。


***


「ねぇ」


***


娘。


***


「ねぇ」


***


息子。


***


「ねぇ」


***


娘。


***


「ねぇ」


***


息子。


***


間隔が、少しずつ短くなる。


***


「ねぇ」


「ねぇ」


「ねぇ」


「ねぇ」


***


「……やめろ」


***


声が上ずる。


***


「ねぇパパ」


***


同時。


***


「……」


***


「自分の物語を書いて」


***


娘。


***


「どんな気持ち?」


***


息子。


***


「……」


***


息が、止まる。


***


「ねぇ」


***


娘。


***


「ねぇ」


***


息子。


***


「ねぇ」


***


娘。


***


「ねぇ」


***


息子。


***


「パパ?」


***


娘。


***


「パパ?」


***


息子。


***


「ねぇ」


***


同時。


***


「……やめろ」


***


声が震える。


***


その瞬間。


***


二人が、同時に言う。


***


「やめろ」


***


「……」


***


頭が、真っ白になる。


***


「……」


***


ゆっくりと、スマートフォンを手に取る。


***


画面を開く。


***


小説のページ。


***


「……」


***


一番下まで、スクロールする。


***


新しい一文。


***


「……」


***


——ねぇパパ、と呼ばれた。


***


「……」


***


その下。


***


「……」


***


——自分の物語を書いているのかと、聞かれた。


***


「……」


***


さらに。


***


「……」


***


——どんな気持ちか、と。


***


「……」


***


喉が、ひりつく。


***


そのとき。


***


ドアノブが、ゆっくりと回る。


***


カチ。


***


「……」


***


止まらない。


***


ゆっくりと、開く。


***


隙間。


***


暗い。


***


その奥。


***


二つの顔。


***


娘。


***


息子。


***


どちらも、こちらを見ている。


***


「……」


***


普通の顔。


***


いつも通りの顔。


***


「……」


***


そのまま。


***


同時に、口が動く。


***


「ねぇパパ」


***


「……」


***


「ちゃんと書いて」


***


「……」


***


息が、止まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ