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自己紹介。  作者: 無記名
6/13

第6話「家族」

その日は、できるだけ普通に過ごそうとした。


昨日のことは、考えないようにする。


考えれば、考えるほど、おかしくなる気がしたからだ。


***


仕事は、特に問題なく終わった。


ミスもないし、変なことも起きていない。


いつも通りだ。


***


「……」


***


帰り道、少しだけ遠回りをした。


理由はない。


ただ、すぐに帰るのが嫌だった。


***


「……」


***


家の前に立つ。


見慣れたドア。


変わらないはずの景色。


***


「……」


***


鍵を開ける。


***


「ただいま」


***


中に入る。


***


「おかえり」


***


すぐに返事がある。


***


いつも通り。


***


何もおかしくない。


***


「……」


***


靴を脱いで、リビングに入る。


***


テレビがついている。


音が流れている。


***


家族がいる。


***


「……」


***


普通だ。


***


何も変わっていない。


***


そう思う。


***


「今日、遅かったね」


***


声をかけられる。


***


「……まあ、ちょっと」


***


適当に返す。


***


「ふーん」


***


それだけで会話は終わる。


***


いつも通りだ。


***


「……」


***


椅子に座る。


***


食事が用意されている。


***


箸を手に取る。


***


「……」


***


ふと、顔を見る。


***


「……」


***


見慣れているはずの顔。


***


毎日、見ているはずの顔。


***


「……」


***


少しだけ、違和感がある。


***


「……」


***


どこが、とは言えない。


***


でも。


***


「……」


***


「……誰だっけ」


***


思考が、一瞬止まる。


***


「……」


***


すぐに、首を振る。


***


「……いや」


***


そんなはずはない。


***


家族だ。


***


毎日顔を合わせている。


***


「……」


***


もう一度、見る。


***


やっぱり、見覚えはある。


***


あるはずなのに。


***


名前が、出てこない。


***


「……」


***


喉の奥が、乾く。


***


「どうしたの?」


***


声をかけられる。


***


「……いや、なんでもない」


***


慌てて答える。


***


「……」


***


食事を口に運ぶ。


***


味は、いつも通りだ。


***


「……」


***


テレビの音が、少しだけ遠く感じる。


***


会話は続いている。


***


でも、内容が頭に入ってこない。


***


「……」


***


目の前にいる“家族”。


***


見た目は、変わっていない。


***


声も、変わっていない。


***


それなのに。


***


「……」


***


名前が、分からない。


***


「……」


***


スマートフォンのことが、頭をよぎる。


***


あの文章。


***


「……」


***


ゆっくりと、スマートフォンを取り出す。


***


机の下で、画面を開く。


***


小説のページ。


***


「……」


***


一番下まで、スクロールする。


***


昨日の続き。


***


——いま、見ていない。

——いま、怖いと思っている。

——でも、まだやめていない。


***


その下。


***


新しい一文。


***


「……」


***


——いま、家族と食事をしている。


***


「……」


***


息が、止まる。


***


視線を、ゆっくりと上げる。


***


目の前の人物。


***


こちらを見ている。


***


「……」


***


笑っている。


***


「……」


***


誰だ。


***


「ねえ」


***


声がする。


***


「……」


***


「どうしたの?」


***


「……」


***


答えられない。


***


「……」


***


もう一度、スマートフォンを見る。


***


新しい一文。


***


増えている。


***


「……」


***


——目の前の人の名前を思い出せない。


***


「……」


***


手が、震える。


***


「……」


***


そのとき。


***


ふと、違和感に気づく。


***


「……」


***


画面の中の文章。


***


今までは、ずっと“家族”と書かれていた。


***


でも。


***


「……」


***


最後の一文。


***


そこには、“家族”という言葉がない。


***


「……」


***


——目の前の人の名前を思い出せない。


***


「……」


***


目の前の人物を見る。


***


相手も、こちらを見ている。


***


「……」


***


ゆっくりと、口が動く。


***


「ねえ」


***


「……」


***


「わたしのこと」


***


「……」


***


少しだけ、首を傾げる。


***


「……」


***


「誰だと思ってるの?」


***


「……」


***


空気が、止まる。


***


音が、消える。


***


「……」


***


テレビの音も。


***


食器の音も。


***


何も聞こえない。


***


「……」


***


ただ。


***


目の前の人物だけが、こちらを見ている。


***


「……」


***


笑っている。


***


ずっと。

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